震災復興で導入されたアットリスクCM方式とは?
近年、公共事業(主に震災復興事業)においてアットリスクCM方式が採用されるケースが増えてきています。アットリスクCM方式とはどんなCM方式か? ゼネコン一式請負方式とはどう違うのか? なぜ震災復興事業において採用されたのか? 本稿では、こうしたアットリスクCMに関する素朴な疑問を考えていければと思います。
アットリスクCM方式とはどんなCM?
CM(コンストラクションマネジメント)に関する解説書などを読むと、よく「CM方式には大きく分けて2種類あり、ピュアCM方式とアットリスクCM方式というものがある」ということが書かれています。
ピュアCM方式とアットリスクCM方式とはよく対比的に言われますが、決して二者択一の方式ではありません。ピュアCMとアットリスクCMとでは、プロジェクトに対する立ち位置や担い手となる企業が異なるケースが多いからです。
ピュアCMR(コンストラクションマネジャー)はあくまでオーナーズコンサルの立場であり、技術的には中立を保ちつつも、発注者の利益確保の立場に立って様々なアドバイスや支援業務を実施する役割を持ちます。これに対し、アットリスクCMRは主に施工の責任を負って、施工マネジメントを実施する役割を担っているといえます。
また、現状はピュアCMRにはコンサルタントの会社が、アットリスクCMRにはゼネコンが、その担い手になるケースが大半です。
こうした役割・担い手の相違により、両者は相反するものではなく、共存することも可能な役割(方式)と言えます。2008年の米国のCM方式活用状況調査報告書(※1)においても、ほとんどのアットリスクCM方式のプロジェクトにおいて同時にエージェント型(ピュアCM型)のCMRが参画している、という報告がなされています。
アットリスクCM方式とゼネコン一式請負方式の違いは?
アットリスクCM方式は、日本のゼネコンが一式請負方式の中でやっていることと同じだ、ということもよく言われます。確かに施工マネジメントという点では、業務内容としてはそう大きくは違わないと思われます。
ただ、従来の一式請負の場合は総価請負方式であるのに対し、アットリスクCMの場合、契約方式がコスト+フィー方式となるケースが多く、その利益の生み出し方に大きな違いがあります。
一式請負の場合は、決まった額に対して、いかに下請契約額を抑えて安く発注し、効率的に作業するか、ということが施工者にとって利益確保のインセンティブになります。
一方、コスト+フィー方式の場合は、下請け契約額が発注者に明らかにされ、CMRはその10%なりのマネジメントフィーで利益を得る、というルールになっています。CMRにとってはあまり実費を抑えようというインセンティブが働かない仕組みであるため、GMP(最大保証額)を設定したり、VE提案に対するインセンティブ制度等を設けるなど、コストの担保やコスト縮減に対する意欲を促すことが必要になってきます。
発注者にとってコスト的にどちらの方式が得なのか、というのは発注時の社会情勢等によりケースバイケースですが、透明性確保の観点からすると明らかにアットリスクCM方式に軍配が上がります。
なぜアットリスクCMはこれまで普及しなかったのか?
1990年代後半以降、建築生産の場に徐々にCM導入が進められてきましたが、そのほとんどが民間事業であり、業務発注形態はピュアCM方式がほとんどでした。それがここ数年、公共事業においてもCM業務や発注者支援業務といった、ピュアCM系の業務発注が増えてきました。そしてアットリスクCM方式も、公共の震災復興事業において本格的に採用されるようになってきた、という状況です。
アットリスクCM方式がこれまであまり採用されていなかった理由としては、おそらく発注者の潜在的なニーズはあったものの、担い手側がアットリスクCM方式を積極的に勧めてこなかったということがあるように思われます。
ピュアCMサービスを提供するコンサルタント会社は、一般的にアットリスクCM方式のリスクを背負えるほどの企業規模ではなく、またアットリスクCMの担い手となり得るゼネコンにとっては、従来の一式請負方式に比べ、下請けへの発注額を発注者にすべて明らかにしマネジメントフィーで自らの業務対価や利益を得る、というアットリスクCM方式の基本的な考え方があまり魅力に感じられなかったということが理由としてあったのではないかと推測されます。
なぜ震災復興事業においてアットリスクCM方式が採用されたのか?
東日本大震災ののち、様々なインフラ施設の早期復旧が必要でしたが、発注者のマンパワー不足に加えて、事業範囲や事業内容の全体像がなかなか確定しない中で、とにかく検討を早く始めないといけない、という状況にありました。そのような状況での一つの解決策として、アットリスクCMRを早期に選定し、設計施工一括型で少しずつ事業内容を固めながら、できるところから事業を推進していく、という手法が検討されました。
東北の震災復興事業では、主に土木(造成)工事において、UR都市機構が中心となって女川町や東松島市、大槌町などで20件近くのアットリスクCM方式が実施されています。また大槌町では、ピュアCM+アットリスクCM方式が採用されていたり、石巻市の卸売市場などでは建築工事でのピュアCM+アットリスクCM方式も採用されており、復興事業の中でも様々な展開を見せています。
実質的には、アットリスクCM方式が採用されるようになって、造成工事をはじめとする本格的な建設関連の復興事業が回り始めたといえると思います。
米国のCM方式活用状況調査報告書(※1)によると、米国でのアットリスクCM方式の採用理由として、施工者早期参画によるノウハウ活用やファストトラック実現による工期短縮といったことが挙げられており、日本の復興事業での採用理由と極めて類似しています。つまり、施工の難易度の高いプロジェクトで施工者ノウハウを早期に活用することや、工期の厳しいプロジェクトについてできるところから始めるというファストトラックの実現が、大きなメリットとして採用されるケースが多いようです。
今後、震災復興や国家的イベントといったいわゆる有時や特需の際に、「工事費や労務確保の状況が読めない上に依頼内容の全容を決めきれない、だが早急に設計や工事をスタートさせる必要がある」といった局面における有効な選択肢となる可能性を秘めています。
今回の震災復興事業のアットリスクCM方式を実践する中で得られた多くの経験と反省を活かし、次なる有事の際に活用できるスキームを整えておくことは、国家としてのBCP計画としても非常に重要な取り組みになると考えます。