The Report #04 コンストラクションマネジャーに求められる資質
昨今の建設プロジェクトは、多様化・複雑化する事業スキームの中で、長い期間にわたり、さまざまな企業・職種でそれぞれ立場が違う方々が多数参画します。
建物を作り上げていく上での必要なもの決めの連続の中、発注者の代理人、CMr(コンストラクションマネジャー)の私たちは、円滑な意思決定を導くためにどんなことを心がけているのか? そして、CMrとして必要不可欠な資質とは何か? 山下PMC プロジェクト統括本部 技術ソリューション部 部長の品川 哲也がお伝えします。
施工者と一口に言っても……
はじめに、建設プロジェクトにおける代表的なステークホルダーをご紹介します。
- 発注者:建設プロジェクトを発注する組織や個人。プロジェクトの目的や要件を定義し、予算やスケジュールを管理する。
- 設計者:建物や施設の設計を行う専門家。建築設計、構造設計、電気設備設計などの分野で活動する。
- 施工者:実際に建物や施設を建設する企業。施工計画や工程管理、品質管理を担当する。
- PMr/CMr、建設コンサルタント:マネジャーや技術者として、発注者や設計者をサポートする専門家。プロジェクトの進行管理や品質管理を行う。
- 監理者(監督者):建設現場で工事の進行を監督し、品質管理や安全管理を行う役職。品質管理や安全管理を担当する。
- 施設運営・管理者:完成した建物を運営・管理を担当する。
- 利用者:プロジェクトの成果物である建物や施設を実際に利用する人々。
など。
ここに記載したのはごく一部で、たとえば、一口に施工者といっても、ゼネコンの営業担当者、現場所長、ゼネコンから仕事を受託している専門工事会社、ファブリケーター、サブコン、設備メーカーの技術者など、さまざまな職種・立場がありますし、職人さんと呼ばれる中にも、鉄筋工、型枠大工、とび工、左官工、内装工、外装工、塗装工、電工、設備工等など多岐にわたり、それぞれ専門分野もカルチャーもバラバラです。
私たちCMrは、発注者支援の役割を担っていますが、決して発注者だけに気に入られればいいというわけではありません。プロジェクトの川上から川下まで、参画するすべての関係者の方々と「対峙」し、同じ目的意識を共有し、それぞれが持っている高い専門性を引き出しながら、ともにゴールまで歩んでこそ、プロジェクトを成功に導くことができます。
昨今は、BIMや建設DXの導入も進んでいますが、施設建築はまだまだハンドメイドの世界です。プロジェクトの方針や全体像は、会議に参加する人だけではなく、現場で汗をかいている職人さん一人ひとりまで浸透するようにしなければ、発注者のビジョンは実現できません。
小さなことですが、私は工事現場に行った際、すれ違う職人さんには必ず挨拶をしています。また、施工が決められた手順で進められているか、安全対策に問題はないか、困っていることはないか、情報はきちんと伝達されているか、現場所長さん、現場職員さん、監理者さん、設計者さん、職人さん……一人ひとりに疑問に思った事は直接会話するようにしています。
CMrは何をマネジメントしているのか
ここで、少々教科書的な説明になりますが、CMrに求められる基本的な資質について触れたいと思います。
- コミュニケーション能力:チームメンバーや関係者と円滑にコミュニケーションを取り、プロジェクトの進捗や課題を共有する能力。
- 専門知識:建築や工学、プロジェクトマネジメントに関する知識。
- 問題解決力:問題が発生した際に適切な対応策を見つける能力。
- リーダーシップ:チームを指導し、プロジェクトを成功に導くリーダーシップスキル。
- 誠実さと信頼性:発注者と作り手との信頼を築くために誠実で信頼性のある人物。
マネジメント、コンサルタントの仕事と聞くと、頭脳プレーを浮かべる人が多いかと思いますが、実際の業務推進には、頭脳「IQ」と同等、もしくはそれ以上に、心の知能指数「EQ」が大切です。EQとは、Emotional Quotientの略で、一言で言うと、自分の感情を適確に把握し、その場に応じた適切な行動をとるために自分の心を調整する能力を指します。
私たちの仕事はプロジェクトマネジメント/コンストラクションマネジメントですが、まず自分の感情と対峙、それを認識し、行動をマネジメントできなければ、プロジェクトも人もマネジメントはできません。
AIアシスタント「Copilot」に聞いてみた “ビジネスでEQが重要な理由は?”
