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ホテル不足解消なるか? 6月のホテル容積率緩和の動きに注目

ホテル不足解消なるか? 6月のホテル容積率緩和の動きに注目

東京や大阪に出張しようとして、ホテルの予約が取れず出張難民となった経験のある人は今や少なくないのではないでしょうか。先ごろ国土交通省はこの客室不足に対応するため、ホテル容積率の緩和を促す方針を固めました。これはホテル不足解消にどのような効果をもたらすでしょうか? 6月に予定されている各行政庁への通知に先立って、その意義を考察してみます。

2030年、世界の海外旅行人口は18億人に膨れ上がる

ホテル不足の直接の原因は言うまでもなく、円安やビザ要件の緩和、新興国の経済成長などによって増加の一途をたどる訪日外国人観光客です。訪日外国人の数は2014年の1341万人から2015年の1974万人と、前年比 47.2%という推移を見せています。新しいホテルは続々と建設されてはいるものの、実際に開業ラッシュを迎えるのは2018〜19年ごろ。急激なインバウンド増加のスピードに供給が追いついていないのが現状です。

訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移

ホテル不足を招くことになったインバウンド増加。2014年から2015年にかけては47.2%の急激な伸びを見せたホテル不足を招くことになったインバウンド増加。2014年から2015年にかけては47.2%の急激な伸びを見せた

UNWTO(国連世界観光機関)が2011年に発表した「Tourism Towards 2030 Global Overview」によれば、世界全体の国際観光客到着数は、平均4300万人/年のペースで増加すると予測されています。世界の海外旅行客は2020年までに14億人に、2030年までには18億人に達する計算です。中でも経済成長が著しいアジアの市場は急激に拡大すると予測されています。海外旅行人口が世界的に成長している状況を鑑みるに、訪日外国人旅行者数はこの先もまだ増加し続けると考えられます。建設費は今後もしばらく高止まりすることは予想されるものの、日本国内のホテル投資にとっては恵まれた状況が続くと言えるでしょう。

UNWTO展開予測:1950-2030年の実績と見通し

世界的に海外旅行人口は増加を続けると予測されている。とりわけアジア・太平洋地域への観光客数の増加が著しい世界的に海外旅行人口は増加を続けると予測されている。とりわけアジア・太平洋地域への観光客数の増加が著しい

容積ボーナスがなければホテルは採算が取れない!?

永らく不動産投資家にとって、日本における「ホテル」は投資の対象ではありませんでした。ホテル開発に豊富な実績を持つ某大手デベロッパーの社長が、「ホテルは初期投資が他の用途に比べて大変大きいが、収入は少ない。土地代がタダでようやく収支が成り立つ」と発言したことがあります。つまり、ホテルはオフィスや住宅などに比べると収益性が低く、総合設計制度や都市計画手法を利用した容積率ボーナス分しか造れない、という意味です。

容積率とは敷地面積に対する建物の延べ床面積を%で示した数値で、地域ごとに定められた指定容積率を越える建物は原則として建設できません。しかし公開空地を設けることで容積率制限が緩和される総合設計制度など、いくつかの緩和措置があります。「土地代がタダ」というのは、こうした制度を利用することで手に入ったボーナス分の床面積をホテルに充てるということです。

一概には言えないかもしれませんが、不動産投資において「ホテル」というセグメントがハードルレートを超えられなかったことは、今日の客室不足の一因になったのではないでしょうか。実際、ホテル開発用地を仕入れたいと考えても、マンションデベロッパーの札にホテルは勝てず、仕入れができないといった事例を今でも多く聞きます。

早急に望まれる、地区計画によるホテル容積率緩和

先ごろ、国土交通省が客室不足に対応するため、ホテルの容積率緩和を行う予定であるとの報道がされました。山下PMCが独自に国土交通省都市局へヒアリングを行ったところ、2016年6月には国土交通省より各行政庁へ通知が出されるもようです。現在のところ都市計画法や建築基準法の改正を行う形ではなく、既存の法の枠組みの中で特定行政庁が地区計画等を利用してホテルの容積率緩和を行うよう通知することになるようです。

地区計画とは、街区などの一定のエリアや、住宅街・ビジネス街・駅前地区といった共通の特徴を持つ地域ごとに、住民と自治体が連携して地区の目指すべき将来像を設定し、それに向けて建築物の用途・形態・容積率・高さなどの制限や緩和を設定するというまちづくりの手法です。

現在建設中のハイアット・セントリック銀座東京は、指定容積率700%に地区計画(通称「銀座ルール」)による200%の緩和分が加わり、900%の容積率を獲得している(画像:朝日新聞社プレスリリースおよびオリックス不動産株式会社/ハイアットホテルズアンドリゾーツプレスリリースより)現在建設中のハイアット・セントリック銀座東京は、指定容積率700%に地区計画(通称「銀座ルール」)による200%の緩和分が加わり、900%の容積率を獲得している(画像:朝日新聞社プレスリリースおよびオリックス不動産株式会社/ハイアットホテルズアンドリゾーツプレスリリースより)

この仕組みによる宿泊施設の容積率緩和は、いくつかの地域ですでに行われています。たとえば、現在山下PMCがコンストラクション・マネジメント業務を受託している、東京都中央区銀座6丁目にて建設中のハイアット・セントリック銀座東京(所有者:朝日新聞社、経営者:オリックス不動産、運営者:ハイアットホテルズコーポレーション)は、中央区の地区計画・機能更新型高度利用地区銀座A地区(通称「銀座ルール」)を利用し、都市計画の指定容積率700%のところ、200%のボーナスを合わせ、900%の容積率を獲得しています。

容積率が緩和されると同じ敷地面積でより多くの客室を設けることができるようになるため、収益性アップに直結します。このようなルールを各地で制定するよう国土交通省が通知することにより、投資家のモチベーションはかなり高まり、客室不足に対して即効性があると期待されます。

特定行政庁においては、早急に地区計画の制定をお願いしたいところです。特に、ホテルの供給不足がひっ迫している首都圏、近畿圏をはじめ、全国に10ある大都市圏においては、この制定により投資効率が大きく改善する効果が期待できます。