「ジャパン・イズ・ローカル」から始まる建設産業のグローバル化
グローバルビジネスの多くは、生産もマーケットもその地のローカリティに適合させる ことが肝であると言われています。取引先の数だけ、独自の戦略が存在するのです。グローバリティの実態は、ローカリティの積分と言えるでしょう。だからこそ国外事業は、現地の理解が不可欠です。すでに海外企業は日本のローカリティの理解を始めています。まずはそれをサポートすることが、日本のグローバル化の近道なのかもしれません。
「グローバル」の実体は「ローカル」
日本人である私たちは、「海外」という言葉で日本以外の国を同一視しがちです。良くても、海外にビジネスを展開する場合に、東南アジアやヨーロッパという「地域」で評価しがちです。しかし、東南アジアも、イスラム教教徒を多く抱えるインドネシア、英語が普及するフィリピン、金融ビジネスの中心となり多くの外国人が暮らすシンガポールなど、状況は全く異なります。例えば、以前私が所属していた世界展開をする日系小売企業は、東南アジアでの拠点をシンガポールに置いていますが、各国の管理をシンガポールもしくは日本のどちらが行うのか、国や時期で変えながら、試行錯誤をせざるをえない状況でした。このように、東南アジアでさえも、その距離感をつかむことが難しいのです。
つまり、私たちが普段グローバルと考える実体はローカルである、と言えます。
逆にローカルを理解せずに、その地での成功はあり得ません。さらに言えば、ローカルの単位は国ではなく、市や町、村である場合もあります。前述の小売企業では、経営層はいち早く「究極の店舗は地域に根差したものでなければならない」という理念を持っていましたが、それが現場レベルにまで真の意味で浸透するには相当の時間を要していました。その現実も私たちは理解しなければなりません。
上記のように1つとして同じ国はない、とは日本もしかりです。つまり、日本もローカルなのです。「日本は小さい島国」と自虐的によく言いますが、それとは意味合いが違います。日本人にとってフランスやアメリカ、インドやブラジルが似た存在であるように、日本も日本人以外にとっては他国と似た存在に過ぎず、私たちは日本をもっと客観的に評価する必要があります。
建設市場で日本企業のグローバル化が遅れている理由
建設市場でも、多くの日本企業がプロジェクトへの参画だけでなく直接開発投資を行う等、一定の存在感を放っています。一方で、2014年の世界の建設会社売上(自国外)ランキングでは、上位はアメリカ、フランス、ドイツ、中国、韓国などが占めています[図1]。日本は日揮の28位が最高位となっており、50位 以内には3社しか入っていません。まだまだ日本企業として「コップには水が半分しか入っていない」状態です。山下PMCのようなコンストラクションマネジメント会社の海外での展開事例としては、日本企業である事業主の海外進出における現地開発支援がほとんどです。一方で、他国企業の事例では、ベクテルやエ イコム、パーソンズをはじめとするアメリカや韓国、シンガポールの企業は、現地国籍の企業をクライアントとしてマネジメントを行うなど、ローカライズに成功しています。
日本企業がまだまだこういった国に追いつけない要因の1つは、海外進出の際に、既述のように「海外」を一緒くたにして捉える傾向にあり、当該国の風土慣習などに深く順応しない傾向にあること(言語的な障壁も一因)です。
[図1] 世界の建設会社売上ランキング(自国外のみ)
[出典]Engineering News-Record The 2015 Top International
Contractors1-100より作成
不動産・建設産業も「日本を理解してもらう」ための発信を
超成熟国となってしまった日本は、日本のなかだけで快適に生活できる環境であり、国外に打って出る必要がない、インセンティブの働かない国という負のスパイラルに陥っています。多くの他国が成長するなかで日本だけが成長しなければ、相対的には衰退であり、将来は何も保障されていないのです。事実、日 本は少子高齢化により人口が減少し、労働生産性が向上しないため、GDPも減少傾向にあります[図2]。
先日政府が「名目GDPを600兆円にする」という目標を立てました。政策にある通り、これにはインバウンド投資が必要です。しかし、外国人観光客の消費は2014年に前年比で43.4%増加したとはいえ、2兆305億円程度です。2014年の日本の名目GDPは490.8兆円であり、不動産・建設業界としても600兆円の達成のために努力しないといけないと感じます。そのためには、ようやく日本の魅力に気づいた私たちが観光を売り出しているように、不動産・建設産業もその魅力を理解し発信しなければなりません。
私は、発注者がローカル企業である海外建設プロジェクトや、事業会社の海外プロジェクトを経験しました。いずれの場合も、その地のローカルの人々がメインプレーヤーであり、彼らの知恵を抜きにしては、何もなしえませんでした。
現在、外資ホテルの日本初進出プロジェクトをリードする立場にいますが、日本の発注者とテナント、実施設計者と施工者がおり、外資ホテル会社とアメリカのインテリアデザイナーなど、彼らに「日本を理解してもらう」必要があります[図3]。TPPやビザ、法人税などの規制緩和で今後予想される市場開放に伴い、より複雑化する建設プロジェクトでは、関係各者の意見を的確に拾い、意思決定を行っていく能力が必要です。
[図3] 開発プロジェクトの関係者相関図の例(ホテルの場合)
それは、体験を通して理解、習得できるものであり、異なる価値観を共有し合う、多国籍な人々と共生する経験が必要です。日本ではそういった環境に身を置くことは難しく、多くのチャンスが目の前にある今こそ、自らを動機づけて行動することが求められるのではないでしょうか。