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症例6:「自己満足症」前年の数値を上回ることだけに満足していませんか?

症例6:「自己満足症」前年の数値を上回ることだけに満足していませんか?

今回から目線を変えて、財務的な視点で保有不動産の収益向上のコツをお伝えします。昨今は、不動産証券化の流れが進み、特定の法人だけではなく、海外も含めた複数の投資家が多数の不動産を所有しています。特定の法人は、ある程度の長期保有が前提のため、P/L(損益計算書)をもとに「前年からの収支の差」で保有不動産の収益性を管理してきました。しかし、投資家にとっての不動産は、株式などを含めた全ての保有資産の一部なので、「他の保有資産との収益性の比較」で管理します。株式など他の保有資産の投資利回りが仮に5%だとすると、不動産投資の利回り(リターン/投資額)が重要となります。一般的に保有不動産全体の収益性の指標としてROA(総資産利益率)が用いられるため、ROAを他の保有資産の利回り水準まで、いかに高めるかが重要となります

ROAを向上させる為の長期的ロードマップのイメージ

【図1】ROAを向上させるための長期的ロードマップのイメージ

ROAをいかに高めるかは、前年比の収支がプラスになったから良いといったような短期的な視点では検討出来ないため、長期的な視点が必要となります。長期的なROAの目標値を定め、それを実現するために、投資家が選択しうる他の投資対象との競争に勝ち抜くためのロードマップを作成する必要があるのです。そこで、マイケル・ポーターが提唱した以下「競争戦略における3つの基本戦略」をベースにご説明します。

1. 差別化戦略:
顧客に他の物件には無い付加価値を提供し、収益を拡大させる戦略です。要は「他には無い特徴を出すこと」が重要ですが、特徴を出すために今、注目すべきはESG(環境・社会・企業ガバナンス)投資の潮流です。図2に示すように、ESGの課題が投資ポートフォリオのパフォーマンスに影響する可能性があるという考えのもと、2006年に国際連合によって、ESGの視点に基づいた6つの責任投資原則が掲げられました。すでに株式ではESG投資の考え方が広く普及してますが、不動産においてもESG投資を意識する投資家が増えてきています。また、昨今頻発している災害の影響もあり、立地や床面積だけでなく、環境認証(LEED認証、WELL認証など)やBCP性能なども改めて注目されていますので、検討に値するでしょう。
2. 集中戦略:
特定のタイミングを狙い集中的に投資して、少ない投資で高い収益性を上げる考え方です。例えば、オリンピックなどの大型イベントに伴う景気拡大やインバウンド需要増を狙った投資などが考えられます。
3. コストリーダーシップ戦略:
他の物件より賃料を下げて、稼働率を上げようとする戦略で、過当競争に陥りがちです。投資体力が無い場合は、あまり積極的にはご提案できない戦略です。
ESG投資の潮流

【図2】ESG投資の潮流

以上のことを踏まえて、保有不動産の前年比収益性だけに目をやるのではなく、ライバル(株式など他の資産)の収益性に打ち勝つ戦略を立てることが重要なのです。

嘉門 隆史

山下PMC
事業管理運営本部 プロジェクトマネジャー
嘉門 隆史

京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻修士課程修了。大手事業会社勤務を経て、2011年12月に入社。新規開発プロジェクトにおけるPM/CMから、CRE/PRE戦略にもとづくFM/LCM(ライフサイクルマネジメント)業務等幅広い領域の総合マネジメント業務を展開。
主要資格:一級建築士、認定コンストラクションマネジャー、認定ファシリティマネジャー、エネルギー管理士

※本記事は、「週刊ビル経営」第1076号(2018年11月5日発行)に掲載されました。
発行元であるビル経営研究所の許可を得て、掲載しています。

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