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徹底分析!宿泊施設の容積率緩和制度でホテル投資が変わる(1)

徹底分析!宿泊施設の容積率緩和制度でホテル投資が変わる(1)

2016年6月13日、国土交通省都市局より「宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度の創設に係る通知」が全国の地方公共団体に発出されました。都市部を中心としたホテル不足の打開策として打ち出されたこの施策によって、国内のホテル開発を取り巻く環境はどのように変化するでしょうか。2回にわたり、徹底分析を行います。

ホテル用途なら既存の割増容積率限度を超えて緩和!

国土交通省が公表した「宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度」概要では、民間主導の下、宿泊施設の整備を強力に推進するため、既存の都市計画を活用して容積率を緩和するものとされています。具体的な都市計画手法として、高度利用型地区計画、再開発等促進区、高度利用地区、特定街区といった容積率緩和メニューが明示されました。

これらの手法は既存の制度メニューであり、目新しいものではありません。しかしながら、基本的には「指定容積率の1.5倍以下、かつ、+300%を上限に容積率を緩和」と具体的な数字を設定し、「既存の割増容積率限度を超えて緩和」することと、「公共施設整備等の都市貢献による緩和を受けている場合に、緩和後の容積率を基準にさらに緩和が受けられる」という考えを国が宣言したことは画期的です。

基本的な考え方

指定容積率の1.5倍以下、かつ、+300%を上限に容積率を緩和

公共貢献による緩和と併せて行う場合の考え方

公共施設設備等の公共貢献による緩和後の容積率の1.5倍以下、かつ、+300%を上限に容積率を緩和

高度利用型地区計画とは?

以下では、ホテル整備のために活用を推進されている都市計画制度の中でも、「高度利用型地区計画」に焦点を当てながら解説していきます。

高度利用型地区計画とは何でしょうか。

まず、地区計画とは、街区などの一定のエリア、あるいは共通した特徴を持つ地域ごとに、住民と区市町村が連携して地区の目指すべき将来像を設定し、その実現に向けて、建築行為に対する制限や緩和を設定するまちづくりの手法です。

地区計画には、制限や緩和の内容に応じて様々な「型」が用意されています。高度利用型地区計画はその型の一つで、「適正な配置及び規模の公共施設を備えた土地の区域において、建築物の敷地の統合を促進し、敷地内に有効な空地を確保するとともに、機能更新に必要な用途の導入を行うことで、土地の高度利用と都市機能の更新を図ることを目的」とした地区計画です。

わかりやすく言えば、都心商業地等の都市基盤が整っているエリアにおいて、円滑な建替えや再開発を促進するために、誰でも利用できる空地を設ければ、地区として誘導したい用途の容積率を割増してもよいというものです。平成14年に制度が整備され、すでに札幌や大阪など20程度の地区で活用されています。

今回の通知は、地域によらず全国的に誘導用途をホテルとして定めると国が宣言し、こうした制度をもっと活用しよう、というものです。

ホテル誘導には「エリア型」の高度利用型地区計画が得策

既に高度利用型地区計画を活用して容積率を緩和している「札幌駅前通北街区地区(7.1ha)」は、札幌駅前通りの賑わい創出を目的とし、通りに面する敷地にホテルを含めた賑わいに寄与する用途を導入した場合には、基準容積率800%のところを1000%まで計画することができます。さらに地下街や地下鉄出入口、一定規模の広場などを設ければ最大1050%となります。地域と行政がまちの将来像を描き、将来像を実現するための手段として高度利用型地区計画が利用されている事例です。

高度利用型地区計画は容積率緩和の手法としては、誘導すべき区域を事前に定めて面的に緩和する「エリア型」の方法といえます。一方、個々のプロジェクト単位で緩和する「プロジェクト型」の手法も存在します。たとえば、台東区の「東上野2丁目特定街区(0.35ha)」では、ホテル・集会施設機能の導入を目的として、特定街区により800%の容積率を1050%まで引き上げています。

各種都市計画制度における容積率緩和のパターン
エリア型 プロジェクト型
容積率緩和のパターン 誘導すべき区域を事前に定めて面的に緩和 個々のプロジェクト単位で緩和
都市計画の種類 高度利用型地区計画
再開発等促進区
再開発等促進区
高度利用地区
特定街区

