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参謀レポート

日本の魅力再考 −エンジニ屋・イン・アルマゲドン

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身近な「国際化」から

国内でばかり仕事をしてきたので、正直なところ今まで関わった仕事の中で「日本の良さ」をリアルに意識する場面はありませんでした。一方で最近、義理の妹と結婚したイギリス人の旦那に、自分の職業を「顧客のために建物を建てる際に、コストや工期をマネジメントするのが仕事だよ」と紹介しつつ、「…とは言っても貴方たちのお国のような、契約でガッチガチのドライなマネジメントではなくて…」という思いを抱いているのも事実。そんな場面では、自分の中の直感のようなものが、頭の中で整理できていないことを感じます。よく外国人の前で日本文化を語れず恥ずかしい思いをした、という話を人ごとのように聞いていたものの、自分にもこんな身近で国際化の波が押し寄せるとは……と戸惑っていたところ、仕事のほうでも「FIDIC(国際コンサルティング・エンジニア連盟)」が監修する建設工事の契約条件に触れ、改めて「日本の良さ」を考える機会に恵まれたのでした。

FIDIC「エンジニヤ」と日本型「エンジニヤ」

図1 Yellow Bookにおける「エンジニヤ」の立位置とリスク管理の範囲

「FIDIC」は「国際コンサルティング・エンジニア連盟」という組織です。その契約条件は一部の国際入札工事で使われており、国際的な銀行の融資条件にもなっていることもあって、日本でも政府開発援助(ODA)の場面等ではある程度ポピュラーなものとなっています。ここではその一つである「Yellow book(いわゆる設計施工に関しての契約条件書)」の「一般条件(契約の「約款」に近いもの)」について、簡単に内容のご紹介をします。
この一般条件は全体で20章の構成となっていますが、①「言葉の定義(1章)」②「関係者の役割分担(2 〜 4章)」③「設計、施工の実施方法(5 〜 12章)」④「契約の変更・終了、支払(13 〜 16章)」⑤「リスクと保険、紛争及び仲裁(17 〜 20章)」という構成に整理されます。まず、この段階で感じるのが、「契約とリスク」の条文の多さと重さ。①と②の前置き以外を本文と捉えると、本文16章中の8章分がこの部分に含まれます。勿論、銀行の融資条件としては重要なのでしょうが、「協議して定める」日本的思想と大分異なることを思い知らされます。しかしながらそれ以上の特筆すべき点は、この契約条件に「エンジニヤ(“the engineer”の和訳版原文のまま)」という第三者技術者が深く関わっていることです。
ここで「エンジニヤ」の責務をいくつか挙げると、「工事中書類の受渡しと保管」「証書の写しの保管」「工事敷地の設定」「主要資機材の現場搬入の確認」「完成後試験の立合い」「引渡しに関する証明書の発行」……と非常に幅広く、日本の通常の現場であれば発注者、工事監理者、コンストラクションマネジャーがそれぞれ分担し、時に協力して検討・実施する業務内容にもその範囲が及んでいることが確認されます。さらにその責務のほとんどに「○○日前までに」という期限が設定され、それが履行されなかった際の損害補償の手続き一式も背負っているようです。後日、海外の事例等を調べたところ、実際には、「エンジニヤ」が担っている範囲は特約条件で限定されていたり、そもそも「エンジニヤ」を発注者自らが務め、そのサポートをコンサルティング会社が行うという日本的なピュアCMに近い形態がある等、柔軟な運営がされているようですが、一般的には「エンジニヤ」という存在は設計・工事プロセスの中で、契約上定義された範囲のリスクを低減させるべく中立的な立場として、請負者と性能と金額の交渉・手続き等を行うものであり「限定された範囲のリスクを第三者的なスタンスで低減する」という姿勢が改めて読み取れます(勿論、業務に関する大部分の権利も委譲されています)[図1]。
もし、このYellow Bookのような契約が国内でも日常的になった場合、私たちのような存在はどこまで、どのような形で「エンジニヤ」の役割を担うのが理想でしょうか。現在、日本の建設業界で設計事務所やゼネコン、工務店が誠意を持って協業する中で、我々のようなコンストラクションマネジャーは、時に経営層も含めた経営戦略・社内調整までに力を尽くしつつ企画段階から設計、施工までプロジェクト全体に寄り添う、という「顧客企業や関係者の利害も含むプロジェクト全体のリスクを、発注者の意図を受けつつ低減する」スタンスを取る場合がほとんどです[ 図2]。

