BEMSで生み出した年間2500万円の省エネ事例
ビルのライフサイクルのなかで何度か巡ってくる設備更新は、ビルの価値を上げると同時に、エネルギー消費を適正化するビッグチャンスとも言えます。今回は、熱源設備の更新にあたり、BEMS(Building Energy Management System:ビルエネルギー管理システム)のデータを分析し、最適なスペックと台数の機器に変更したことで、エネルギーコストが年間に2500万円も削減できた事例を紹介しましょう。
ビル省エネのカギを握る「熱源」
みなさんは、オフィスビルや商業ビルのエネルギー消費の用途内訳をご存知でしょうか。ビルのエネルギー管理においては、どこで、どのぐらいのエネルギーが使われているか、実態を把握することがポイントです。
じつは、いずれのビルも、大きな割合を占めているのが照明・コンセントと熱源で、それぞれ全体のおよそ3割に上ります。
(財)省エネルギーセンター公表の資料をもとに作成。商業施設はスーパーマーケットの事例
つまり、照明と熱源の設備機器の効率を上げれば、ビル全体の大規模な省エネの達成が期待できるわけです。でも、照明の場合は、蛍光灯をLEDに置き換えるぐらいしか方法がありません。
これに対し、機器の容量や設置台数の組み合わせによって多様な選択肢が考えられるのが、そう、熱源なのです。熱源機を最適に選択することは、ビルの省エネ率を大幅にアップさせる可能性を秘めています。
BEMSによる分析で、熱源の稼働率の低さを発見
ここで紹介するのは、ある商業施設の例です。設備更新の時期を迎えたこのビルでは、省エネ化が最大の課題となっていました。そこで、まずは記録されていた既存の設備運用データをBEMSによって分析したところ、意外な事実が判明しました。2台設置してある熱源機のうち、ほぼ1台しか稼働していない状況が続いていたのです。
新築時の設計では、まだビルを使用していない段階で設備仕様を決めるので、たいていの場合、熱源機の容量にも余裕を持たせて設定します。しかし、実際に供用を開始してみると、想定したほど需要がなかった、ということがよく起こります。
ところが、このビルのように複数の熱源機を設置してあるケースでは、それぞれの機器にメーターを設置していないかぎり、個別の稼働状況は把握できません。今回はたまたまBEMSが導入されていたことから、稼働率の低さが浮き彫りになったのです。
適正容量へ変更し、熱源だけで20%の省エネを達成
このビルに導入されていた2台の熱源機は、いずれも500RT(冷凍トン)と大容量の設備でした。つまり、総容量は1000RTです。これに対し、ビル内の空調機などからの要求はほぼ200〜300RTの範囲にとどまっていました。このため、2台目はほとんど稼働していないうえ、1台目の機器にも、少ない要求に対し大容量の機器を稼働させる無駄が発生していたわけです。
そこで、更新時には500RT×2台から容量と台数を変更し、200RTの高効率な機器を3台設置することになりました。こうすれば、通常は200RTの熱源機1台を稼働させるだけですみ、要求が増えたときに2台目が稼働してもロスが少なくてすみ、効率的に運用できます。また、トータルの容量も従来の1000RTから、更新後には使用実態に合った600RTになりました。
大型熱源機2台を高効率な熱源機3台に置き換えたことで稼働効率が大幅に向上した
結果として、このビルでは熱源機だけで、およそ20%の省エネを達成することができました。熱源機に関係する電気代、ガス代、冷却水の水道代を合計して、年間に約2500万円もの光熱費が削減できたのです。また、ランニングコストだけでなく、資本的支出(CAPEX)にあたる設備投資費用も、約40%低減させることができました。
さらに、熱源機を小型化したことで、機械室に余剰スペースが出現。このケースでは、屋外に設置していた受変電設備を同室内に移設することが可能になりました。屋内に設置すれば機器の耐久性やメンテナンス性が向上しますから、ライフサイクルコストの縮減に寄与することにもなったのです。
BEMSによるエネルギー使用状況の「見える化」を単にユーザーの省エネ行動促進につなげるだけでなく、設備更新時の機器スペック最適化に活用する――。これこそが、BEMSの面目躍如と言えるのではないでしょうか。