週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

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最新スポーツ施設運営に見る 構造変革の兆し

飲食、エンターテインメント、観光など、日本のサービス業は、個別細分化されるニーズの変化に対応しながら、戦後の成長時代に形成された構造を大きく変革させてきました。スポーツ産業も、ここ数年ようやくその仕組みを大きく変えつつあります。背景にある課題は、スポーツへの関心が高まる一方で、施設運営の負担が解消されていない現状です。

日本のスポーツ施設を取り巻く現状

国内で建設されるスタジアムやアリーナなど大型のスポーツ施設の多くは国公立であり、長い間、収益性よりも公共サービスの観点から、建設・運営されてきた歴史があります。このことはより多くの国民にスポーツする機会を提供し、スポーツ文化の普及に貢献してきた点で評価される反面、多くの施設が財政負担となっている課題があります。少子高齢化が進む日本では、税収に頼った運営を続けることは困難であり、この先、収益構造の改善、つまり公共スポーツ施設が予算を費やすコストセンターから、利益を生むプロフィットセンターへ転換することが重要と言われています。

日本のスタジアム・アリーナの多くは地方自治体が保有している日本のスタジアム・アリーナの多くは地方自治体が保有している

日本のスタジアム・アリーナの多くは地方自治体が保有しているため、計画時に想定した目的以外の積極的な利用が難しく、ビジネスが生み出しにくいと言われてきました。施設の運営管理者や利用者、さらに施設建設者が異なり、分断された構造であるため、稼働率を上げる多目的利用、最適運営を図ることが難しかったのです。

スポーツ産業振興へ向けた国の動き

2016年2月、スポーツ産業の活性化を図るために、スポーツ庁は経済産業省と連携して「スポーツ未来開拓会議」を立ち上げました。これは国がスポーツ産業を成長戦略の柱としたことから始まり、2016年6月の中間報告では、現在5.5兆円のスポーツ産業市場規模を2020年には10.9兆円、2025年には15.2兆円に拡大することを目指すと打ち出しました。スポーツ産業が日本経済をリードする成長産業とされる理由は、今後、ラグビーワールドカップ2019、2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際スポーツイベントの開催によって、国全体のスポーツへの関心が高まり、企業のスポーツ産業への投資意欲の向上が予測されること、そして米国や欧州と比較して日本のスポーツ産業規模がまだまだ小さく、自治体と民間企業の連携強化により市場規模の大幅な拡大が期待できることにあります。スポーツ庁ではこれを契機と捉え、スポーツを核とした周辺産業への波及効果を生む新たなスポーツ産業モデルを創出することを目指しています[図1]。

[図1] 近年における大規模スポーツ施設の建設・建替え構想

▪️アリーナ・体育館 / スタジアム・球技場
[出典]2016 年6月、スポーツ庁・経済産業省「スポーツ未来開拓会議 中間報告」をもとに作成

2016年、スポーツ産業の活性化を目的に、スポーツ庁と経済産業省が共同で設置した「スポーツ未来開拓会議」。図はその中間報告書内で発表された、スタジアム・アリーナの新設・建替え構想(各種報道資料等をもとに作成)。2020年のオリンピックイヤーを前に、スポーツ施設の建設需要が増えている。

旧来の公共施設のあり方を超えるスタジアム・アリーナ施設の変革

[図2]横浜スタジアムの「コミュニティボールパーク化」構想

横浜スタジアムの「コミュニティボールパーク化」構想

横浜DeNAベイスターズは、公共空間・商業空間を含めた賑わい施設と
球場の複合化を図る「コミュニティボールパーク化」構想を掲げ、
観覧シートの改修や多彩なイベント開催を実施。
図は2020年に向けた増築・改修計画に伴うデザイン案。