図2 国内における「コンストラクションマネジャー」の立位置とリスク管理の範囲

Yellow Bookの「エンジニヤ」に比べ委任された権限こそ少ないものの、協業精神の下、時には全員から知恵を借りつつ関係者全員が納得いく結論を捻出することで、発注者とともにゲンバの士気を高めていく。国内の建築生産プロセスにおけるそのような我々の立ち位置は決して間違っていないと、考えます。
若干浪花節ながら、私が携わった東日本大震災後間もない現場でも、寝袋で寝食を共にしたゼネコン職員の方、その下請会社の方と時に喧嘩をし、時に健康面での不安さえ抱えながらも皆、発注者に誠意を持ち、目の前の「日本の復興」というミッションに対して全力で戦っていたと実感しています。漠然としている感は否めませんが、そのような日本的ゲンバの利点を整理して、そろそろ迫りくる国際化の中での「日本型エンジニヤ」像を、我々のような立場から定義し始めなくてはならないのかもしれません。

「アルマゲドン」に見る「日本型エンジニヤ」の可能性

などと少々悶々としていた休日、「おススメの泣けるDVDが見たい」と小6の愚息からせがまれTSUTAYAで借りて来たのが「アルマゲドン」。エアロスミスの主題歌とともにその昔世界的にヒットした、単細胞の私には号泣系の映画ですが、なぜ主役のブルース・ウィルスは地球を救うため仲間と一緒に戦うことになったのか憶えている方はいらっしゃるでしょうか? 簡単にご紹介すると、あるとき人類を滅ぼすのに十分な大きさの小惑星が地球に迫ってくる。NASAはその対応策を必死で考えるが、その期限は18日間。そのとき一人の科学者が言う。「小惑星の内部で核爆発を起こせば破壊できる」と。そこで核爆弾を設置するため深さ240mの穴を掘削すべく、急遽訓練され宇宙へ旅立つことになるのがブルース社長率いる石油発掘会社のアウトローな仲間たち[図3]、ということなのです。

図3『 アルマゲドン』[1998]にて、地球へ迫る惑星へ向かう石油採掘のプロ、ブルース・ウィリス演じるハリーと仲間たち。 [イラスト=野口理沙子]

実はこの映画の中で各者の立場を顧みてみると、そのような非常事態にかかわらず、皆がYellow Book的な役割を忠実にこなしていることがわかります。大統領(「発注者」)から雇われ、ブルース達の契約やら爆弾の設置方法をマネジメントするNASAの司令官や科学者は「エンジニヤ」であり、ブルース達や彼らを巨大隕石まで運ぶシャトルの乗組員は「請負者」そのものです。そんな中、ブルース達の無茶な契約条件(「一生税金タダにしろ」とか「溜まった駐禁の罰金をチャラにしろ」とかですが…)を司令官は大真面目に受け止めたりもします。
勿論、地球に残ったエンジニヤが作戦を変更するためには発注者の了承が得られないとNGですし、現場の請負者は許可がない作戦変更は実行できない。そのような契約社会的な現場を破ったのは、ひたすら誠意を持ってミッションを果たそうとしたブルースら請負者であり、その熱意に心変わりしたエンジニヤ。最終的には犠牲者を何人も出すものの、巨大隕石は見事破壊され、地球の民は救われる……。ん? それって日本のゲンバの形に近いのでは?
日本型ゲンバのココロが世界的に受け入れられそうな算段が立ったところで、裕次郎時代にさかのぼって「黒部の太陽」や「富士山山頂」をハリウッドリメイクするあたりから、今後の「日本型エンジニヤ」=「エンジニ屋」の役割を世界にプロモートした方が、案外手っ取り早かったりするのかもしれません。

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