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The Report #03 施設のライフサイクルで考えるCO2削減~ゼロカーボンへの道・後編~

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今週も山下PMCの阿久津太一がゼロカーボンへの道・後編をお届けします。
前編では、非サプライチェーン企業である当社がTCFDの提言に即し、どのような目標を設定し、実行しているのかお伝えしました。
後編では、PM/CMの立場として、私たちはどのようにお客さまのゼロカーボンへの取り組みをサポートしているのか、前線の情報をお伝えします。

CO2排出量3割を占める建築業界

ゼロカーボンを実現するためには、発電などのエネルギー転換部門の再生エネルギー化、運輸部門の電動化、産業部門の省エネルギー技術の導入や、業務・家庭部門の省エネ(ZEB※1・ZEH※2化)を行い、温室効果ガスの排出量を抑え、植林活動や二酸化炭素吸収技術などによる温室効果ガスの吸収が必要であることはよく知られています。

一企業や一個人で辿り着くにはたいへん険しい道のりですが、ゼロカーボン社会、持続可能な地球環境の実現に向けて、政府、企業、そして国民一人ひとりが協力し、小さな取り組みをコツコツ積み重ねていく必要があります。

さて、私たちが従事する建築業界ですが、2021年度の日本のCO2排出量における建築分野の割合は、業務部門(事務所ビル、商業施設等の建物)が、全体の17.9%。家庭部門が14・7%※3。合計で3割以上を占めており、建築業界の取り組みは、「ゼロカーボン」の実現を左右します。

Photo:PIXTA

※1:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称「ゼブ」。 快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物。
※2:Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略、「ゼッチ」。 ZEH住宅は、太陽光発電による電力創出・省エネルギー設備の導入・外皮の高断熱利用などにより、生活で消費するエネルギーよりも生み出すエネルギーが上回る住宅を指す。
※3:温室効果ガスインベントリ| 温室効果ガスインベントリオフィス|国立環境研究所 (nies.go.jp)

施設のライフサイクルに沿ってCO2排出量を考える

このようにゼロカーボン達成へのカギを握っている建築業界ですが、施設に関わるCO2排出量は、建設時のCO2排出量と、運用段階のCO2排出量に大別できます。
特に運用段階のCO2排出量の削減は、政府の政策としても、建築物省エネ法の規制の強化※4や、ZEBの普及促進など、積極的に取り組まれてきました。

国土技術政策総合研究所が報告している、2018年~2022年のWEBプログラムの申請データを分析した結果※5では、ZEB基準以上となるZEB Oriented以上となっている割合は全体の14.6%、件数は6,329件(工場用途を除く)と報告されており、まだ完全に普及はしていないものの、件数としてはかなり多くなってきています。

一方で、建物に関わるCO2排出量をゼロにするためには、建設時のCO2排出量の削減も必要です。資材の調達・施工において、様々な取り組みが始まっていますが、特に、製造や加工に要するエネルギーが比較的少なく、炭素貯蔵効果もある木材の建築物へ利用は注目されており、林野庁を中心に多くの報告がなされています※6。ただ、これまで、建設時のCO2排出量を評価する仕組みや環境が整っていなかったと思われます。ゼロカーボンに向けた様々な取り組みを行っている事業主、施工者の努力が適切に評価される必要が生じていました。

そのような状況から、一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)のゼロカーボンビル推進会議がLCAツールの開発に取り組み、建築物ホールライフカーボン算定ツール「J-CAT / Japan Carbon Assessment Tool for Building lifecycle」試行版※7が2024年5月に公開されました。J-CATでは、ライフサイクルで発生するCO2を以下のように定義しています。

①建築物のライフサイクル全体で発生するもの:「ホールライフカーボン」 ②新築・改修・解体時に発生するもの:「エンボディッドカーボン」  ②-1:新築時に発生するもの:「アップフロントカーボン」 ③使用段階に発生するもの:「オペレーショナルカーボン」

まだ、試行段階ではありますが、今後、ツールの利用が普及することで、エンボディッドカーボンの適切な評価につながり、ZEBの普及に伴うオペレーショナルカーボンの削減とあわせて、建築物のゼロカーボン化の促進となることを期待しています。

※4:tekigogimuka_orange_3 (mlit.go.jp)
※5:国土技術政策総合研究所 研究資料 (nilim.go.jp)
※6:esg_architecture-7.pdf (maff.go.jp)
※7:建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)|IBECs 一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター

ゼロカーボンに向けた建設バリューチェーン

ゼロカーボンへの道は、中長期的に考える必要があります。TCFD情報開示による2050年の目標設定も、建築物ホールライフカーボンも、初めからゼロにするのは難しく、一つ一つの積み重ねがゼロカーボンにつながっていきますし、これから政府の政策や、技術革新によるエネルギー革命などが起こる可能性もあります。

不確実な中でも、建設プロジェクトを進めるためには、建設フェーズ毎に施策を考えることが重要です。

ゼロカーボンに向けた建設バリューチェーン

事業構想段階では、最新の政府の動向や技術情報を元に、事業構想段階に経営方針と紐づく環境目標を定めることが重要です。企業全体のサステナビリティの取り組みに対する、対象の建物のホールライフカーボンの位置付けを考え、建物の性能や仕様を定める必要があります。

設計、施工段階においては、品質を確保するために、取組をモニタリングすることが必要です。特に、エンボディッドカーボンの削減に向けて、設計、施工段階の取り組みを評価することは重要となります。

建物引き渡し後の施設運営段階の取り組みも非常に重要です。エネルギーデータなどの実績値を分析しオペレーショナルカーボンを把握し、ホールライフカーボンの現在値の確認や目標の設定・修正、改善を行う必要があります。改善は、ハード・ソフト両面での施策を行いますが、ハード面の施策は、単純に最新の省エネ機器に更新するのではなく、事業性を考慮し、設備機器の劣化状況や耐用年数なども考慮した施策が必要となります。

建築物のゼロカーボン化は、目標の設定とモニタリング、そして着実な改善の実施が必要と考えています。

当社はPM/CMの専業会社として、お客さまのゼロカーボンに向けた建設バリューチェーン全体をワンストップで支援できます。そして、自らもゼロカーボンという壮大なテーマに取り組み、目標と成果をオープンにしており、トライアンドエラーで得た気づきをお客さまのために、社会のために役立てたいと考えています。

山下PMC 環境・運営推進本部 2部サステナビリティ戦略部 部長 阿久津 太一

次回の「The Report」は、山下PMC 品川哲也がお届けします。

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