症例7:「近視眼症」ROAの向上には、基本的な仕組みの理解と3つのアプローチで
症例7:「近視眼症」ROAの向上には、基本的な仕組みの理解と3つのアプローチで
ROA(総資産利益率)は、企業の総合的な収益性を測定する指標で、「利益÷総資産額」という計算式で求められます。では、この数値を上げるために、施設運営・管理部門は何をしていけばよいでしょうか?
連載第7回目は、山下PMCの『Facility Dr.』西村が、施設運営・管理部門がROA向上に貢献していくための3つのアプローチをご紹介します。
1 KPIを可視化する仕組みをつくる
ROAは、「不動産資産率×(不動産回転率-不動産費用率)」という3つの不動産管理指標の組み合わせに置き換えることができます。ここで、不動産回転率と不動産費用率は、いずれも「施設が直接的に関与する要素」と「施設が間接的に関与する要素」に分類できますので、収益・費用・関与度合から四象限に分類して管理していくことが有効です。
なお、企業不動産(CRE)は、財務諸表上、現状を把握しづらい資産と言われており、継続的に数値を管理していくためには、プロフィットセンター、コストセンター、勘定科目との関連付けなど、財務部門と連携しながら仕組みづくりを進めていくことが重要になります。
【図1】KPIを可視化する仕組みをつくる
2 日々の活動を四象限で捉える
KPIを可視化する仕組みをつくった後は、ROA貢献意識を日々の業務プロセスに落とし込んでいきましょう。ここで重要になるのが、それぞれの数値にこだわるのではなく、四象限を意識した議論の活性化に目を向けることです。冒頭でご説明した通り、ROAは、企業の総合的な収益性を測定する指標です。そのため、何かひとつの活動だけでは数値はほとんど変化しません。 また、施設管理・運営部門のみの活動で出せる成果は限定的であるため、事業部門との連携が重要になってきます。そういったことから、具体的施策として、利害関係者が垣根を越えて議論し合える場の設定と、合意形成を促すファシリテーション役の設定が有効になります。
【図2】日々の活動を四象限で捉える
3 ポートフォリオ分析で価値を可視化する
事業単位・施設単位などの管理単位に分類されたデータを蓄積し、さらに、将来の施設再投資などを加味した予測KPIを可視化する仕組みが構築できれば、施設の売却や購入、拠点再構築など、CRE全体を俯瞰した施設戦略を練ることが可能になってきます。
近視眼症に陥らないためのFacility Dr.の役割
事業戦略と財務戦略を施設戦略につなげる仕組みを構築し、事業部門・財務部門と日々連携しながら、ROA向上に貢献していきましょう。
山下PMC
事業管理運営本部 LCM部
チーフプロジェクトマネジャー
西村 貴裕(にしむら たかひろ)
立命館大学大学院理工学研究科修了。大手建築設計事務所で電気設備設計を経験した後、コンサルティングファームでBPR・BPO業務を推進。その後、外資製造会社で、管理会計、内部統制、業務改革、システム導入などの経営企画業務を推進後、山下PMC入社。
※本記事は、「週刊ビル経営」第1080号(2018年12月3日発行)に掲載されました。
発行元であるビル経営研究所の許可を得て、掲載しています。