あくまで経営者目線で建物の価値を伝える 2
施設担当者を支え経営層へ
保有する施設をどう活用していくべきなのか、悩んでいる企業は多い。自治体にとっても、人口減少や都市構造の変化を受けて、公共施設の再編や削減は喫緊の課題だ。こうした場面でFMが求められる。
FMを実効力のあるものにして成果につなげるには、経営層、つまり投資を判断する側をターゲットに据える必要がある。だが建築技術者に対する企業側の窓口は、施設部門の担当者となることが多い。
彼らの視点や問題意識は、経営層とギャップがある可能性が高い。施設部門の担当者は、管理者目線で施設を捉えている。つまりユーザー側に視点を置いているので、管理のしやすさや使い勝手の良さなどを重視しがちだ。しかし経営層にとっては、使い勝手は必ずしも最優先事項ではない〔図3〕。
経営者はコストにシビアで、常に数字に目を光らせている。彼らが施設に期待するのは、(1)コストダウン、(2)コアビジネスへの貢献、(3)経営資源としての規模適正化、といった内容だ。なかには(1)のコストダウンだけを見て、(2)や(3)の課題にまでは目が向いていない経営者も少なくない。
だが施設は考え方ひとつで、コストがかさむばかりのお荷物にも、発注者の事業を変革させる経営資源にもなり得る。そこに意識を向けさせるには、FM的なアプローチが有効だ。
一方で建物のつくり手側は、良い施設をつくりさえすれば発注者に貢献できると考えている節もある。だが建築的な良さが事業性に直結するとは限らない。経営層にとって、施設は事業に付随する、あって当たり前のもの。本社ビルや重要な新規戦略を担う施設でもない限り、発注者は個別の施設には多大な思い入れを抱いてはいないと考えておいた方が無難だ。発注者に建築的視点を期待するよりも、建築技術者が経営的な視点を持つ方が生産的だ。
[図3]
視点の違いを乗り越える
経営層は事業に対する貢献を施設に求めるが、施設担当者は管理のしやすさや使い勝手を求める。建築技術者はもっと経営層、つまり投資をする側の思考に注目するべきだ
建築技術者の知見を経営に
現実に施設はコアビジネスを支える重要なインフラであり、企業の看板ともなり得る。ランニングコストを絞れば、企業の業績を示す財務諸表にも好影響を及ぼす。
施設に対して前向きで適切な投資を促すためには、施設担当者を経由して、経営層まで対策や考え方を届けてもらうことが必要だ。そのためには前述のカルテ化などの手法を駆使して、施設担当者が経営層に上申しやすい場を整えることが欠かせない。
昨今の公共事業における発注方式の見直しなどにより、設計事務所を取り巻く環境は激変している。事業の上流、つまり発注者の近くに接近することが、生き延びるための1つの方策となる。
この施設を閉鎖すると維持管理コストが何%下がる、再調達価格が前年比何%上昇している、というふうに売り上げや利益といった指標と同列に並ぶ表現を徹底することができれば、発注者も建築技術者に信頼を寄せるようになる。彼らが求めているのは施設そのものではなく、施設が事業にもたらす利益だからだ。
経営者と同じ全体最適の観点から、施設の状態を「見える化」することで施設が経営に直結し、建築技術者が積み上げてきた知識や経験を継続的に生かす道が開ける。
POINT
- 新築需要は減少傾向。組織が保有する施設を経営資源としてコンサルティングすることが、建築技術者の新たな職能になり得る
- 建築技術者としての知見を生かし、発注者に寄り添う提案で新しい職域を開拓する
- ●構成・本編イラスト:ぽむ企画 ●企画:納見 健悟
本記事は、『日経アーキテクチュア』2014年12月25日号に掲載されました。一部内容を改変し、掲載元の許可を得て、掲載しています。