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古阪秀三・京都大学教授に訊く「これだけは押さえておきたい、発注者の基礎知識とは?」

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古阪秀三・京都大学教授に訊く「これだけは押さえておきたい、発注者の基礎知識とは?」

近年は建築プロジェクトが大型化・複雑化する一方、発注者としての責任をステークホルダーから厳しく問われるようになっている。発注者にますます高度な能力が求められる今、建築を発注する立場の企業経営者や施設担当者は、どんな知識や心構えを身につけておくべきだろうか。長年、建築業界の合理化を大学人として推進してきた古阪秀三・京都大学教授に聞いた。

「ずるい発注者」が建設労働者を圧迫してしまうしくみが問題

古阪教授は、建築生産システムの主に「マネジメント」という分野の研究を続けていらっしゃいます。CM(コンストラクションマネジメント)という概念がほとんど知られていなかった1970年代から一貫してこのテーマに注目しているのはなぜですか?

僕は大学時代、恩師の巽和夫先生に「社会に出て勝負し、3年で人生を考える」と宣言して、あえて大学院に進学せずに学部を出てすぐに大手ゼネコンに入社しました。施工部門に所属し建設現場に赴いて仕事をする中で、透明性が欠如して職人たちが不遇な業界のひずみを目の当たりにし、建築生産システムの再構築が必要だと痛感しました。

現場からマネジメントの重要性に気づかれたということですね。“建設業の世直し”を考えたといったところでしょうか。

出発点はそこです。現場でがむしゃらに働いて年休も取っていなかったので、2年目の終わりに休みを取ってアメリカで本場のCMを見て勉強したいと支店長に直訴し、許可をもらいました。ところが視察前に大学を訪ねたところ大きなプロジェクトがあるから手伝ってほしいと呼ばれてしまい、結局アメリカに行かずに大学に戻り、研究に携わることになりました。

建設現場で感じたという日本の建設業界の「不透明さ」の要因はどこにあるのでしょうか?

端的に言うと、「ずるい発注者」が勝つ仕組みが問題です。あるいは無知が「ずるい発注者」をつくるというのでしょうか。

たとえば法定福利費というものをご存知ですか? 建設労働者の保険加入のために必要な社会保険料のことです。本来は発注者がゼネコンやサブコンを介して建設労働者に支払わないといけないのです。長年の働きかけによって2017年からは、保険をかけていない労働者は現場に入れてはいけないというルールが施行されますが、それまでは罰則がなかったため、支払わずに済まそうとする発注者が多かったのです。

発注者がこのようなことをすれば海外では、専門工事業者や建設労働者が文句を言い、訴訟を起こすはずですが、日本人は争いごとを嫌うので、そのままになってしまう。そういうことの積み重ねで、建設労働者の処遇がなかなか改善されてこなかったのです。

古阪教授がCM方式の普及を推進されてきた背景にも、このような問題意識があるのですね。

2001年に日本コンストラクション・マネジメント協会(以下、日本CM協会)を立ち上げて4年間会長を務めました。日本CM協会の基本理念の前文に「日本CM協会は『健全な建築生産システムの再構築』と『倫理観をもったプロフェッショナルの育成』を目標に活動すること」と示しているように、業界の透明化、健全化を図ることを目的のひとつとして設立しました。

発注者の最大の役割は、プロジェクトの目的を示すこと

透明化・健全化のためには、発注者の倫理観、あるいは知識も大きな課題であるように思います。

発注者は、「どのような行為が、何に基づいて、誰の責任になるのか」を理解する必要があると思います。

たとえば横浜のマンションに端を発した「基礎杭データの改ざんならびに支持層への杭の未達問題」では、マンション購入者に対する契約上の責任は発注者にあり、発注者に対する工事請負契約上の責任がゼネコンにあるという当たり前のことが、なかなか明確に表明されませんでした。契約上の責任と法的な責任とは、大きな違いがあります。そこをわかっていない発注者が多いと感じます。

近年では建設プロジェクトが大型化・複雑化しているうえ、発注者が差配に失敗したり、不透明な発注をしたりすれば、株主や市民といったステークホルダーから厳しく責任が問われるようにもなっています。発注者に求められる能力は、年々高度になっていると感じます。その中でこれだけは発注者が責任を持つべきだと思われることを教えてください。

そもそも最近の大きなプロジェクトの場合、発注者とは「発注者グループ」を指す場合が多いのです。真のオーナー、クライアント、運営者、投資家といった多様な主体が複合した巨大な組織となりつつあります。

だから、まずは発注者として責任を持つのが誰なのかを明確にする必要があります。その上で発注者がやるべきこととは、どういう文化で何をしようとしているのか、プロジェクトの目的をはっきりさせることです。

発注者はフェーズごとにプロジェクトの目的を共有し、適切にプロジェクトの方向性を明確に示す必要があります。たとえばVE(※)を行う場合でも、コストを目標額まで下げることを優先すべきなのか、品質を優先すべきなのか、会議で発注者が方針をはっきり言ってくれるとプロジェクトはスムーズに進みます。

※VE(バリュー・エンジニアリング):製品やサービスなどのコストあたり機能を上げ、費用対効果を最大化する手法。建築分野では、建物やその施工方法、メンテナンスについて行われる。

聞き手・文:平塚桂
写真:衣笠名津美

古阪秀三
Shuzo Furusaka

1951年兵庫県生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。清水建設を経て1976年より京都大学助手、1987年同大学助教授、2015年同大学教授。博士(工学)。2001年の日本CM協会の立ち上げに携わり、2001年〜05年まで会長職。2015年には文部科学省による新国立競技場整備計画経緯検証委員会の6名中唯一の建築を専門とする有識者として委員を務めた。

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