クリティカルパスを示し関係者を工程管理に巻き込む 2
工程の関門をあぶり出す
スケジュール通りの進捗はもちろんのこと、工程そのものの短縮も発注者の大きな要望だ。その実現には、それ以上は期間を縮められず、滞ると工期の遅れに直結する「クリティカルパス」を見極めることが手掛かりとなる〔図2〕。
[図2]
クリティカルパスを見極める
これ以上短縮できず、滞ると全体のスケジュールに影響を与えるプロセスが「クリティカルパス」。重点管理することが工期遅延の防止につながる
クリティカルパスは製造業の工程管理のために開発された手法だ。まず全ての工程と、それに要する時間および工程間の関連を整理する。工程の前後関係にある要素を結んでいくと、そのプロセスが滞ると全体の進捗に深刻な影響を与えるポイントが見えてくる。そうした関門を有する工程の経路が、クリティカルパスだ。
建築プロジェクトの場合、行政の許認可業務や、資材の調達などがクリティカルパスに含まれやすい。時間がかかり、自社の努力や工夫では短縮が難しいからだ。
そこでプロジェクト関係者には、クリティカルパスの重要性を理解してもらう必要が出てくる。明快な図を作成し、クリティカルパス上にある関係者がなすべき業務を示し、その業務が予定通りに進まない場合にいかなるリスクがあり得るのかを伝える。こうした工夫によって発注者をはじめとするプロジェクトの関係者を巻き込み、スケジュール意識を強く持ってもらうことができる。
クリティカルパスを軸に工程表を組むと、並行して進められる工程も見えてくる。複数の工程を同時並行で進め、開発期間の短縮やコストの削減を図る手法は、コンカレント・エンジニアリングと呼ばれる〔図3〕。
[図3]
先に進められることは先に
設計段階で解体工事を並行するなど、工期を短縮する手段はいくつかある。工程を前倒しするリスクを説明して、発注者の判断を仰ぐことが必須だ
特に設計・施工一括発注方式やECI方式(アーリー・コントラクター・インボルブメント方式)のように施工者が設計段階から関与する場合に、コンカレント・エンジニアリングは効果を発揮する。
例えば、敷地に既存建物がある場合。その解体工事と新築建物の設計プロセスは、直接の前後関係がない。ということは、設計期間中に解体工事を先行することで、工期の短縮につなげることができる。
もう少し踏み込んだ方法もある。大規模プロジェクトでは、鉄骨のファブリケーターに生産を注文してから、納入までに半年以上を要することもある。そこで通常よりも検討を前倒しにして、設計段階で先行発注をかけることで、すみやかに工事に取り掛かることができる。
リスク明示で検討可能に
設計・施工分離発注方式においても、設計段階で工法についてある程度想定しておくことで、工期の短縮につなげられる。鉄筋コンクリート造の場合、型枠工や鉄筋工など不足感が強い職種については、プレキャストコンクリート工法の採用で必要な職人を抑えられる可能性がある。
圧接工の不足が想定されるなら、鉄筋材を重ねてつなぐ工法や、機械式ジョイント工法などを設計に盛り込むという手も考えられる。人員確保に難航して工期が遅れるリスクを減らすことができる。
それぞれの手段を取った場合のリスクと、工期が遅延するリスクとを比較できる情報をしっかり提示すれば、発注者もそれに基づいて判断できる。明快な説明は、信頼関係の醸成にも役立つ。
POINT
- 関係者が決めるべき事項を明示してスケジュールを組むことで、迅速な意思決定を引き出せる
- 工程の前倒しはリスクを伴う。発注者への判断材料の提供を欠かさずに
- ●構成・本編イラスト:ぽむ企画 ●企画:納見 健悟
本記事は、『日経アーキテクチュア』2014年10月25日号に掲載されました。一部内容を改変し、掲載元の許可を得て、掲載しています。