〝リーダーシップの向上: 高いEQを持つリーダーは、チームメンバーのモチベーションを高め、協力を促進します。共感力を持ち、チームメンバーの感情やニーズに応えることができます〟
〝効果的なコミュニケーション: 高いEQの人は、相手の感情や意図を理解し、適切なコミュニケーションスタイルを選択できます。ビジネスでは効果的なコミュニケーションが不可欠です〟
〝チームビルディング: 高いEQの人はチームの結束力を高め、協力関係を築くのに役立ちます。他者との良好な関係を築くのが得意で、信頼を構築します〟
〝総じて言えば、EQはビジネスにおいて個人やチームの成功に大きく寄与する要素です。ですので、EQを高めることはビジネスにおいて重要なスキルの一つと言えます〟
今、建設現場でおきていること
今、街を歩けば、あっちもこっちも工事の仮囲いだらけです。建設投資額の増加に対して、工事現場に従事する人手の確保は非常に難しくなっており、建設は日本の労働生産人口の減少の打撃を最も早く、ダイレクトに感じる業界です。
コスト高、人手不足、働き方改革……。建設業界を取り巻く状況は緊迫しており、工期の大幅な延長や施工不良などの問題が連日取り上げられています。 建設プロジェクトの進行を阻害する要因は多々ありますが、CM会社としての模範的な回答としては、最適なプロジェクト推進体制の構築、スケジュール・コスト・品質・安全管理、役割分担や課題解決のための手法提案といったマネジメント手法をあげるのが一般的でしょう。
しかし、プリミティブな部分に目を向ければ、「対峙」こそ必要だということがわかります。直接対峙する姿勢、対話の機会が不足しているからこそ、スケジュールやタスクの見立てが甘くなったり、目標が自分事になっていないことで現場のモチベーションが低下したり、問題解決への創造的なアプローチができなくなったり、さまざまな負の相乗効果を生み出してしまっているのです。
かく言う私たちも、常に完璧でもなく、失敗や反省もあります。以前、とあるプロジェクトで、パートナー企業の方からおしかりを受けたことがありました。先方の役員室におうかがいすると、大変ご立腹の様子でしたが、相手の表情や話し方から、私はすぐに「役割分担の認識が不明確」であることが原因だと気づきました。
CMrという職種は、知らない人から見たら煙たい存在に思われることもあります。ゆえに、プロジェクトの初期段階で、自分たちの役割を説明し、発注者だけではなく、設計・施工者をはじめとするプロジェクトメンバー全員の橋渡し役であることを伝えています。もちろん、1回の説明でご理解いただくのは難しいので、折に触れ何度でも説明するようにしています。
件のパートナー企業に対しては、スタート時の説明が不十分だったため、私たちが相手の利益を脅かす存在ではないかという誤解を生んでしまっていました。これは役割分担表を作ってただ提示すればいいということではなく、なぜこの役割をこの企業のこの担当者が担う必要があるのか? その理由や背景まで含めて、相手が納得するまでお伝えすることが重要です。最初の仕切りを間違えると、後々大きな亀裂につながるので、特に注意が必要です。
今回はCMrに求められる資質について、EQ、コミュニケーションを軸にお伝えしました。
建設プロジェクトには一つとして同じものはありません。クライアントから求められるものは多岐に渡り、その全てに対峙して答えを導くのが私たちの役割です。
そのためには、EQ、IQ、そしてモチベーションの源泉である体力も重要です。
次回の「The Report」は、山下PMC 柿田 浩介がお届けします。