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参謀レポート

注目される公共工事におけるデザインビルド方式

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昨今、公共工事では、デザインビルド方式や設計・施工一括発注方式が採用される、もしくは採用の検討が開始される、といった動きが活発化しています。
また震災復興事業においては、アットリスクCM方式という発注方式が多くの案件に採用されています[図1]が、この方式もまた、施工者に設計も含めて一括で発注する、という意味では、一種の設計・施工一括発注方式と捉えることができます。
設計・施工一括発注方式やデザインビルド方式の導入議論が活発化している理由として「震災復興」と「東京オリンピック」という2つの大きなきっかけが挙げられます。いかに迅速に復興事業を推進するか、いかに早急に計画、建設しなければならないオリンピック関連施設を発注するか、といった大きな社会的要請の中で、多数の案件での本格的な設計・施工一括発注方式の採用が検討されるようになってきた、と考えられます。
そもそもこれまで公共工事において、設計・施工一括発注方式が採用されてこなかったのは、なぜでしょう。そもそも公共工事の発注方式は、何に基づいて規定されているのでしょう。ここでは公共工事の「そもそもの話」に立ち戻って考えていきたいと思います。

図1 岩手県大槌町の復興プロジェクトにおけるアットリスクCM採用の図 [出典=建設通信新聞 2013年2月20日 第1面]

公共工事における発注方式

図2 予決令第79条、80条、会計法第29条

民間工事では一般的に活用されている設計・施工一括発注方式が、公共工事では一般化されていないのはなぜでしょうか?
民間工事と公共工事の最も大きな違いの一つとして、建設資金が自己資金か税金か、という違いがあります。
公共工事の発注システムには、税金の使い方について、公正性・透明性が厳しく求められるがゆえに、その責務を果たすための仕組みが組み込まれている、と考えられます。
日本において国の入札・契約制度を規定しているのは会計法であり、その運用を定めているのが予決令(予算決算及び会計令)です。
一方、地方公共団体の調達制度は国にならい、地方自治法や地方財政法により規定されており、その運用を定めているのが地方自治法施行令です。
これらの条文の中には、設計・施工一括発注方式やデザインビルド方式を導入する障壁になりそうな条文がいくつか見られます。主なものとして、以下の2点が挙げられます。

(1) 価格競争が大前提
会計法では一般競争入札、指名競争入札、随意契約以外の契約方式は認められていません。つまり、随意契約以外の案件については、原則として入札(=価格競争)が前提となっており、技術力や品質を加えた総合評価は行わないことが原則となっています。
これは、施工者の技術力を加味して設計・施工者を選定する、ということに大きなメリットがある設計・施工一括発注方式には、適合しない内容といえます。
ただし、こうした契約方式については、設計施工分離方式においても施工者の技術力をきちんと評価する必要性があるため、2005年に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が制定されて以降、総合評価方式が採用されるケースも増えており、変化しつつあるのが実情です。

(2) 予定価格制度の存在
予定価格とは、まず一定の施工条件などを想定し、そのうえで発注者側で費用を積算して、ここまでなら支払ってもよい、という上限の意思を示した金額をいいます。この予定価格について、予決令第79条、80条、会計法第29条では、[図2]のように記されています。
つまり、税金を公共事業に活用するにあたって、発注者側が自ら、もしくは設計者及びコンサルタントに依頼して、設計書や仕様書を適正に作成し、それに基づき発注者側で適正な予定価格を設定して、それを超える価格での契約は行わない、という取り決めとなっています。
予決令の中では、仕様書・設計書などの精度や作成者について明確に定められてはいませんが、条文そのものが設計施工分離方式を大前提としていることが読み取れます。
明確に設計施工分離を義務付ける法律上の規定は見られないものの、透明性を持って公正に税金を使う、という観点から、公共工事は設計施工分離方式、ということが様々な条文の大前提となっており、実際ほとんどの場合で、設計施工分離方式が採用されているのが現状です。

