PROJECT 02

矢崎総業/矢崎部品 
ものづくりセンター(後編)

プロジェクト座談〈後編〉

「ものづくり」から「営みづくり」へ

[2011年3月~2012年4月]

竣工後に役立つ、設計説明書

異なる棟をブリッジでつなげる試みはかなり画期的。
想像以上にうまく機能していると感じます。(大石)

ものづくりセンターとものづくり事務棟をつなぐ半外部のデッキ「リッチブランク」。

木下 :
難しかったのは、新築の棟と、既存の棟をつなげることでした。既存の棟を現行の法規に合わせるのは費用的にも時間的にも困難であったことから、新旧2棟の構造上の縁を切り、半外部のデッキでつなげることで解決を図りました。そもそも本プロジェクトで矢崎総業が行う、生産、研究開発、教育といった機能の集約の狙いは事業創造です。事業創造に必要なイノベーティブな営みの創出には人と人との交流と、気持ちの一体感が欠かせません。そのための仕掛けとして、既存棟と新棟をつなげる必要性を感じ、当初から提案させていただきました。
大石 :
異なる棟をブリッジでつなげるという試みは、当グループの施設ではかなり画期的なことでしたが、実際に想像以上にうまく機能していると感じます。

基本計画開始からすべての施設の引き渡しまで15ヶ月、新棟の着工から竣工まで5ヶ月というのは驚異的なスピードです。その間に東日本大震災も起きました。短い工期で竣工させるために苦労された点を教えてください。

木下 :
私どもがCM業務を受託することが決まって初めての打ち合わせが2011年1月7日のことでした。その時点での予定は引き渡しまで12ヶ月、その後の調整で2012年3月末の引き渡しに変更になりましたが、いずれにしても非常にタイトで、期限内に終わらせるためには手戻りを防ぐことが重要だと感じました。
藤村 :
スタートまもなく、東日本大震災への対応を迫られたんですよね。ゼネコン5社の見積もりの提出期限が震災の直後でした。
木下 :
工期については、より緻密な確認をすることで対応しました。一例ですが、労務不足の深刻さを受けて定例会議とは別に分科会を設定させていただきました。工種、必要な職人の数、実際にできた工事内容を日追いで見える化し、不足する職人をどう手配するか、知恵を出し合うための場を定例会議後にほぼ毎回設けました。通常とは異なるニーズや課題に直面すると、設計事務所やゼネコンの方はどうしても「できない」という言葉を口にしますが、それは多くの場合、経験に基づいた条件を当てはめて判断しているわけです。実際には、時間や金額など何かパラメータを変えればできるようになることがほとんどです。そこで、今回のプロジェクトでも、多くの課題に対しできない理由を深掘りして話し合う機会を設け、「できない」ことを「できる」ように、課題を1つずつクリアしていきました。
藤村 :
何がどのように遅れそうで、どうすれば解決できるのかを明確に提示されると、やらざるを得なくなるんですよね。自動車業界における手法と同じです。
木下 :
リスクを可視化して潰していく方法を昔から使われているのですね。ものづくりのプロセスには共通点がありながら、自動車業界はずっと進んでいて、我々も含めて建築業界が学ぶことはたくさんあります。今回は工期が非常に短かったので、手戻りを防ぐことが重要だと考えて、プロジェクトの各フェーズの初回打ち合わせ時に我々も様々な工夫をしました。その1つが、あらかじめ定例会議の日程をすべて決めること。そして会議ごとに何の議題を打ち合わせ、いつまでに何についてお客様から回答をもらうかを決めてしまうことでした。さらに打ち合わせで出てきた課題は積み残しをしないようにリスト化し、確実に解決していきました。この緻密な短期スケジュールの管理手法は本プロジェクトで確立できたものです。

設計説明書には、なぜこの形になったのかということが
理由とともに記録してあるので、社内で疑問が出てきたときに
はっきりと説明できるので助かります。(藤村)

2012年4月にものづくりセンターが開設され、1年半が経ちました。施設を実際に使ってみてのご感想はいかがでしょうか。

建物の仕様や形の決定経緯がわかる『設計説明書』。

藤村 :
人が増えたので「なぜものづくりセンターを3階建てにしておかなかったのか」などと社内の人間に言われることもあります。でも、これは設計の時に3階建に増築可能な工法とするなど検討プロセスを踏んで決定したことです。ありがたいのは「設計説明書」という書類にすべて、なぜこの形になったのかということが理由とともに記録してあること。だから社内で何か疑問が出てきたときに「この時にこういう話をして決めたでしょう」と説明できるので助かります。
木下 :
私どもは必ず設計事務所や建設会社に設計説明書をつくってもらいます。基本設計の際に作成し、それを各フェーズで更新し、最終的に竣工図書の一部とします。検討履歴を残しておくと、運用開始後に何かトラブルが起きたときなどに、その時点に立ち戻って確認できるので便利なツールなんですよ。
松浦 :
年月が経つと施設に込められた想いや動機が忘れられていきます。設計説明書は、当初の想いやコンセプトがどのようなもので、プロセスでの苦労がどのように実を結んだのか、過去に立ち戻って参照できる資料となっています。

聞き手:平塚 桂、納見健悟