田辺三菱製薬 新本社ビル・加島オフィス棟(中編)
[2011年8月〜2012年6月]提案を引き出す、発注図書の構築
私たちが果たさなくてはいけないのは、
コンセプトや事業計画を施設に置き換えるための橋渡し。
翻訳は常に意識しています。(野村)
山下グループを選ばれた理由は、どういったところにあったのでしょうか。
- 西
- 決め手となったのは30代、40代中心の若いプロジェクトメンバーで、コミュニケーションが取りやすいと感じたこと。そしてプロジェクトのフェーズごとの管理手法の資料の種類が豊富で、かつ素人でもわかりやすいよう工夫されていたことですね。
- 野村
- 私たちが果たさなくてはいけないのは、コンセプトや事業計画を施設に置き換えるための橋渡しをする役割です。専門用語をそのまま使うようでは私たちがいる意味がないので、翻訳は常に意識しています。
- 山内
- 特に今回はがんばっていただいたのではないでしょうか。設計会議には通常、建築のことをそれなりにわかっている方が参加するのではないかと思いますが、今回弊社で主に携わった6名のうち技術系は半分で、研究開発系や法務系など多様なバックグラウンドを持つ者が集まっていたので、専門用語が必ずしも通じるとは限りませんでした。山下グループは用語の説明にも力を割いてくれたので、徐々に皆、建物のスペックや構造のことも理解し、社内での説明もすらすらとできるようになりました。
- 鴨下
- かつてガラスの試験管から工場の設備に使う管まで自分たちでつくって来られ、ものづくりに対する自負をお持ちだからか、建物づくりに対する理解度が高いと感じました。社内での意思決定のスピードと手戻りの少ない緻密な承認プロセスにも驚かされました。
ゼネコンからの提案にブレが出ないよう、
発注図書に提案で大事にすべきことが何なのか、
整理しながら盛り込みました。(鴨下)
どんな発注方式を採用されましたか? ゼネコン選定までのプロセスを教えてください。
- 鴨下
- 当初は設計・施工分離方式を採用されるとのご希望でした。しかし目標工期の余裕がなく、工事費が高騰しつつある時期で、かつ工場建設などでゼネコンへの一括発注に慣れているとお聞きしたので、発注を早められる設計・施工一括方式を我々の方から勧めました。
- 西
- 当初設計・施工分離方式を予定していたのは、何百人という社員の意見をまとめるのは難しく、ある程度の社内承認をもらって設計を固めてから予算化や建築の実施設計へと移行しないと、あとで仕様変更がたびたび生じ、設計の大幅な手戻りや、予算との大きな乖離が起きるのではないかと危惧したからです。しかしプランニングや仕様のベースを山下グループが作成し、ゼネコンからそれに沿った提案をもらう性能発注方式を採用すれば問題ないと促され、設計・施工一括方式は我々も通常よく採用する手法でしたので、そちらで進めることにしました。
- 鴨下
- 2011年8月のプロジェクトスタートから翌年3月の新本社ビル、同年6月の加島オフィスのゼネコン選定まで我々が考え続けていたのは、事業コンセプト“Heart & Head Quarters”に込められた社会やコミュニティとの共生、社員がクリエイティブに働ける場づくりといったテーマをしっかりと建物に落としこむことでした。そこでゼネコン各社から的確な提案を引き出せるよう、発注図書に建物の計画から仕様に至るまで、提案で大事にすべきことが何なのか、整理しながら盛り込みました。たとえば新本社ビルでは、建物の足もとを公開空地にして地域に開きながら、同時にセキュリティを保ちたいというように、一部では矛盾もはらむ要望があったので、それを確実に実現できる基本計画案をつくり、各スペースにどんな機能や動線が必要なのか言葉で補足し、参考図として添付しました。
- 西
- 建物のプランニングは、プロジェクトの成否を分ける鍵になると感じていました。そこに力を注いでくれたことは、ありがたかったです。発注図書は細部までよく練られていました。我々が希望する条件を漏れなく満たした提案が出てくるように一定の縛りをかけながら、設計者がよりよい案を出せるよう提案を求める部分も明確に示してありました。我々がゼネコンやエンジニアリング会社に直接発注をかけるとしたら、ここまで詳細で具体的な依頼はできません。
- 鴨下
- さらに新本社ビルと加島オフィスで働き方の質に差がつかないことも重要だったので、必要諸室の仕様や設備の性能をまとめた性能基準書を用意し、各スペースにどの程度のグレードのものが必要なのか示しました。
- 西
- 発注図書はゼネコン選定時のみならず、選定後の実施設計段階でも、何らかの判断の都度ごとに立ち返ることができる拠り所となってくれました。
- 発注図書に添付した参考図の一部。アプローチや公開空地のゾーニングなど、この基本計画案は各社の提案にほぼ踏襲された。
- 発注図書を通じて引き出した提案の例。社員同士のコミュニケーションを促しつつセキュリティも保ちたいという要望を受け、共用階段とオフィスをセキュリティキーの付いたガラス建具で視覚的につなげている。
関連する用途
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オフィス
多くの業界が国内のみならずグローバルな視点をもって事業を推進されているなか、最近はカーボンニュートラルへの対応も考えていく必要に迫られています。自社オフィスにおいては、企業理念を体現するブランディングの実現や、イノベーションの創出を促す空間、web会議が根付いたことへの施設側の対応が求められています。また、テナントオフィスにおいては、採算性の向上や周辺競合施設との差別化を図るブランディングに加え、在宅勤務の増加によるオフィス面積減少の動きへの対応など、新たなオフィスビルの構築が求められています。
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