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日本、その地域だからこそできる 「選ばれるIR」の創生に尽力したい

この記事は、「週刊ホテルレストラン2017.9.22 別冊 日本版IRの全貌! The JAPANESE INTEGRATED RESORT」より転載しています。

プロジェクトマネジメント(PM)のプロフェッショナルとして、これまで多種多様な施設案件に関わってきた(株)山下ピー・エム・コンサルタンツは、オーナーサイドに立って施設戦略を組み立て、投資家や地域と共に汗をかきながら実際にものを創っていく「施設参謀」としての立ち位置でプロジェクトを推進していく。今回登場いただく丸山優子氏は主にホテル・旅館などの宿泊施設について、木下雅幸氏はスポーツ関連を中心としたエンターテインメント施設について専門性を高く持って取り組んできた。2人の得意分野をインテグレーテッドすることで、本当の意味での日本版IRの創生に向かっていこうとしている山下ピー・エム・コンサルタンツの考え方についてインタビューを行なった。

観光もスポーツも不可欠なのはインテグレーションと地方活性化

まず、山下ピー・エム・コンサルタンツ(以下YPMC)の戦略を教えてください。

丸山 YPMC は、日本社会と日本経済が進もうとするモードとして、大きく4つの事象を捉えて戦略としています。第一に「技術先進国としての地位の堅持」、第二に「観光立国への道~クールジャパンの国づくり」、第三に「健康長寿社会の実現と少子高齢化対策」、第四に「これらを支える国内インフラ・RE再構築と強靭化」です。

これら4つの事象の相互が交わり、それぞれの境界がにじみ出すことによって、新たなプラットフォームが形成されつつあると考えています。4つの事象のインテグレーテッドモデルに、メディア(情報)や金融ビジネス(カネ)の変革が供給されることにより、日本は「社会先進立国」への道を歩み始めるとYPMC は確信しているのです。

観光立国の実現についてどのように考えていますか。

丸山 世界旅行ツーリズム協議会調べによる日本における旅行・観光産業のGDP寄与額はおよそ13 兆円と言われていますが、他の観光先進国における経済規模に照らし合わせてみると、10 年後には50 兆円程度まで成長するポテンシャルがあると見ています。

木下雅幸と丸山優子

木下 観光産業よりもさらに発展途上にある日本のスポーツビジネスにおけるGDPは、およそ5 兆円と言われています。最大のスポーツビジネス先進国とされるアメリカでは2007 年以降、現在までの10 年間でおよそ3倍という急激な伸びを示し、そのGDPは大きく成長しています。 アメリカの例に倣えば、日本のスポーツビジネスは東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020 年を挟むこの10 年間で、15 兆円規模まで成長させることも不可能ではないというのが通説です。とは言うものの、これから迎えることになる超高齢化と人口減少を考えると、その達成には相当な努力が必要であることは明白でしょう。

丸山 観光産業、スポーツビジネス、いずれの成長においても、不可欠なキーワードは「インテグレーション」と「地方の活性化」だと考えています。

日本を訪れる外国人観光客の数は予想を遥かに超えるペースで推移していますから、政府の掲げる年間目標である3000 万人から、4000 万人を越える数字もあながち夢物語ではなくなってきていると言えるでしょう。ただし陸路による入国者を望めない島国の日本において、水路と空路だけでこの数を実現させるためにはいくつもの課題があります。

世界で最も多くの外国人観光客が訪れる国はフランスで、約8000 万人の観光客のうち、水路と空路で入国する数は約3000 万人となっています。水路と空路での受け入れが最も多いスペインでもその数は4000 万人程度で、フランスもアメリカもその数には及んでいません。

つまり、日本政府の掲げる目標は、世界を見渡してみても未踏の領域ということになります。これを成し遂げるためには東京、大阪だけではなく、日本中のあまたある地方空港のすべてに外国人観光客が降り立つことが絶対的に求められるのです。

