女川町地方卸売市場(中編)
ECI方式のメリットを最大限に活用
写真右が管理棟。衛生管理の一環として、忌避音発生装置を設置し、鳥などの動物の接近を避けている。
―本プロジェクトは早期の復興が課題でした。
- 岡野
- まず司令塔となる管理棟に着手し、引渡し後に西棟荷さばき場の工事に着手しました。それまでプレハブではありますが、営業し続けていましたので、どこから手をつけるべきか悩みましたが、魚市場の方の意見を参考に決めました。
- 加藤
- 工期中も毎日水揚げに来る漁船を受け入れ、魚をさばき続けながら、段階を踏んで進行させました。私たちの希望通りのスケジュールで進み、水揚げにも影響はありませんでした。
- 村田
- 工期のスケジュールは、週単位で見直し、合理的に進められるよう細心の注意を払いました。市場の営業を継続しながらですから、あらゆるリスクと不便さを回避するために複雑な仮設計画を立てて、進行していきました。
- 品川
- これに岡野さんたちも臨機応変に対応してくれた。
- 佐藤
- 当時より、オリンピック関連施設の建設ラッシュもあり、人手も資材も不足。実作業の状況は厳しいものがありました。
- 加藤
- そんな状況でも、鹿島建設さんは、様々な課題を次々と解決していったことには驚きました。
- 佐藤
- 素晴らしい仕事ぶりでした。
- 岡野
- ありがとうございます。
- 村田
- ECI方式では、施工予定者の技術協力を得ながら、実施設計を進めるなかで工事費が確定していくため、コストマネジメントが大切です。
- 岡野
- 私たちには決められた予算内でできる限りの技術提案を行うということが求められていました。
―そのなかで技術的な課題を解消するために、CMとしてどのような対応が必要だったのでしょうか
- 村田
- 課題を分かりやすく伝え、解決に向けた的確な技術提案を引き出すために工夫しました。
- 品川
- 鹿島建設さんは、様々な建設技術をもっています。それを知っていたからこそ、それらの技術を余すことなく引き出すことが私たちに課せられた仕事だと感じていました。
- 佐藤
- 品川さん、村田さんは、選定基準や要求条件を伝えるために書類をまとめたり、発注者、設計者、技術協力者間の意見調整を徹底したり、手を尽くしてくれました。
後方に山、前方に海。地盤調査は独自の最新特殊車両と技術で行いました (岡野さん)
- 加藤
- 実施設計の初期段階で行った地盤調査も記憶に残っています。
- 岡野
- 日本に1台しかない、地盤調査車を投入し、20カ所のボーリング調査を行いました。この車は私たち、鹿島建設が独自に開発したものです。背後に山、目の前が海という複雑な地盤をもつこのエリアに向いていました。これにより女川町地方卸売市場の地中深くにある支持層を正確に把握できました。
- 加藤
- 地盤調査を行うと聞いたときに、大型の調査機器の移動や設営などに時間がかかり、市場の営業に支障をきたす可能性があると覚悟していました。しかし、それが車両型と聞き、驚きました。市場で働く従業員に「今日はここに地盤調査の車両が来るよ」と伝えるだけでしたので、営業には支障がありませんでした。
- 岡野
- 調査の結果、大きく傾斜した支持層と、広範囲な液状化層が確認できました。さらに、既存の基礎や配置不明な斜杭など地下埋設物があり、複雑を極めていた。しかし、この調査で正確な杭打ちができました。
- 村田
- これらはコストの圧縮につながるだけでなく、工程上のリスクも回避できました。それに伴い、スケジュールもかなり前倒しできました。
ECI方式のよさが出たプロジェクトでした(村田)
- 品川
- 杭の位置毎の詳細な長さが早期に分かったことは大きかったです。施工が始まってから、支持地盤に合わせて再度確認して……という作業になると、工期やコストに大きく影響しかねませんでした。
- 佐藤
- 事前に技術提案をしてもらうECI方式だからこそ、スケジュールを短縮できたのだと思います。従来の発注方式では、あと半年以上は遅れていた可能性があります。基本設計と、実施設計にそれぞれ1年かけても、問題が表面化し手戻りがあれば、一からやり直す……。今回はそのような心配がほとんどなかったから、タイトなスケジュールにもかかわらず、予定通りに完成したのだと改めて感じております。
- 村田
- ECI方式のいいところを引き出すことができたプロジェクトでした。
プロジェクトに関わったマネジャー
関連する用途
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公共
2014年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が改正され、公共工事においても多様な発注方式の採用が認められたことで、DB(デザインビルド・設計施工一括発注)方式、ECI(施工者が早期に関与)方式などが普及しつつあります。一方で、自治体の技術職員が減少する中で、2020年9月には「地方公共団体におけるピュア型CM方式ガイドライン」が発行され、複雑化・高度化する事業をCM活用により着実に推進する手法が広がりをみせています。また、多くの自治体では高度成長期に建設された施設の老朽化が進み、PRE戦略や公共施設マネジメントの立案・実施も課題となっています。
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商業施設
消費嗜好の多様化が加速するなかで、商業施設にはこれまで以上にコンセプトの斬新さや、他施設との差別化が求められています。Eコマースの成長が著しいこの時代には、実店舗ならではのコンセプトメイクも重要です。従来通りの店舗計画が必ずしも最適といえず、商空間はそのあり方自体が常に問い直されているともいえます。適切なマーケット分析・敷地分析をベースに、違いを生み出す施設コンセプトを立案し、適切なMDへと展開していくことの重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
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