設計・施工一括発注方式とデザインビルド方式

一方で民間プロジェクトにおいては、様々なバリエーションの発注方式が採用されています。1つの会社(ゼネコン)が設計と施工を一括して受注する設計・施工一括発注方式も多くの案件で採用されていますし、設計事務所と施工者がコンソーシアムを組んで設計業務を受注するデザインビルド的な手法も一般的に採用されています。
民間において設計・施工一括発注方式を採用する大きなメリットは、
●施工者の技術力を設計に反映できること、
●コスト・工期についてのコミットメントを早い段階でとれること、
●生産計画や調達計画の前倒しによる工期短縮、
などが挙げられます。

一方、デメリットとしては、
●実施設計が完了していない状況での見積りと技術提案を元に設計・施工者を選定するため、見積り条件の認識違いや設定漏れ等による増額リスクが存在すること、
●また設計期間中の発注者要望に伴う設計変更見積りが高止まりするリスクが存在すること、
などが挙げられます。
比較的条件設定のしやすい用途や、施工方式の難易度の高いプロジェクト、短工期・低コストを追求するプロジェクト等では設計・施工一括発注方式を採用、
設計期間中の変更が多くなる用途や、施工の難易度が低い案件等では設計・施工分離方式を採用、
というように、民間では発注者側が状況に応じて様々な長所短所を考慮し、発注方式を柔軟に選定している、というのが現状です。[図3]

 

昨今の公共工事の動向

図4 東京都のデザインビルド採用の記事 [建設通信新聞2013年12月6日 第1面]

しかし公共工事でも、この1、2年の間で徐々に、設計・施工一括発注方式、デザインビルド方式を採用するニュースが見られるようになってきました[図4]。

公には公表されていない案件においても、山下PMCのようなCM会社が地方自治体から設計・施工一括発注方式の採用について相談を受ける、といったケースも増えてきています。
ただ公共工事における設計・施工一括発注方式導入の試みは、ここ数年で急に始まったわけではありません。時系列でその背景を追ってみましょう。


1993年:多発した公共工事をめぐる贈収賄事件を機に、国土交通大臣の諮問機関である中央建設業審議会から数回にわたり、公共工事の入札・契約制度に関する建議がなされ、改善が図られるようになる。
1998年2月:多様な入札契約方式として、総合評価落札方式や、設計・施工一括発注方式等の導入が推進される。
2001年3月:設計・施工一括発注方式導入検討委員会から報告書(*1)が提出される。設計・施工一括発注方式におけるリスク分担の考え方や予定価格の算定方法、設計変更の考え方などが、まとめられている。
2001年4月:「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が施行される。この法律に基づく適正化指針の中でも、技術力を活用した多様な入札契約方式の導入が求められる。
2009年3月:設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式の実施マニュアル(案)(*2)が提出される。

今後の課題

現状では、設計・施工一括発注方式は震災復興事業や東京オリンピック施設建設の計画に対して、いずれも「スピード」という非常にシンプルな理由で特例的に採用されている状況と言えます。
ですが、まだ設計・施工一括発注方式やデザインビルド方式は、公共事業という公正性・透明性を求められる事業において制度的に満足できる仕組みを構築できている状況といえません。
設計・施工一括発注方式、デザインビルド方式はいい意味でも悪い意味でも「良い加減(いい加減)」な条件での発注方式といえます。
細かい制度的な部分では予定価格制度との整合性、分離・分割発注との整合性、地元企業活用手法(オープンブック方式等)の整備、設計変更時の工事費増減ルールの整備等、解決すべき課題は山積していますが、これらの制度的な課題は事例の中で推進手法を整備し、制度・法律の改訂を並行して行っていくことで十分解決可能な課題であると考えます。
大きなテーマとして、最大の利点でありながら同時に最大の課題でもある「良い加減(いい加減)」な状態での発注、ということを公共工事における公正性と透明性を満たしつつ、いかに解決していくか、ということが、設計・施工一括発注方式、デザインビルド方式を公共工事発注手法の選択肢の一つとして定着させることができるか、の肝になると考えます。

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