The Report #08 半導体産業の展望とCMが果たす役割
半導体関連のニュースが連日メディアを賑わせています。山下PMCでは、半導体工場やR&D施設のPM/CMも担当していますが、活況を呈する半導体産業とCMの役割についてプロジェクト担当者はどう考えているのでしょうか? プロジェクト統括本部 事業推進部門 3部 部長 北野 隆啓が語ります。
2030年には1兆ドルに。半導体を取り巻く状況
コロナ禍には世界的な半導体不足で自動車工場が操業停止し、身近な電化製品の出荷遅延が連日報道され、我々の生活を支える半導体の存在を認識させられた。直近でも生成AIがロジック半導体を、EVがパワー半導体の技術革新を推し進め、DX・GXの後押しもあり、世界を牽引する成長産業として、半導体市場は2030年には1兆ドル規模になるとも言われている。
一方で、米中デカップリングに端を発して、半導体が国家安全保障と経済安全保障上の戦略物資となり、先端ロジック半導体の台湾依存リスクの分散を図るべく、自国内で安定した半導体の開発・製造を行えるサプライチェーンの構築が世界的トレンドとなっている。米CHIPS法に基づくTaiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited(以下・TSMC)のアリゾナ工場誘致の成功を皮切りに、欧州やインドも加わって半導体工場への巨額な設備投資が加熱し、国際誘致合戦の様相を呈している。日本でも数千億円超の政府助成を受けて、ラピダスの千歳工場やTSMCの熊本工場を筆頭に列島各地で建設ラッシュとなっている。
半導体開発・生産拠点の地理的集積による形成
こうした同時多発的な建設が過当競争を引き起こして、共倒れになるリスクはないのだろうか。半導体の製造には合計1000を超える工程があり、各工程で極めて高度な技術が求められるため製品用途※1や工程※2ごとに分業する1社で完結できない生産構造になっている。
特定の製品をつくる戦略的なパートナーシップによって分業型のサプライチェーンが構築され、熊本シリコンアイランドのように連鎖的かつ地理的集積をもって生産拠点が形成される。当然、建設プロジェクトを担う建設事業者(設計監理者、ゼネコン、サブコン、職人)も取り合いとなり、建設事業者確保や納期、建設費への影響が我々を悩ませる一因となる。
※1:ロジック半導体(CPU、GPU)、メモリ(DRAM、NAND)、パワー半導体、アナログ半導体(センサー)、SiC半導体等
※2:設計(ファブレス)⇒前工程(ファウンドリ)⇒後工程(OSAT)等
連鎖的かつ地理的集積をもって生産拠点が形成される熊本シリコンアイランド
JASMの熊本への進出発表以降、半導体関連企業が次々と周辺地域への進出を決定。2024年4月時点で九州への進出または設備拡張を公表した企業は56社にものぼる。
半導体開発・生産拠点の建設プロジェクトにおいてCMの果たす役割
熾烈な国際競争での生き残りをかけて、納期必達が課された建設プロジェクトを進めなければならない。業界高繁忙下における建設事業者確保の困難さ、施設要求水準に呼応した技術難易度の高さ、物価上昇、多くのステークフォルダーへの説明責任、急激な事業規模拡大に伴う発注者側のリソース不足など、立ちはだかる課題は満載である。 課題にはプロジェクト毎に個別の事情があり、特効薬のような画一的な解決策は存在しない。
だからこそ、私たちは発注者と同じ目線に立って課題意識を共有することから始め、私達がもつ実績・技術力をベースに関係者が同じ目標に向かってプロジェクトを「前に進める包括的な業務基盤」を緻密に準備している。 一方で、発注者・設計施工者との適切なコミュニケーションを通した「関係性の構築」も大切にしている。難しいからこそ、皆でアイディアを出し合って、臨機応変に最善の判断を積み重ねてプロジェクトを着実に前に進めるための“急がば回れ”の発想なのである。
半導体事業の建設プロジェクトが抱える課題例
CMの果たす役割(前に進める基盤づくり)のベストプラクティス事例
『キオクシア 横浜テクノロジーキャンパス Flagship棟』
~偶発的な出会いと発想を生む 人と技術のイノベーションの発進へ~
https://www.ypmc.co.jp/stories/story47/
今後の展望
これまでの半導体開発・生産拠点の建設プロジェクトで培った関係性が呼び水になり、最近では生産拠点のアウトバウンドへのご支援、急速な事業拡大によるスペース不足、人財獲得・育成に向けた国内ワークプレイスの拡充、業務効率化に向けた事業所再編など、急拡大する半導体関連事業の皆様の様々なお困りごとをご相談いただく機会が増えてきている。
微力ながら“your Edge”(お客様の懐刀)として、まだまだ成長が続く半導体事業を取り巻くエコシステムの一員となって貢献していきたい。
次回の「The Report」は、山下PMC 日比生 慶がお届けします。