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古阪秀三・京都大学教授に訊く「発注方式が多様化する今、発注者に必要なスキルとは?」

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古阪秀三・京都大学教授に訊く「発注方式が多様化する今、発注者に必要なスキルとは?」

民間工事は言うに及ばず、公共工事にもデザインビルドやECI方式といった多様な発注方式が導入される現在。高度化する発注に対応するため、発注者は何を自らの役割とし、何を外部専門家に任せるべきか。長年にわたり建築業界の合理化を大学人として推進してきた先駆者である古阪秀三・京都大学教授に、忌憚のない意見をうかがった。

デザインビルド、ECI…多様な発注方式から何を選ぶべきか

最近は発注方式が多様化していて、民間工事は言うまでもなく、公共建築工事にもデザインビルドECI方式(アーリー・コントラクター・インボルブメント)が採用されている例をよく耳にします。

デザインビルドは早い段階で建設会社を入札による競争で決められるため、発注者である行政にとっては建設費を先に決められるという利点があります。不調不落が起きて工期が遅れるリスクを回避できるからです。しかし、適切な競争であるか否かには疑問があります。

一方のECI方式は、施工者であるゼネコンを設計のある段階から参加させ、技術提案を求める方式ですが、これはゼネコンとの信頼関係を持つパワーユーザーが発注者だからこそ成り立つ仕組みで、“一見さん”には難しいといえます。特に公共工事への採用にはかなりの工夫を要します。

いずれにせよ、それぞれ発注者にとってメリットのあるやり方ではあるのですが、反面、いかに発注者が責任を免れるかという動機が多様な発注方式を生み出している側面もあるのは残念ですね。

今後も発注方式は多様化の道をたどるのでしょうか。

もっと多様に、柔軟になると思いますし、なるべきだと思います。しかし日本の場合は法体系が一式請負を前提としてできていて、現状にそぐわないため、法律を変えるべきだとも感じます。

発注者は発注方式をどのように選べばよいでしょう。どういったプロジェクトにどのような発注方式が適しているのか、見極め方はあるのでしょうか。

発注方式は多様化していますから、発注者側には最適な発注方式を選定する能力が必要です。しかしどのような発注方式が適しているのかということは、一概には言えません。プロジェクトの規模や目的によりますし、さらに発注者の持つしがらみや、法制度に影響を受ける部分もありますから。したがって中立的な技術やマネジメントの専門家を雇うことも時には必要です。

専門家の力をうまく借りるために必要なこと

「中立的な技術の専門家」の職能の一つとして、古阪教授は大学人の立場からCM方式の普及を推進されてきました。信頼できるCMr(コンストラクションマネジャー)の条件や選び方のポイントを教えてください。

日本コンストラクション・マネジメント協会(以下、日本CM協会)の会員かどうかというのは、ひとつの基準になると思います。とある市が高等学校の設計者選定プロポーザルの参加要件に、日本CM協会の会員であることを盛り込んでくださったことがあります。理由を尋ねたところ、まさに必要な業務を遂行するための条件が日本CM協会の定款に見事に書いてあったので、会員であることは条件として充分だと感じたそうです。

前回のお話で、発注者の最大の役割は「プロジェクトの目的をはっきりさせること」だとありました。その段階から専門家に相談したいという思いもあるのではないでしょうか。

海外に目を向けるとロンドン不動産バブル以降のイギリスでは、ディベロッピング・マネジャー、DMrと呼ばれる役割があらわれつつあります。ロンドンのオールドタウンの再開発のために出てきたもので、発注者の下で再開発の戦略を立て、必要なプレイヤーを引っ張ってくる役割です。

DMrはCMrよりも任せられる範囲が広いです。いうなれば昔の王様から我が土地を何とかしてほしいと頼まれて対応するというような立場で、守備範囲には資産運用まで含まれている感じです。日本でいえば財閥系企業の開発部門が近いことをしているかもしれません。

CMrにせよDMrにせよ、専門家に力を借りる場合でもやはり発注者のビジョンが最も重要で、自ら実行するのか誰かに託すのか、責任をどこまで取るのか、を発注者は決める必要があります。

発注者が自らの責任の範囲を決めるために、必要なことは何でしょうか。

発注者には、どういう仕組みで建築が成り立っているのかを理解してほしい。先ほどの話に出たECI方式は、新国立競技場の建設事業で採用しようとして頓挫しましたが、特徴をよくわかっていないまま導入したことが失敗の原因と感じました。新国立競技場整備計画経緯検証委員会(※)の検証報告書には導入自体は妥当であったけれども、推進体制と役割分担が不十分であったことを書きました。

※古阪氏は2015年、文部科学省の同委員会の6名中唯一の建築を専門とする有識者として、新国立競技場整備計画の経緯についての第三者による検証に関わった。

もっと細かい話で言えば、日本では発注者や設計者が資機材のメーカーを指定することで不用意なコストアップを招いたり、仕上げ材の割付・目地合わせにこだわるが故に端材が多量に出たりすることが常態化しています。海外の建築家はデザインに大きな影響を及ぼすところだけにこだわり、指定するものですし、日本の発注者ももはや目地合わせ等にこだわることは少なくなっています。そのようなこだわりをなくすことだけで結構な手間とコストが低減することにつながります。

発注者はそうした仕組みを理解して賢くなった上で、自分にできないことは人に頼る、という態度を貫いていただきたいと思います。

聞き手・文:平塚桂
写真:衣笠名津美

古阪秀三
Shuzo Furusaka

1951年兵庫県生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。清水建設を経て1976年より京都大学助手、1987年同大学助教授、2015年同大学教授。博士(工学)。2001年の日本CM協会の立ち上げに携わり、2001年〜05年まで会長職。2015年には文部科学省による新国立競技場整備計画経緯検証委員会の6名中唯一の建築を専門とする有識者として委員を務めた。

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