The Report #05 アリーナ建設ラッシュの今
全国でアリーナ建設、開業の発表が相次いでいます。なぜこれほどまでにアリーナに期待が集まっているのでしょうか? スポーツ・エンタメビジネス、建築、事業スキームなどの観点から、山下PMC プロジェクト統括本部 都市創造部門 都市創造2部 部長の柿田 浩介がお伝えします。
多目的化するアリーナ
スポーツ庁と経済産業省が推進している「スタジアム・アリーナ改革」も後押しし、全国で1万人規模の大型アリーナ整備が活発になっている。
特に男子プロバスケットボールのBリーグは、新たな1部リーグ「Bプレミア」の参入条件にアリーナ整備基準を取り入れていることもあり、2028年までの完成を目指し、公設、民設両方のスキームで多数の計画が進行している。
直近では2024年7月に「LaLa arena TOKYO-BAY」が開業、2025年には「GLION ARENA KOBE」、「TOYOTA ARENA TOKYO」が開業を控えている。
きっかけは“スポーツのためのアリーナ整備”ではあったものの、アリーナの活用は多目的化している。
背景には、Bリーグなどのプロスポーツのホームゲームは年間30試合前後であり、実態としては音楽興行など他の目的での利用が多く、多目的に利用できることが施設を運営するうえで重要であることがあげられる。
とはいえ、スポーツ施設建築を支援するPMという立場、そしてスポーツの一ファンとしては、プロスポーツチームのホームアリーナがまちに与えるインパクト、特に地方でのスポーツを中心としたまちづくりに大きな可能性を感じているし、これからも引き続き事業を推進していきたい。
民設民営 or 公設民営
アリーナは大きく分けて民設民営、公設民営の2タイプが主流だ。特に、民設民営アリーナは不動産事業としての事業成立性が難しい用途であり、山下PMCで事業計画を支援する場合は、アリーナの収入構成を貸館事業、ライツホスピタリティ事業、飲食物販事業、自主事業の4つに分けている。
海外では、ライツホスピタリティ事業の比率が高く、事業収入の骨格となっている。日本でも今後伸びしろを期待できる事業ではあるものの、まだまだ貸館事業への依存が強い。そのためプロスポーツの試合と音楽興行などの二軸で稼働率を上げていく必要がある。
それはボールデザインにもよく現れている。公共施設でよく採用されるコロシアム型は音楽興行で主流なエンドステージ裏の見切れ席が多い。そのため民設民営アリーナのボールデザインはスポーツと音楽(エンドステージ)の双方で、同数の席数を確保しやすい馬蹄型が主流となっている。
公共施設の「沖縄アリーナ」、「SAGAアリーナ」はコロシアム型、民間施設の中でも多目的利用の「LaLa arena TOKYO-BAY」は馬蹄型、音楽専用の「Kアリーナ横浜」や「東京ガーデンシアター」は扇形型。そういった目線でアリーナを見るのも面白い。
アリーナの事業計画を立案する場合、大きな指標は収容客数の設定である。例えばバスケットなどのスポーツの国際試合で主に必要なのは8,000人以上であるのに対して、音楽興行では10,000人以上が“選ばれるアリーナ”の目安と言われている。稼働率を上げるために、本来スポーツで基準となる収容客数よりも多い10,000人のアリーナが整備されているのである。
都市型/地方型
アリーナは立地によって都市型、地方型に分かれている。
都市型は既存施設との連携や複合型開発により、アリーナの集客力と周辺施設の集客力を活かしながら、平日の稼働率を上げるポテンシャルを秘めている。またアリーナは容積率をそれほど必要としないため、複合化することでホテルや商業施設に容積率を割り当てることができ、アリーナ単体開発よりも土地の有効活用が図れ、賑わい創出の相乗効果も期待できる。
一方、地方型の場合は一部の施設を除いて、複合開発による集客や平日興行による稼働率の向上はあまり期待できない傾向にある。地方ならではの事業の組み立てが必要だ。
https://www.ypmc.co.jp/stories/story46/
民設民営アリーナの難しさ
地方で民設民営アリーナを土地から建物まで、民間の力だけで成立させるのは並大抵のことではない。プロスポーツの試合日以外を音楽興行などで稼働率をあげるにも限界がある。そこで稼働のない日は公共施設に代わって一般利用を補完するなど、都市型とは異なる収益構造が必要であり、PPP/PFIや負担付寄付などの行政と民間の事業連携が不可欠である。
例えば、今後更新または新設が必要な公共施設の役割を、新たに整備する民設民営アリーナが担うことで、イニシャルコストを含め公民連携でのアリーナ整備の在り方を模索する必要がある。
また、直接的な公共利用の役割に加えアリーナが持つまちづくりのインパクトにより、アリーナ運営から生み出す収益だけではなく、社会的価値や経済波及効果を行政がトータルで考え、まちづくりの重要な起爆剤として行政と民間が事業連携した地方のアリーナ整備が重要である。
現在、私自身もアリーナ、スポーツビジネスを核としたまちづくりを支援しているが、公民で切り分けるのではなく、互いが連携、一体となった施設運営・事業推進が成功を左右することを体感している。
次回の「The Report」は、山下PMC 野澤 孝之がお届けします。