このことはすべての地方がそのポテンシャルを最大限に活かし、かつ新たな観光資源や手段によって大きな面を創出し、受け入れを行なわなければならないことを示しています。面と面がつながり、観光大動脈から毛細血管のように魅力ある地方が結びついていく以外に選択肢はないと思われます。

カジノは統合型リゾートにおける一つのファクターでしかない

木下雅幸

木下 日本におけるスポーツエンターテインメントは、「巨人・大鵬・卵焼き」の時代に産声を上げました。1964 年の東京オリンピックが敗戦から復興した日本を最大の興奮へと包み込んだことで、第一次の頂点を迎えたのです。

その後、30 年近く大きな動きが見られなかったスポーツ界ですが、1992 年のJリーグ創設を契機に地方クラブチームの定着がスタートしたことで変革期が訪れました。その10 年後の2002 年、日韓ワールドカップの開催によりその変革が完全なものとなったのと同じ年に、指定管理者制度の民間開放の法整備がなされました。そのことがスポーツを「体育、住民福祉の延長」から「スポーツビジネス」へと押し上げる機運を芽生えさせ、今まさにスポーツをビジネスとして成り立たせるための動きが始まってきたのです。

スポーツビジネスを展開していくためには、ビジネスを形成するに足り得る施設の追求と各チームの経営基盤の強化が必要となります。つまり今、日本のスポーツ界はハードとソフトを同時に考えることのできる好機に恵まれていると言えるのです。

実はエンターテインメントとしてスポーツを捉えた場合、日本は後発組であることから、重荷となる資産を背負っていないことが逆に強みとなり、身軽にゲームチェンジをして勝ち組になれる可能性があるのです。

そしてその好機において、インテグレーテッドモデルの創設により新しい価値の創出にチャレンジを続けているYMPC は、これまでの活動を応用することで、日本ならでは、その地域ならではの魅力を持ったIRを形作っていくことができると考えています。

Jリーグを一つの手本として、Bリーグが誕生したことで、かつてアマチュアスポーツ、企業スポーツだった競技がビジネスとして生まれ変わり、各地に根付こうとしています。トップリーグのみならず、その下部組織が地域とともに発展し、全国にわたるネットワークが密度高く構築されようとしています。日本のスポーツコンテンツが、文化としての地位を確立していこうとする動きが活発化しているのです。この動きなくして、スポーツビジネスの爆発的拡大は決して望むことはできません。

日本版IRが誕生するためには、どのような社会的背景が必要だと考えますか。

丸山 日本人の多くは「IR=カジノ」と誤解されているようですが、カジノはIRすなわち統合型リゾートにおける、一つのファクターでしかないということを理解していただく必要があります。もちろん相当に影響力のあるファクターであることに疑いの余地はなく、競争力の強化を図るためにもカジノに大きな期待が寄せられていることは確かです。ただしカジノを創りさえすれば、ヒト・モノ・カネが集まるという単純な話でもありません。

生産性の向上は日本が直面している喫緊の課題であり、その切り札の一つがカジノであることは理解できます。ただ、カジノだけを競争力とするのでは他国間競争に勝つことはできません。日本以外の国が真似をしようと思っても真似のできない日本版IRでなければ、競争に勝つことはできないのです。

木下 ここで言う「競争に勝つ」は、IRが立地する地域が賑わいのある豊かな街となり、その地域にこれまでになかった経済的な便益をもたらしてくれるという意味です。そしてその結果、国として掲げた経済成長に大いに貢献するということです。

「世界で最も美しいIR」として称讃され、地域の誇りになるべき

丸山優子

丸山 カジノは相当に個性の強いスパイスのようなものでもあります。そのエリアが従来から持っている観光資源、インフラ、人々の生活、醸成された芸術やスポーツなどの文化を活かして、それらの要素をベストミックスさせることにこそ日本版IRの醍醐味があります。そこに個性の強いスパイスを加えることで、せっかく完成した絶妙な味付けを台無しにしてしまう事態も想定できるのです。