都市計画における容積率緩和手法には、誘導すべき区域を事前に定めて面的に緩和する「エリア型」、個々のプロジェクト単位で緩和する「プロジェクト型」がある

こうした都市計画の決定主体は、原則として区市町村となります。従ってホテル誘導のために都市計画を活用するにしても、札幌市のようにエリアを特定し、まちの将来像を実現するためにホテルの誘導を位置づける「エリア型」を選ぶか、台東区のように特定プロジェクトありきの「プロジェクト型」を選択するかの判断は、区市町村により分かれるものと考えられます。

しかしながらホテル建設を誘導するには、区市町村があらかじめホテル容積率を緩和するエリアを可能な限り広く特定して、高度利用型地区計画を指定しておく「エリア型」であることが重要であると考えます。その理由は、ホテル事業者にとっての投資リスクが小さいことにあります。

ホテル投資熱を高める低リスク・スピーディーな容積率緩和が可能

ホテル事業者から見た「エリア型」高度利用型地区計画のメリットとして、まず容積率の事前明示性があります。

「プロジェクト型」に分類される再開発等促進区、高度利用地区、特定街区といった手法では、立地や公共施設整備等の都市貢献内容、建築設計の内容が個別審査・評価されるため、具体の設計をもって行政協議や近隣説明を進めなければ割増容積率は確定しません。この個別審査・評価の流れは大きく変わらないと思われます。(ただし今回の通知により評価基準が明確化し、ホテルの整備自体が一律に評価されること、またこれまでの割増容積率の限度を超えて緩和できることにより、個別審査の期間は短縮することが予想されます。)

これに対し「エリア型」の高度利用型地区計画は、個別の建築設計によらず、都市計画により事前に割増容積率が明示されているため、ホテル投資家は土地の仕入れの時点からリスクなく容積割増を想定することができます。詳細な解説は次記事「徹底分析!宿泊施設の容積率緩和制度でホテル投資が変わる(2)」で行いますが、区市町村が今回の通知の通り、基準容積率の1.5倍以下かつ+300%を上限として高度利用型地区計画を定めた場合、ホテル事業者は土地の仕入れにおいて単独敷地でもマンションデベロッパーと十分戦えるだけの競争力を得ることができ、ホテルへの投資熱が高まることが期待されます。

また、容積率緩和のための手続きが他の手法に比べて短期間で済むことも大きなメリットです。

区市町村が都市計画を決定するためには、縦覧や住民説明会など都市計画法に則った手続きが必要であり、3か月から6か月の期間が必要となります。従って、本通知後、区市町村が各種都市計画の指定に動いた場合、実際に緩和が始まるのは早くて半年後と予想されます。

「エリア型」の場合は、都市計画決定手続きをあらかじめ区市町村が実施しているため、事業者は確認申請の前に認定手続きを行うだけで容積率が緩和されます。札幌市では、標準事務処理期間を15日としており、確認申請期間が半月ほど長くなる程度で容積率が緩和されます。

一方、再開発等促進区・高度利用地区・特定街区などの「プロジェクト型」では、事業者による事前相談からスタートし、区市町村による都市計画手続きを経て確認申請となるため、最短でも1年程度の期間が必要となります。

ホテル事業者から見た高度利用型地区計画のメリット・デメリット(他の容積率緩和手法と比較して)
メリット 1)容積率の事前明示性が高い
 土地入札で強気の設定が可能。通知では1.5倍かつ+300%を上限としている
2)緩和手続きが容易
 他の緩和手法に比べ短期間(確認申請前の2週間程度)
3)スケジュール遅延リスクが低い
 上記2つのメリットから、近隣リスクや行政協議リスクが低い
デメリット 区市町村が高度利用型地区計画を定めなければ容積率は緩和されない。
面的に適用するため、区市町村は既存の都市計画との整合を図る必要がある

今回の通知は、最終的にホテルの容積率緩和を区市町村の手にゆだねる形となっていますが、実現した場合のインパクトは非常に大きいものです。インバウンドを取り込み、観光産業による地域活性化を目指す区市町村が、この効果を理解し、早急に高度利用型地区計画の策定に取り掛かることが望まれます。

なお、山下PMCでは、区市町村で定める高度利用型地区計画を含めた都市計画制度の策定からホテル開発をお手伝いする体制を整えています。


次回、「徹底分析!宿泊施設の容積率緩和制度でホテル投資が変わる(2)」では、今回の通知がホテル投資へのモチベーションを高める「本当の理由」を探ります。