横浜市役所新庁舎 基本設計からDB方式を初めて採用した公共施設が完成(後編)
市内企業も横浜のシンボルとなる建物の建設に参加
厳しい局面も忌憚なく意見を交わせる関係があればこそ乗り越えられました
大規模公共事業ゆえに、市としてご苦労された点はありますか。
- 鈴木
- 超高層かつ超大規模建築でもあり、自治体としては、WTO(政府調達協定対象工事)への対応として入札への応募者を制限する枠は設けられません。一方で、地域経済活性化の役割も担う市としては、市内企業も参画しやすいプロジェクトの体制を構築する必要もありました。
- 菅野
- 日本における超高層建築実現の設計力と技術力をもつゼネコンが入札に参加することは予想できました。そうした企業にコンソーシアムの体制を築いていただく理解と配慮を求めました。
- 鴨下
- この点も「発注仕様書」に盛り込むことで、コンソーシアムをどう設けるかの提案が得られます。その上で、元請けと下請けの契約をどうするか、フォローできる体制づくりも考えました。
- 菅野
- また、それとは別に市内の企業が参加しやすい工種・工事規模の別途工事発注を約20種設定しました。しかし、細かく分けるほど関係者が増え、現場の管理が複雑になります。そこの対応や調整は、山下PMCさんの協力を得ながら体制を整えていきました。
- 鈴木
- 大規模な公共事業ですから、当初は様々なご意見がありました。しかし、こうした細かな配慮により、参画いただいた市内企業の方々からも、「横浜のシンボルとなる建物の建設に参加できて誇らしい」と言っていただけました。経済効果はもちろんですが、そうした協業が実現できたことは嬉しかったですね。
大岡川沿いから新庁舎を望む。新庁舎低層階の大岡川沿いには水際線プロムナード、水辺広場、橋詰広場が設けられ、人びとが回遊できる水辺空間を形成している。
長期の山下PMCとの協業で印象に残っている点は何ですか。
- 鈴木
- 初期段階では、DB方式とは何かという暗中模索のスタートでしたから、一つひとつを助けていただくことが多かった。しかし、発注後、工事が始まれば現場のノウハウは市のスタッフももっているので、自分たちだけでできる場面も増えました。そうした新たなフェーズで、CMへの別の期待が生まれたのですが、それにも応えてくれました。
- 菅野
- 低層階には商業エリアがありますが、商業施設運営事業者の公募にも山下PMCさんにご協力いただいています。
- 木下
- 事業が進みフェーズが移ると、当社の役割も変わります。私たちの役割は、建物をつくることだけではありません。管理・運営面も積極的にサポートすることで、5年後、10年後にさらなる価値を積み上げ、もっともっといい建物になってこそCMの成功だと考えています。
- 菅野
- このプロジェクトは、当初数名からスタートしました。そこに山下PMCさんが参加し、議論を重ね、時には意見をぶつけ合うこともありました。そのなかで、ともに考え、協力し合う環境を整えていただき、そこに設計・施工者も加わり、すべてがワンチームとして新庁舎建設のゴールにたどり着くことができたと思います。完了した今は議論の機会がなく寂しいですね。
- 鈴木
- プロジェクトの最大の成功要因は「人のつながり」に尽きると思います。何でも言い合える関係ができたからこそ、私たちも高い要求を求めることができました。
- 木下
- お客さまが求めているものは何か。常にそれを考え、設計・施工者にも伝え共有する。プロジェクトの成功には、それが欠かせません。
低層階3階に設けられた市民ラウンジ。デザイナーが水の流れや船をイメージした家具でくつろぎながら、横浜の街並みを見渡せる新たなビュースポットとなっている。
プロジェクト概要
発注者・施設所有者・運営者 | 横浜市 |
---|---|
所在地 | 神奈川県横浜市中区本町6丁目50番地の10 |
建物用途 | 市庁舎、集会所、飲食店舗、物販店舗、駐車場 |
面積 | 敷地面積 13,142.92㎡/延床面積 142,582.18㎡ |
規模 | 地下2階・地上32階・塔屋2階 |
構造 | S造(柱コンクリート充填網管造)等 |
設計・施工 | 竹中・西松建設共同企業体 |
CM会社 | 山下PMC/山下設計共同企業体 |
山下PMC担当者 | 木下雅幸、鴨下 清、山本典男、進藤光信、諸山隆法、野﨑文香、田中晃太、権田武路、吉川大輝、吉森美成 |
CM業務期間 | 本体工事関連:2014年6月~2020年3月 商業施設関連:2019年4月~2020年9月 |
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関連する用途
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公共
2014年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が改正され、公共工事においても多様な発注方式の採用が認められたことで、DB(デザインビルド・設計施工一括発注)方式、ECI(施工者が早期に関与)方式などが普及しつつあります。一方で、自治体の技術職員が減少する中で、2020年9月には「地方公共団体におけるピュア型CM方式ガイドライン」が発行され、複雑化・高度化する事業をCM活用により着実に推進する手法が広がりをみせています。また、多くの自治体では高度成長期に建設された施設の老朽化が進み、PRE戦略や公共施設マネジメントの立案・実施も課題となっています。
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