20周年記念パネルディスカッション(2) JTB観光立国マネージャー 山下真輝氏
山下PMC創立20周年記念の第2部として、Bリーグチェアマンの大河正明さん、JTB観光立国マネージャーの山下真輝さん、建築家の妹島和世さん、そしてチームラボキッズ代表取締役 松本明耐さんという各分野で先進的な取り組みを行っているパネリストたちによるトークセッションを行いました。テーマは「日本の社会を元気にする」。これは「もの」づくりから「こと」づくりへと変わり、地方がモデルケースとなった新しい社会のあり方が国内外から注目されるリアルな日本社会を、多方向から紹介し、考察するというものです。パネリストから、さまざまな興味深い意見を伺いましたが、ここではその一部を紹介します。
今回は、JTB観光立国マネージャーの山下真輝さんのお話です。
年々増加する外国人旅行客
政府は観光立国の実現に向けて、力を入れており、2011年は約600万人だった外国人旅行客が、2016年には2404万人に増加しました。毎年、20%以上増え続けていることになります。先日、JR奈良線に乗ったのですが、私以外全員が外国人で、時代が変わったことを実感しました。日本人がこれまで作り上げてきたものが、世界中の人を魅了するようになってきたのです。
2016年の訪日外国人旅行客の消費額は、3兆7476億円で電子部品の輸出額を1000億円ほど超える水準となっています。日本の津々浦々で外国人旅行客に来てもらおうという取り組みが行われており、十日町市で3年に1回行われる『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』や、瀬戸内海エリアで3年ごとに開催される『瀬戸内国際芸術祭』も世界中から人が集まっています。
スポーツや、その観戦のために来日する外国人旅行客層がターゲット
2010年に文部科学省が『スポーツ立国戦略』を発表しました。そして、2012年4月には産学官の連携組織である『日本スポーツツーリズム推進機構』が設立され、これにより、2020年の東京オリンピックを視野に入れ、業種を問わずスポーツを中心に据えたプロジェクトが始まっています。
あまり知られていませんが、地形の変化に富んだ日本は、アウトドアスポーツにマッチしたフィールドが多く、世界的に評価されているのです。例えば、激流を下り自然との一体感を楽しめるラフティング、里山を爽快に走り抜けるサイクリング、トライアスロンなどです。長野県の白馬や、北海道のニセコなどのスキー場では海外からの旅行客でごった返しています。
このように、スポーツツーリズムで日本の地方に外国人旅行客を誘致するというのは、経済効果が高いと感じます。また、プロ野球、B.LEAGUEやJリーグをはじめとする、プロスポーツの観戦目的で、海外から旅行客がやって来た例も多数あります。特徴的なのは、フランスの有名な自転車競技大会『ツール・ド・フランス』の人気選手が来日する『ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム』。この大会には、世界から多くの人が観戦に訪れます。また、参加型のマラソン大会も人気で、2017年の『京都マラソン』では、29か国・地域から過去最多の2642人が参加しました。
外国人旅行客が急増したため、宿泊施設が足りず、受験シーズン時に受験生が泊まれない、観光バス不足になり、地元の小学生が遠足に行けないなどの問題が起こっていますが、民泊やシェアリングエコノミーの活性が起こっています。
荷物の問題も深刻で、駅やホテルでは大きなトランクを保管するスペースが少なくなっています。そこで私達JTBは、パナソニック、ヤマトホールディングスと手を組んで、訪日外国人旅行者が手ぶらで旅行を楽しんでもらうように、ホテル間で荷物を移動させる『ラゲージ・フリー・トラベル』というサービスをスタートしました。
アートやスポーツは、人の交流を生み出します。これが、地域を活性化させて、交流人口を拡大することの起爆剤になっていく。地域のストーリーを構築し、地元の人たちが盛り上がっている光景がひとつのコンテンツになると感じています。
山下PMC創立20周年記念 講演会「日本の社会を元気にする」
JTB観光立国推進マネージャー、日本版DMOサポート室室長
山下 真輝(やました・まさき)
地域活性化伝道師(内閣官房)。地域新成長産業創出促進補助金審議委員(経済産業省平成26年)、地域創生ワーキングメンバー(経済同友会平成27年)、スポーツによる新しい地域振興方策を考える検討委員(スポーツ庁平成28年)。日本全国の地域、自治体に対して観光による地域活性化事業のアドバイザー業務やプロジェクト支援を行っている第一人者である。