意思決定プロセスつかみ 手戻りを少なく
施設を計画する際にはまず、発注者を知る必要がある。必要な設備や面積といった施設に対する要望だけではない。大切なのは、施設を通して何をしたいのかを知ることだ。発注者の目的は施設という“箱” をつくることではない。その“箱” を使って何かを実現することだ。
その目的を明確に理解しておかないと、ある程度計画が進んだ段階で思わぬすれ違いが発生し、予定が大きく狂ってしまうかもしれない。予期せぬトラブルや不要な手戻りを防ぐためにも、プロジェクトの本質を早い段階で見極める必要がある。
キーパーソンを見抜け
話を聞くうえで最も重要なのは、発注者の真の課題を知ることだ。目の前にいる担当者の声は、施設に込められた経営戦略までは反映していないかもしれない。総務や財務、管財、生産管理といった部門ごとの担当者は、それぞれの立場における課題を主張しがちだ。同じ発注者の中から相反する要望が出ることもある。
ここで鍵を握るのが、会議体の設定だ。大きな承認を得る総合定例会議、実務レベルで調整する定例会議などが考えられる。人選の希望がある程度出せる立場であれば、部門ごとの分科会を別途設定するなど、場と人数を切り分けることが大切だ。
さらに取り組みたいのが、マネジメント層調整会議の設定だ。経営上のキーパーソンからプロジェクトに対する経営上の課題を吸い上げ、計画に反映させる。計画上の問題点などの議論を通じ、プロジェクトに対する相互理解を促進できる。
そして様々な視点の意見をくみ取ったうえで、定例会議でバランスの良い提案に落とし込めれば、信頼も高められるだろう〔図1〕。
[図1] 立場の異なる人の要望をうまく引き出す
経営者には施設に込めるべきミッション、総務担当者にはコストやスケジュール、現場責任者には作業空間のレイアウトの希望─。相手の立場に合わせて確認事項を変え、上手に施設への要望を引き出そう
発注者の企業文化によって、意思決定のプロセスは異なる。例えばカリスマ経営者によるトップダウン型の企業なのか、現場が力を持つボトムアップ型の企業なのかで、取るべき対策は違ってくる。時には発注側の担当者と会食の機会を持つなどして、それとなく皆の本音や社内の雰囲気を把握するのも手だ。
発注者の考えを知るうえでは、窓口となる担当者だけではなく、経営陣にも踏み込みたいところだ。なかでも、建設コストやスケジュールに関わる決定権を握っているのは誰なのか。この人が納得すれば場が動かせるというキーパーソンを、早目に見抜くことができれば心強い。
とはいえ、そういった立場にある相手と直接対話をする機会はなかなか持てないことも多い。オフィシャルな会議の場では、経営陣に対して儀礼的な報告のみがなされる場合も多く、本音が拾いにくい。狙い目は会議が終わった直後だ。私は立ち話でも良いので声を掛け、疑問点などを問い掛けるようにしている。