令和時代に求められる医療施設整備の進め方~平成時代の整備動向と発注方式の変遷を踏まえて~<後編>
後編では、医療施設の発注方式を中心に平成時代を振り返り、令和時代に求められる建設プロジェクトの推進手法について考察を行う。
医療施設の発注方式
平成時代は、公立病院においても、従来からの設計・施工分離発注だけでなく、PFI方式、デザインビルド(以下DB)方式、ECI方式等、様々な発注方式が採用されるようになった時代である。
PFI方式
PFI方式は、日本では1999年の法施行以降導入され、医療施設においても、2002年に事業者が選定された高知医療センター(高知県・高知市統合新病院)以降、2012年の大阪国際がんセンター(旧:大阪府立成人病センター)まで、16件に採用されている[表1](注1)。
しかし、15~30年間に渡る長期契約が医療サービス提供の変化に追随しにくいことや、委託業務を低コストで実施することのみを主眼として導入された事業が多いことで、高水準のサービスを低価格で得る本来の目的が達成しにくい仕組みになっていること等が要因となって、近年では採用されていない(注2)。
病院PFIは一時期しか導入されなかった
DB方式等
一方で、設計と施工を一括して発注するDB方式は、2014年の「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」の改正により、多様な入札契約方式の導入・活用が促進されたことで、医療施設においては、それよりも早く、2007年に福島県の町立三春病院において採用されて以降、建物規模を問わず採用されている。[図7]。
近年は基本設計DBとECIに収束傾向
医療施設では、敷地内での順次建替工事や、既存建物の使いながらの改修工事等、設計段階から工事計画を想定した検討が必要な場面も多く、設計者と施工者が、同時進行で検討を行うことが、診療機能を維持した工事計画や、施設整備の全体スケジュール短縮等の観点から有効な場面も多い。
また、PFI方式同様「性能発注」を採用することで、施工者が有する個別のノウハウの活用や、工期・建設費を早期に確定させることができる(あるいは、発注者が求める工期・建設費との乖離を早期に明らかにして、その解消に取り組める)ことから、工事単価の高騰や建設技能労働者の不足に伴い、入札での不調不落が生じやすい時期においては、DB・ECI方式の採用が検討されやすい。
但し、設計施工分離やDB・ECI方式といった発注方式は、一概にどの方式が望ましいといったものではなく、それぞれの施設整備プロジェクトの特徴や課題に応じて、方式を選定すべきである[図8]。
それぞれの特徴・課題に応じた方式の選定が必要
DB・ECI方式については、制度上、発展途上の方式であり、これらの方式を導入すれば、工期・建設費の課題がすべて解決するものではなく、発注者・設計者・施工者の役割分担や責任関係を明確にしておくことや、単に、見積用の図面作成だけでなく、適切な提案範囲余地の作り方、工期や建設費の確定方法、それらを含む契約体系の組み立てが重要であり、ぜひCM等の専門家を活用していただきたい。
医療施設整備の要件定義の難しさ
医療施設整備においては、設計段階における病院の各部門との要件確認ヒアリングに多くの時間が費やされるため、設計段階の途中で設計者が変わる、「実施設計以降のDB方式」は、発注者が求める要望・意図が伝わりにくいことが懸念される。
一方で、本来、設計業務とは、発注者の意図(要求性能)を具体的な建築として成立させるための図面化(翻訳作業)であるにも関わらず、医療施設では、発注者が施設に求める要求性能を、適切に表現することが難しく、本来、発注者側が行うべき要求性能の明示(要件定義)が充分にできていないため、設計者が、要件定義を行いつつ、要求性能の具体化作業を行う事態が多く見られる。
そのため、設計者の資質により要件定義のために発注者が行うべき事前検討が充分に行われていない場合や、設計者にとって比較的関心が薄い事業計画と整合が取れていないまま、設計検討が進められている場面が見受けられる。結果として、各部門の要望を積み上げただけの、病院全体の最適化や事業計画に合致しない計画により、手戻りを余儀なくされる場面も少なくない。
山下PMCのようなCMには、通常、対外的な説明における第三者性の確保、コスト管理・スケジュール管理支援といったことが求められるが、特に医療機関の施設整備にお いては、プロジェクトの進め方・体制構築、場合によっては(本来あるべき進め方ではないものの、設計検討が進んだ段階において)プロジェクトの骨格となる方針の明確化や再定義が求められるような業務も少なくない。
“設計のプロ”とは別に、発注者側で行うべき“要件定義や方針設定・合意形成を上手く進めるためのプロ”の必要性が高まっていると思われる。
令和時代の医療施設整備
平成時代の前半までは、医療法や診療報酬の施設基準改定に伴う施設整備が多く行われてきた。また、1981年の新耐震基準導入から38年が経過し、多くの医療施設で耐震化が進んでいる。
これまでは、全国一律の基準に基づき、ある面では画一的な施設整備が行われてきたが、平成時代の後半から進められている「地域包括ケアシステム」の構築に伴い、各医療機関の役割・将来ビジョンに沿った施設整備が強く求められている。
令和時代の医療施設整備は、医療機関の経営・運営・施設のすべての観点でバランスの取れた計画が求められており、そのための発注方式検討や、建設プロジェクトの推進手法の検討がより重要になっていると考えられる。