IRがGDP目標達成、外貨獲得、地方創生の真の切り札となるためには、カジノを含むIRそのものが売り物なのではなく、あくまでもIRをプラットフォームとして機能させることが重要なポイントなのです。日本そして地域が持つポテンシャルを自分たちの目線で押し売りするのではなく、顧客目線で正しく評価をして、顧客が潜在的、顕在的に欲求している「かゆいところ」に手が届くサービスを提供できるかどうか。これこそが日本版IRが成功するための絶対的な必要条件だと考えています。

日本版IRに対して、YPMC が果たすことのできる役割について教えて下さい。

木下 YPMC は、日本だからこそ、その地域だからこそできる「選ばれるIR」の創生に力を尽くしていきたいと思っています。YPMCの強みは、多様な立場、責任を有するプレイヤーそれぞれの利益を守りながら、全体利益を最大化できるプラットフォームを構築し、その具現化に貢献してきた長い歴史を持つ、日本唯一の存在であることです。こうした私たちの価値は、日本版IRを成功に導くために最も重要な役割を果たしていくと認識しています。

丸山 技術力、食文化、芸術、古今の建築物、礼節、医療、スポーツ、自然はすべて、古来より日本人が積み上げてきた美意識によって獲得したもので、一朝一夕に追随されることはありません。これらこそが日本が世界からリスペクトされる要素であり、社会先進立国たる日本の「最大の売り物」ではないでしょうか。

日本版IRは、「世界で最も美しいIR」として称賛されなければなりません。その美しさは物質的なものだけを指すのではなく、精神的な美しさもIRによって表現される必要があるということです。たとえばハードとして、日本の「城」を活用してみるといった発想もあるでしょう。日本人を含む世界中の人々が称賛し、その地域の人々が心から誇りに思い愛することのできる日本版IRの実現を、プロジェクトマネージャーとして支援していきたいと思っています。

具体的には、マーケティングに基づくSTP 戦略(Segmentation、Targeting、Positioning)が最も重要です。その地域の持つポテンシャルを第三者の目線から正確に評価することから始まり、新たに加えるべき要素を吟味しなくてはなりません。その上で掲げたSTP を実現するサービスレベルと施設構成、これらを実行する体制と資金計画をスタディーすることから、プロジェクトマネージャーの仕事はスタートするのです。

美しいIRを実現するためには、世界中からさまざまな立場のヒト・モノ(コト)・カネ・情報の集積が必須であることは言うまでもありません。これらの要素のすべてのステークホルダー、IRを訪れる人たち、地域や社会が三方よしとなるために、YPMC の持つ創造力と実現力を最大限に発揮していきたいと考えています。

週刊ホテルレストラン表紙

週刊ホテルレストラン2017.9.22 別冊『日本版IRの全貌! The JAPANESE INTEGRATED RESORT』」 の詳しい情報はこちらをご覧ください。週刊ホテルレストラン公式サイト

聞き手・本誌 村上 実/構成 長谷川 耕平/文 高澤 豊希/撮影 林 正

木下 雅幸

山下ピー・エム・コンサルタンツ 取締役 常務執行役員/ CIO(イノベーション推進責任者)
木下 雅幸(きのした・まさゆき)

1968 年生まれ。神戸大学大学院を卒業後、山下設計入社。大手生命保険会社を経て、2010 年山下ピー・エム・コンサルタンツ入社。取締役常務執行役員 / CIO(イノベーション推進責任者)を務める。

丸山 優子

山下ピー・エム・コンサルタンツ 常務執行役員/ CMO(マーケティング推進責任者)
丸山 優子(まるやま・ゆうこ)

1965 年生まれ。日本女子大学を卒業後、大手建設会社に入社。不動産デベロッパーを経て、2009 年山下ピー・エム・コンサルタンツ入社。常務執行役員/CMO(マーケティング推進責任者)を務める。