水戸市民会館(中編)
ECI方式の採用、VEによるコストコントロール
ECI方式のデメリットを抑える提案も我々CMの仕事
- 鯉渕
- いざ工事の発注という時期には、全国的にホール建築の入札不調が続いていました。本当に工事ができるのかという不安の中でいろいろ検討し、ECI方式を導入したのも良かったと思います。
- 磯前
- RCと木造が混ざった高い技術力を要する建物ですし、木材を多用しているため調達に時間がかかるだろう……といったことを考慮して、ECI方式を採用することにしました。スケジュールの確実性も増しますし、ある程度早い段階で受注者さんと設計者さんの意思疎通ができるというのもプ
ラスの要素だと思っています。 - 海老澤
- 市民会館側からしますと、先ほどのプロポーザルのひとつの大きな柱が経費なんですね。オリンピックが近づいていたこともありまして、経費がかなり上がっていました。それは市長からも厳命されていますし、なんとしても予算オーバーは避けなければなりません。市の内部では、文化に興味がない人から「経費が上がったら、会議室1室を削ればいいじゃないか」とか「リハーサル室なんていらないでしょ」等と言われるんです。でも、リハ室のないホールなんて意味を成さないですよね。
- 伊藤
- 市が求める仕様に対して、CD(コストダウン)ではなくVE(バリューエンジニアリング)でやったのも、安心できた理由です。
- 村田
- 我々が関わり始めたのは、その頃でした。今お話しいただいたようにECI方式のメリットは数多くありますが、同時にデメリットやリスクもあるんです、という説明を最初にさせていただきました。我々がCMとして入るからには、準備段階からさまざまなデメリットを抑えるやり方を提案させていただきました。たとえば、ECI方式は仕様を確定できない状態で施工者に発注するので、途中、コスト面でうまくいかなくなるケースもあるわけです。そういったリスクを低く抑えるために、できる限り発注条件としての精度を高めるといった対応を心掛けました。
- 小倉
- ECI方式の場合、やはり設計者の協力が欠かせません。私たちは伊東先生のデザインやコンセプトを実現させることと、組合の事業やスケジュールとをどう両立させていくかが悩みどころでした。発注時には、ゼネコンさんから2段階でのVEを提案していただき、その提案に基づいて、設計者と一緒にコストを抑える工夫や具体的な合理化案を一緒に考えました。提案の中身を見た設計者は、「こういうところで減額できるのなら自分たちのコンセプトは守れるから、積極的に考えていこう」と前向きに協力してくださいました。施工予定者との間にも「これで事業費もちゃんと予算内に収まるのだったら、みんなそれがいいよね」という雰囲気が出来上がったのは良かったと思います
- 村田
- VEを2段階に分けたのは、不調を防ぐためにある程度幅をもたせたこともありますが、提案内容を見える化して、設計事務所さんと一緒に議論をする土壌づくりをする目的もありました。土壌づくりをうまく進められたことが、設計者さんとの大きなトラブルを避けられた秘訣かなと思います。
- 小倉
- たとえ公共事業でも「デザイン優先で進めたらお金があふれてしまいました」となると、建築家だけに責任が押し付けられてしまうことがあります。でもそこだけが原因ではなくて、事業を進めていく段階でなんとかコンセプトを維持し、事業をスケジュール通りに収めていく、という役割の分担はとても大事だと思います。
- 海老澤
- 発注者・設計者・施工者それぞれにこだわりがあって、市の担当部署が2つあって、コンサルがいて……。最大公約数を作りながら、一方でコストは抑えなければならない。小倉さんはそのあたりの調整がさぞ大変だったろうと思います。
- 小倉
- コストに関しても、コスト管理の主体を明確にすることに徹底しました。今回の事業は、複数の事業者が判断権限を持っているので、施工にかかるコスト増も理由ごとに分けてもらうよう、施工者にお願いしたんです。何の要因でいくら増えるのかが分かれば、権限先と直接相談できますから。
「ここは再開発事業の中でなんとか面倒をみてください」とか、「市民会館内の使い勝手に関する要望は、市でプラスマイナスゼロを目指しましょう」とか。 - 伊藤
- やみくもに安くすることにもならなかったですしね。
- 小倉
- たとえば地中障害が出たときに、それでコストが増えたから市民会館のグレードを下げましょうとなってしまうと、目指すべきものが変わってしまう。だから地中障害のようなものは組合でなんとか調整するから、市民会館は市民会館として最初に決めた目標の中で、いいものをつくっていきましょうというような、そういう仕切りがあったことは、関係者のモチベーションになったかもしれません。
- 実施設計段階の体制図。異なる役割を有する発注者・設計者・施工予定者間で意見が対立しないように、CMはコミュニケーションのハブとして中立的な立場に立ち、それぞれがフラットな関係で目標実現に取り組めるよう役割分担を整理し、同じ目標に向かう協力体制の構築に努めた。
- 事業費コントロールの過程。施工予定者の公募段階で受けた幅広い提案アイデアを採用し、目標工事費の達成を実現。工事施工段階も工事費増大に対して、要因別整理とさまざまなコストダウン提案により、発注者が許容できる範囲内での変更にとどめた。
- 「やぐら広場」の工事の様子。コストをコントロールしながら、設計者の提案を具現化した施設が完成した。
プロジェクトに関わったマネジャー
関連する用途
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公共
2014年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が改正され、公共工事においても多様な発注方式の採用が認められたことで、DB(デザインビルド・設計施工一括発注)方式、ECI(施工者が早期に関与)方式などが普及しつつあります。一方で、自治体の技術職員が減少する中で、2020年9月には「地方公共団体におけるピュア型CM方式ガイドライン」が発行され、複雑化・高度化する事業をCM活用により着実に推進する手法が広がりをみせています。また、多くの自治体では高度成長期に建設された施設の老朽化が進み、PRE戦略や公共施設マネジメントの立案・実施も課題となっています。
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まちづくり/複合施設
近年「まちづくり」や「複合開発」は一段と複雑化しています。事業主のビジョン・想い、立地、地域課題、マーケットの状況、都市計画の位置付けから納期、予算にいたるまで、諸条件によって大きくプロジェクトのあり方が異なります。通常の建設プロジェクトよりも長期にわたり、10年以上の時間を要することも少なくありません。関係者の数も膨大です。そこで重要となるのが、ブレないコンセプトと変化に柔軟に対応できるスキームの構築。創造力と実現力のある最適なプレイヤーが適切なタイミングで事業に参画することもプロジェクトの成否を左右します。
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教育/文化/アート
少子化が加速する社会において、学校づくりも新たな局面を迎えています。老朽化の進む学校施設を、品質などの標準化を図りながら整備したり、場合によっては民間からの活力を導入する仕組みや、施設の統廃合を視野に入れた検討も行わなければなりません。私立学校では学生獲得戦略に基づいた、ブランディングや魅力ある施設づくりも重要です。また文化・アート施設では、多様化する社会のニーズに応えるため観賞を主眼に置いた施設から体験型、食事や買い物も楽しめる複合型やリアルとバーチャルの融合への対応など、施設の役割・機能の転換が進みつつあります。
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