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参謀レポート

耐震改修に関する法律「クライアントが望む設計者の対応」

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クライアントから耐震改修の相談を受けると、多くの場合、構造の設計担当者が耐震改修の手法を説明し、プロジェクトを進めていることと思われる。確かに、クライアントのニーズにはしっかりと応えているし、それに対するクレームは多くないかもしれない。

クライアントの【二つのニーズ】

では、常にクライアントの真のニーズを探り当て、強い信頼感を獲得しているといえるだろうか?
私たちにフィーを支払うのがクライアントであるにもかかわらず、実は私たちの興味の中心は多くの場合、自ら実現したデザインや技術に関することにある。業務に見合ったフィーとクライアントの信頼感の両得は、自らと業界全体の社会的地位の向上の実現には絶対に必要なことであり、信頼感なくて十分なフィーもあり得ない。
そして、その両得がなければ蓄積したノウハウの継承者を失い、技術は衰退する。そのような認識をもてば、クライアントの信頼を得ることが技術者としていかに大切なことか共感できるだろう。

図1 クライアントの潜在的なニーズを探る



私は、数多くのプロジェクトマネジメントの経験から、信頼感の獲得には【二つのニーズ】の充足が必要不可欠と考えている。一つ目のニーズは、クライアントの口から直接聞くことのできる【顕在化したニーズ】。二つ目は、言語化されていないものの、本質的に求めている【潜在的なニーズ】である。これを、耐震改修に当てはめれば、クライアントの顕在化したニーズは耐震改修による建物安全性の向上、つまり、現行耐震基準相当への安全性の向上となる。

では、潜在化しているニーズはどこにあるか?
クライアントは、建物を【固定資産】として捉えている。つまり、建物を所有し自らの生活や実業を営み、あるいは収益物件としてそこから利益を得ることを目的としている。
したがって、設計者に期待している潜在的なニーズは、常により少ない工事費(=経費的支出+資本的支出)で、より豊かな生活、より多くの収益を得られる、そのような提案にあるといえる。
以上から、打合せの際には、常にクライアントの潜在的なニーズを探り、言葉にされていない多様な想いに応えること(図1)、そのために十分な体制を整えることが重要といえる。

理想的な業務体制

では、具体的にどのような設計体制が理想的か? 答えは、構造の担当者主導であったとしても、意匠、そして設備の担当者とともにチームを組成することにある。
意匠や設備の担当者の関わり方は、プロジェクトの特徴にもよるし、場合によってはスポット業務で十分かもしれないが、ともかくチームを組成する。そして、幅広な視点からクライアントの潜在的なニーズを含めて検討・提案し、プロジェクトの正しい方向性を確定する。
この取組みは、設計者・クライアント双方の不用意な機会損失を防止し、大きなメリットをもたらす(図2)。

図2 十分な設計体制がもたらす多用な機会



真の説明責任の実践とクライアントの理解

上記の過程で重要なことは、提示する選択肢は常に技術的に正しく、かつわかりやすいということ。数字の羅列や専門用語だけの説明では不十分だし、技術的な特徴やリスクの説明が不足するのも問題がある。
また、これら技術的なものに加え、工事を法的に規定する改正耐震改修促進法についても、法文の紹介に留まらず、社会的な背景と趣旨、それを守ることによるメリットなど、わかりやすく説明することを心掛けたい。つまり、【高度な説明責任】の実践である。さらに、クライアントを理解するという観点からは、その工事費が会計上どのような扱いとなるか、その基本的な思想は理解しておきたい。一般論的にいえば、構造の安全性が高まるという付加的な価値に供する工事費は資本的支出、それ以外の仮設や仕上材の撤去復旧など、付加価値に供しない工事費は経費的支出として仕訳される。建物を純粋な技術だけでなく、会計・財務、経営的な視点から俯瞰することは、クライアントと同じ言葉での会話を可能とし、相互の信頼感、よりよい関係構築を大いに助ける。

戦略構築(ストラテジー)パートナーへ

「二つのニーズ」の充足と「真の説明責任」を実践した場合、業務の質やポジションはどう変わるか。【指示したことをやる作業者】から、【期待以上の価値を提供する人】。つまり、一設計実務者の立場からクライアントの重要なストラテジーパートナーに昇華され、そこには大きな違いが発生する。専門領域の確かな技術力が必要なことはいうまでもないが、ニーズの深掘りにより期待以上の価値を提供してくれるパートナーたることこそが、多くのクライアントが設計者に望むことであり、冒頭に説明した自らと業界全体の発展を導く。そして、これらの取組みは日本の社会ストックの有効活用への貢献となる。ぜひ、ともに実践し未来を切り開こう!

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