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徹底分析!宿泊施設の容積率緩和制度でホテル投資が変わる(2)

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徹底分析!宿泊施設の容積率緩和制度でホテル投資が変わる(1)」では、6月13日に国土交通省都市局が全国の行政庁に発出した、「宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度の創設」に関する通知について解説しました。

この通知に基づき各行政庁が各種の都市計画制度を積極的に運用することにより、宿泊施設の容積率は1.5倍かつ300%を上限に緩和されることになります。これは、国内の、とりわけ大都市圏における不動産投資を大きく変える可能性を示唆しています。

ホテルは不動産投資の「おみそ」だった

現代における不動産投資は一般的に、総投資額に対する利回りで決定されます。つまり年間収入又は売却益が投資額に対してどれだけの割合を持つのかによって、投資の是非が決まります。これは、ホテルであれ、オフィスであれ、レジデンスであれ、どのような用途であっても原則として同じです。

オフィスやレジデンスと比較して、ホテルは初期投資額が非常に大きいのが特徴です。他の用途より一般的には単価が高くなる建設費のみならず、家具・什器・備品といった項目にまで投資が必要となるからです。それに対する収入は、というと東京や大阪などの大都市圏においては、オフィスに勝てる収益性は一般的には望めません。

それゆえ、永らくホテル(バジェットタイプを除く)は単体での投資対象というよりも、大規模テナントオフィスビルの市場における差別化要因として、またはシャワー効果の期待や付加価値として、複合建物の中の付属的用途として計画されることがほとんどでした。様々な都市計画手法を駆使して容積率アップのインセンティブを得るときに、業務(オフィス)床の増床が認められにくいことも要因の一つです。そうして、ホテル単体では収支が成り立たなくとも、主用途であるオフィスの競争力が高くなるのであれば全体としてOKと判断されていました。つまりホテルは不動産投資における「おみそ」だったのです。

その潮目が変わり始めたのは2013年頃でしょうか。リーマンショック、尖閣諸島問題、東日本大震災などの影響が一服し、2020年東京オリンピックの決定、アベノミクス、観光立国戦略などが功を奏し訪日外国人観光客数が飛躍的に伸び出しました。

その結果、東京、大阪、京都などは現在においても、ADR(Averaged Daily Rate=平均客室販売単価)、OCC(Occupancy=稼働率)が上昇し続け、予約自体が取りにくい状況となっています。少子高齢化の日本において右肩上がりに成長を予感させる数少ないセグメントとして、俄然ホテルへの投資が脚光を浴び始めたのです。

土地入札でホテルがマンションに勝てない理由

しかし、それから3年、ホテル投資へのモチベーションを持った投資家が順調にホテルの開発を行えているのかと言えば残念ながらそうではありません。土地の仕入れにおいて、マンションデベロッパーに勝てないのです。

建築基準法において、住宅(戸建・共同住宅のいずれも含む)の延床面積のうち、地下の部分、廊下や階段等通路の部分、エレベーターシャフト、非常用倉庫や非常用発電機スペース等の有事対応施設、駐車場部分などは容積率への算入が免除されます。エレベーターシャフト、有事対応施設、駐車場部分はホテルを含む他の用途においても容積率不算入となりますが、地下や通路部分の不算入は住宅の専売特許です。

敷地面積2,500㎡、用途地域=商業・防火地域、容積率400%の土地を例として考察してみましょう。

土地入札でホテルが住宅に勝てない理由

容積対象床面積が同じでも、収入の得られる面積はホテルより住宅の方が大きい

容積対象床面積が同じでも、収入の得られる面積はホテルより住宅の方が大きい

容積対象床面積は最大で10,000㎡。住宅用途で計画すると、特に大きな共用部(ラウンジやプールなど)を持たなければ、容積対象床面積のおよそ95%を専有部(住戸)とすることができます。つまり9,500㎡が「売れる」面積ということです。

これに対しホテルは、宿泊特化型であるとしても、朝食レストラン、フロントロビー、BOH(Back of House=後方諸室)など客室以外の部分が一般的にはおよそ40%程度必要となります。つまり「売れる」面積は6,000㎡しかありません。

住戸、客室のいずれも仮に30㎡を1Bay(Bayとは、住戸・客室などの基本ユニットをいう)とした場合、住宅なら316Bayできるのに対し、ホテルは200Bayに留まります。同じ敷地に対して収入の得られる面積が住宅はホテルの1.5倍あるということなのです。

不動産投資家は土地の仕入れを行う際、得られる収入の予測値をハードルレートとなる利回りで割戻した総投資可能額から、建設費などの必要費用を差引き、土地値を付け札を入れます。「売れる」面積が大きい用途の方が土地値を高く設定できるのは当然であり、ホテル投資家がマンションデベロッパーに勝てなかったことは必然なのです。

容積率緩和が実現すればホテルの競争力がマンション並に

GDP600兆円を達成させる成長戦略の一つの大きな柱として、訪日外国人観光客数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人を目標とすることを安部首相は掲げています。これを実現するためには、即効性のある規制緩和策がどうしても必要です。しかし、都市計画法や建築基準法などの関連法改正を行えば、最低でも1~2年の時間を要します。これでは到底目標達成など望めません。

これまでは住宅の用途に着目した容積率を緩和する制度は存在していましたが、今回の通知において初めて、宿泊施設に着目した容積率緩和の制度が設けられることになりました。住宅に対する容積率緩和の法的・理論的根拠は住宅のインフラ負担率の低さによりますが、宿泊特化のホテルは住宅並みと考えることができます。既存法の枠内で客室不足を補う施策として、国土交通省はこのロジックを根拠としたと考えられます。

面積当たりの収益は、地域にもよりますがホテルの方が住宅よりも多少高い数字を見込むことができます。よって、従来の容積率の1.5倍かつ300%を上限に緩和がされれば、住宅並みの「売れる」面積を確保することができるようになるため、不動産投資におけるホテルの競争力が増し、「おみそ」から脱したホテル開発に拍車がつくと期待されます。

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