PROJECT 01

武田薬品工業 
湘南研究所(後編)

プロジェクト座談〈後編〉

人と組織を動かす、意思決定のしくみ

[2008年~2011年]

工期と予算をコントロールする手法

場を和ませながら厳しいことを伝え、スムーズにプロジェクトを進める。
そのマネジメントが本当に上手だな、と関心しました(野村)

2008年5月28日のキックオフから約12ヶ月間、大阪の設計室に各社が詰めていたという実施設計の頃の様子について、お聞かせください。

野村 :
各社からトップクラスの人材が集まってくださって、その反応のよさには驚きました。お願いしたことを、お願いした日までにきちんとやってくださるので、本当に気持ちよかったですね。
橋口 :
今振り返っても、各社すべてレスポンスが素晴らしかったと感じます。
川原 :
医薬研究所として世界一の規模と言われる研究所をつくるということで、各社モチベーションが高いのですよね。設計室に詰めた延べ人数は100人以上です。設計事務所と建設会社の計8社のほかB工事・C工事に関わる会社、研究設備関係の会社からもある程度来ていただいていました。

設計室での1日の流れは、どのような感じだったのですか。

川原 :
当グループからはコアメンバー8名、最大18名が参加して、電気関係は弊社の野村が担当、というように役割分担をして、すべての情報が私に集まる仕組みとし、私自身は週3日通っていました。日中は会議、会議の連続。だから作業ができるのは夜しかないんです。私が指示をし終わるのが深夜12時半~1時で、そこから資料づくりがはじまるというような大変なありさまでした。
野村 :
前日に頼んだことが翌日に返ってきたりもするので「これは寝てないな」と思うこともありました。しかしそのような頑張りで達成できた21ヶ月半という工期には、海外の方に特に驚かれます。大きなピンチもありましたよね。やむを得ない事情で1つの棟の工期が途中60日遅れてしまったのですが、その遅れを取り戻す方法が秀逸でした。
川原 :
工期に間に合わせられるように調整した、その棟のための別スケジュールを組んで、その部分の遅れは、当初は60日あったものを14日まで縮めることができました。
野村 :
週ごとの定例会議では、どこの工程がどれだけ遅れているのかがひと目でわかる巨大な表が出てきて、川原さんが「ここが2週間遅れていますね、どちらの担当でしょうか? 御社ですね。いつまでに取り戻していただけるんですか?」と、とてもにこやかに聞かれるんです。示されたほうは「何とか2ヶ月以内に」などと答えるわけですが、そこで「2ヶ月ですか?」と、すかさず問い返す。場を和ませながら厳しいことを伝え、解決策もにじませながらスムーズにプロジェクトを進めるという、そのマネジメントが本当に上手だな、と感心しました。決して暗い雰囲気にならないんですね。かつ指摘を受けた会社にその場で「やる」と宣言していただくことで、間に合わさざるを得ない立場へとうまく持っていかれるんです。
川原 :
会議が終わった後にもう1度電話をして、本当にできるのか確認をし必要なら調整に自ら足を運びます。そうするとだいたい、うまく行きますね。

実施設計の頃に実際に使用し、総合定例会議などの場で出していた巨大な表。各工程の進捗状況や遅れがひと目でわかるようになっている。膨大な数の工程が縦に並ぶため、非常に長い。

施工中の様子。躯体、設備、仕上げ用の建材などが隙間なく並び、所狭しと並ぶクレーンによってさまざまな工程を同時進行できるように効率よく運搬されている。構造と設備のユニット化等の工夫から、施工の省作業化が図られ、着工から21ヶ月半という短い工期で竣工にこぎつけた。(撮影:竹中工務店)

VE(バリュー・エンジニアリング)の提案では、項目ごとに
新しい考え方がどんどん出てくるので驚きました。(橋口)

野村 :
もう1つ大変でしたのが、建設コストの削減です。最初の頃は見積もりの裏付けとなる資料をもらい、私たちから経営陣に説明していたのですが「で、実際にはいくら下げられるのか」と言われるばかりでしたので、VE(バリュー・エンジニアリング:価値を下げずにコストを下げる手法のこと)の徹底へと方針を転換して、細かく切り詰めていくことになったのです。
川原 :
750項目ほどのVE提案を実行しました。
野村 :
巨大な工程表と同じくこちらでも、項目ごと、VEの進捗状況と成果がひと目でわかる表が活躍していましたね。
橋口 :
項目ごとに新しい考え方がどんどん出てくるので驚きました。10%減といった範囲ならば通常の発想でできますが、25%、30%を削減しようという場合は従来の方法では解決できません。そうしたときに、たとえば「将来使用予定のスペースは、未実装のまま残しておく」といった解決策を取られるのです。その結果生まれた未実装のスペースは、海外研究機関とともに、新たな共同研究を実施する場所「インキュベーションラボ」として活用することができました。
川原 :
御社の資材部門はすでに優れた調達能力を持っていらっしゃいましたが、そこにあえて提案させていただいたのが、競り下げ式の逆オークション「リバース・オークション」です。こちらの方は、いかがでしたか?
橋口 :
想定以上の効果がありました。発注の仕様を決めた後、弊社が最初の金額を入れて、あとはモニターを眺めているだけで、各社の競争で入札金額がみるみるうちに下がっていくのです。
川原 :
既成品が活用できる部分については効果的ですよね。研究設備のみならず事務機器や実験機器についても定格のものは、リバースオークションを活用しました。この研究所1つで全国における通常の年間出荷量の3~4倍の研究設備を購入する、というほどの大量購買なので、下げ幅も大きかったのです。
野村 :
予算総額1,470億円に対して、最終的にはその金額からまったくオーバーせずに終わりました。これは弊社の中でも奇跡的だと言われています。そして2011年2月15日に請負契約上の引き渡しがあり、3月頭から移転作業を少しずつ開始したのですが、そこに東日本大震災が起きました。計画停電もはじまったので移転作業をしばらく中止し、電気供給に目処のついた5月から再開しました。このため元々2011年10月に予定していた研究所の開所は、2ヶ月ほど遅れると考えられていたのですが、結果的には 1ヶ月遅れの11月に開所できました。移転の際にスムーズな動きが可能だった背景にも、プロジェクトを通じて多様な関係者のチームワークが既に構築され、段取りやスケジュールがしっかり伝達されていたことがあるのだと感じています。

聞き手:平塚 桂、野村康典、納見健悟