BEMS導入の前に知っておきたい、省エネの基本
保有するビルのエネルギーマネジメントを推進するために、BEMS(Building Energy Management System:ビルエネルギー管理システム)を導入する企業が増えてきました。「BEMSをこれから導入したい」「BEMSの活用事例が知りたい」という担当者のために、今回から4回にわたり、BEMSのお役立ち知識や事例をご紹介します。
建物のエネルギーデータを一元的に管理するBEMS
BEMSとは、室内外環境や、空調・照明・換気等の設備機器の使用状況など、ビル内外のエネルギーに関するデータを一元的に管理するシステムです。スマート化による省エネ社会が謳われ、またIoTをはじめデータを事業に活用する企業が増えてきた近年、急速に広まりを見せています。
ビル内外のエネルギーに関するデータとは具体的にどんなものかというと、まずビル全体の電気・ガス・水道の使用量(各供給会社からの請求書にも書かれています)。
さらに、空調機、照明、エレベーター……といった建築設備ごとのエネルギー使用状況。たとえば空調用熱源機であれば、電力、冷温水出入り口温度、流量、運転時間などを、それぞれメーターを取り付けることで計測することができます。
ほかにも、温度センサー・照度センサー・人感センサーといった各種センサーを設置することで、屋内・屋外環境のデータを集めることができます。
こうして集めたデータを見える化し分析することで、建物の消費エネルギーの最適化を図り、水道光熱費削減を支援してくれるのがBEMSです。
BEMSを導入してもしなくても、省エネで最も肝心なこととは?
でも実は、BEMSを導入するか否かにかかわらず、「データを計測する」ことは省エネ対策において何より先に着手するべき、基本中の基本といえます。
現状のデータがなければ、「オフィスの消灯を徹底する」「冷房の設定温度を上げる」といった日々の努力の効果も定量的に把握できないし、達成するべき目標も決まりません。
また、水道光熱費削減のためだけではなく、省エネルギー化工事の効果を検証するためにもデータ計測は欠かせません。「ライフサイクルコストを左右する「修繕費」と「資本的支出」の区別」で解説した通り、「資本的支出」の管理には投資効果という視点が必須。建築設備の更新によるバリューアップを算定するには、現状のデータが必要です。
建築設備の入れ替えの時期を控えていて、まとまった額の資本的支出が近いうちに発生しそうであれば、今こそ関係するエネルギーデータを取り始める時期と言えるでしょう。
BEMSというシステムを導入しなくても、メーターを設置し、手動でデータの計測や分析を行うことも可能です(マンパワーやスキルは必要ですが……)。BEMSなんてうちのビルには関係ない、と思っている方も、今よりもう少し詳細なデータを取ってみると、省エネ対策の次の一手が見えてくるかもしれません。
BEMSの費用対効果を高める計測点の選び方
ここで悩むのが、「どこまで細かくデータを計測するべきか?」ということ。細かく計るに越したことはありませんが、計測点が増えればメーター設置工事の数も増えますので、費用がかさみます。
どこまで計れば高い費用対効果が得られるでしょうか?
そんな時に役立つのが、計測点を段階的に分ける「計測グレード」の考え方です。たとえば、グレード1は主要機器の電気・ガス・水道の使用量のみを計る、グレード2は流量や温度も計る、グレード3はさらに使用用途別のデータも取る、という具合です。
そして、その施設の重要性やビルスペックに応じて、最も費用対効果が高くなる計測グレードを選ぶのです。BEMSを導入する際にはもちろん、そうでない場合でも、計測点を設置する際の目安になります。
この考え方は、複数の施設を保有している場合には特に有効です。施設ごとに計測グレードを設定することで、省エネ施策の選択と集中を行うことができるからです。エネルギー使用量の多い大規模施設はグレード3、その他はグレード1という具合です。「Aビルはここまでやったから、Bビルも同じようにやろう」ではなく、むしろ不平等にするほうがいいのです。
また建物の用途によっても、どの設備を重点的に計るべきかが異なります。たとえば研究開発施設や実験施設では、エネルギーを多く消費している生産設備や試験機器を優先的に計測するのが一般的な考え方です。