宴会場より客室で稼ぐホテル運営の新傾向
来る2020年に向けて顕在化しつつある五輪需要。建設業界では競技施設の建設やインフラの整備が話題を呼んでいるが、今後の活性化が見込まれる分野として、観光産業やホテル事業にも注目したい。
訪日外国人旅行者数は、13年に初めて1000万人を突破。政府は同年、観光立国推進閣僚会議を立ち上げ、ビザ要件の緩和や空港のゲートウェー機能の強化、多言語対応の強化などを盛り込んだアクションプログラムを定めた。東京五輪開催の20年には、訪日外国人を2000万人へと倍増させる目標を掲げている。
一方、その受け入れのために必要な宿泊施設は絶対的に不足している。開催都市である東京では、ホテル客室数が大きく増えることは間違いない。また観光地の旅館でも、海外からの観光客を受け入れられるような設備や運営形態に変えていかなければ、先細りする国内の観光需要だけに頼って生き延びるのは厳しい状況だ。
こうした背景から、これまで宿泊施設の設計経験がなかった建築技術者も、関与する場面が増えると期待できる。好機と捉えて積極的な提案ができるように、基本となるノウハウを押さえておきたい。
ホテルを支える3者分業
ホテルはオペレーションのノウハウが事業性を大きく左右する業態だけに、専門特化が進んでいる。ホテル運営を専門とする企業に運営を委託する「マネジメントコントラクト方式」(MC方式)が世界的な標準だ。このとき、建築技術者からは発注者に見える事業主体が、3つの立場に分かれることに注意したい。
つまり、不動産としての建物に投資して建設の主体となる「所有者」。所有者から建物を借り受け、ホテル事業を経営する「経営者」。そして経営者から委託料を受け取り、運営ノウハウを提供する「運営者」だ〔図1〕。
海外からの観光客になじみがあるのは、ヒルトンやハイアットといった外資系ホテルチェーンだ。外資系ホテルチェーンは運営に特化し、不動産への投資リスクを負わずにブランドと運営ノウハウを提供する。契約方式にはケースによって細かな違いがあるが、所有、経営、運営を分ける点はほぼ共通している。
[図1]
運営者の仕様書だけをうのみにしない
ホテル事業の場合、所有者、経営者、運営者の3 者で役割分担して事業を進めるのが主流。この3 者の間で要求が相反することもあるが、最終的に優先すべきは、ホテルの収益性の向上だ