[提供]横浜DeNAベイスターズ

日本のプロ野球では、球団の本拠地移転や買収などで世間の注目を引いた、2004年の球界再編問題は記憶に新しいところです。それと同時に、多くの球団でスタジアム施設を最大限活用するために、球団運営とスタジアム運営の一体化を図り、収益構造の改善に取り組んできました。近年では〈MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島〉の完成や〈横浜スタジアム〉の「コミュニティボールパーク化」構想が進行中であり、プロ野球ファン層の拡大と集客力の向上という結果に結び付いています[図2]。たとえばイベントグッズの配布、スタジアムグルメの充実、ファミリー層に向けた子ども用の遊戯スペース、ボックス席や寝そべりシートなどの様々な観戦席、ファンとの交流イベント、花火打ち上げなどショーアップの工夫など、多様な取り組みが効を奏しました。

昨年Jリーグではガンバ大阪を中心とした民間企業(任意団体である「スタジアム建設募金団体」)が寄付などで資金を集め、サッカー専用の〈市立吹田サッカースタジアム〉を建設しました。竣工後に吹田市に寄贈され、ガンバ大阪が指定管理者として施設の運営・管理を行うというこの手法は、官民連携の新しい手法として注目を集めました。プロサッカーチームが専用のスタジアムをチーム経営と一体的に運営し活動し続けることは、今後Jリーグの各チームが取り組むべき課題の試金石になるものと考えられます。

〈ゼビオアリーナ仙台〉は民間出資でアリーナを建設し、地元企業を含む13 社による共同経営によって自治体から独立した運営を目指していることが特徴的であり、先進的な事例(民設共営モデル)として注目されています。スポーツイベントだけでなくコンサートやコンベンションなど多目的利用に対応したことで、高い年間稼働を可能とし、最新鋭の映像装置やVIPルームなど設備の充実は、観戦者目線に立ったエンターテインメント性の高いアリーナを実現しています。

長岡駅前に位置する〈アオーレ長岡〉は、アリーナ、ナカドマ(屋根付き広場)、交流ホールの他、市役所の一部機能を備えた「公設民営(市民協働)」型の複合施設。行政の他、市民活動に取り組む人々、地元商工会、音楽・文化・スポーツ関係者など多彩なアイデアと人脈を有した人々が集まる場をつくりだし、多用途施設を複合化することによる相乗効果を活かして、市民交流の拠点として日常的に集い活動する場を生み出している点が特徴的です。

多様な人が活きるスポーツ施設

日本政策投資銀行のレポートでは、収益性が見込める国内のスタジアム・アリーナの共通点として、(1)収益源の多様化、(2)興行の活発化、(3)利用用途の多様化、(4)利便性の高い立地戦略の4つを挙げており、官と民のそれぞれの強みを発揮し連携を強化することが、今後のスタジアム・アリーナ整備では重要だと報告されています[図3]。

[図3]官民連携スキームによる「スマート・ベニュー®」

官民連携スキームによる「スマート・ベニュー®」

「スマート・ベニュー®」とは、周辺のエリアマネジメントを含む複合的な機能を組み合わせた交流施設(日本政策投資銀行の登録商標)で、これからの時代のまちづくりやコンパクトシティの中核を担い得る施設として注目されている。まちづくりのあり方や制度を変えることと、施設の活性化を図ることが相互補完することで実効性が高まるスキームであり、官民連携が鍵となる。

[出典]2016 年2月、スポーツ未来開拓会議(第1回)橋本委員提出資料:日本政策投資銀行「わが国スポーツ産業の発展可能性とスポーツを核とした街づくりを担う『スマート・ベニュー®』」をもとに作成

プロジェクトには競技性、収益源、地域性など様々な固有の条件があり、全てに通用するゴールデンレシピはありません。しかし改革の実現に向けて、競技者のためだけの施設ではなく観戦者や運営者の目線を重視し、スタジアム・アリーナを訪れる機会の創出と多様な人々が活きる場をつくりだすことが、共通して求められている構造改革と言えるでしょう。