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CRE戦略マガジン

企業不動産を経営と一体化する「機動的CRE戦略」のすすめ

企業不動産を経営と一体化する「機動的CRE戦略」のすすめ

CRE(企業不動産)は、「メンテナンス経費がかかり続ける固定資産」とだけ考えてしまう と、経営負担の一要素と位置づけられがちです。しかしCREを常に経営とつなげて戦略化することで、状況が一変します。売却処分から、積極的再投資まで、CREはより機動的に捉えることができるのです。そうすることで、CREの戦略はそのまま経営戦略へと結びついていきます。

これからの企業経営に必要な「機動的CRE戦略」

建築の外から建築業界を見ると、今まで見えていなかった(見ようとしてこなかった)いろいろなものが見えてくるようになります。私がこれまでのキャリアの中で、一度建築業界から離れた経験から言えること。それは、日本のCREがこれからの日本を強くも弱くもする可能性を秘めているということです。

[図1] 民間建設投資額の推移(著者作成)

[図1] 民間建設投資額の推移(著者作成)

[出典]国土交通省 統計情報・白書(建設投資見通し・建設デフレーター)より作成
※1 建設投資見通しより、民間建築の投資額を引用
※2 建設デフレーターより、民間建築投資額を2014年基準に変換

[図1]は、日本における民間建設投資額の推移をグラフにしたものです。これを見てもお分かりの通り、民間建設投資額は今から25年前あたりでピークを示しています。建物の寿命を仮に50年と捉えた場合、折り返し地点に立つCREがピークを迎えようとしているということになります。また、我々は今までにない変化の時代を生きています。25年前には想像もつかなかった技術やアイディアが現実のものとなり、生き方や働き方に影響を及ぼす社会のプラットフォームが大きく変わってきています。今後、この傾向はさらに加速し、これからの企業経営には、変化やスピードへの対応力がさらに求められていくでしょう。

このような時代に生きる我々が、保有するCREを弱みではなく強みとして活用していくためには、機動力を備えたCRE戦略が必要になってきます。

建設投資ゼロで製造原価低減を実現させた、CRE戦略の事例

ここで、1つ事例を紹介したいと思います。製造・物流改革の事例です。きっかけは、倉庫の増築相談でした。

この会社では、営業から受注オーダーを受けた製造部門がそのオーダーをもとに生産するいわゆる受注生産方式を採用していたのですが、ヒアリングを進めていくと、受注生産方式を採用していた理由が、倉庫の狭さにあるということが分かりました。そこで製造部門が考えた解決策が、倉庫を大きくして計画生産方式へと切り替えるということでした。この会社は、製造原価に占める労務費率が高く、棚卸製品在庫を減らすよりも生産の効率化により労務費率を低減させることが経営課題として優先されていたため、計画生産方式への移行という製造戦略は、利にかなっていたと思います。

ただ、この製造戦略をCRE戦略に落とし込むときに、今をベースに考えてしまうとどうしても「倉庫を大きくする」という解決策に向かってしまうのです。では、もう少し全体を俯瞰して見てみるとどうなるでしょう。実は、この会社は受注生産に対応するために常に多品種大量の原材料を本社購買部門が管理する倉庫に保管していました。そこで、経営層を含むプロジェクトメンバーで議論を重ねながら導き出した結論が以下です。

  1. 保有する倉庫・土地を物流会社に売却し、物流・倉庫業務をアウトソーシングする
  2. 計画生産方式へのシフトに向け、基幹システムを統廃合する
  3. 新規事業で予定していた人員募集を取止め、アウトソーシング、生産効率化による余剰人員をシフトさせる
  4. この事例では、建設投資ゼロで製造原価低減を実現させました。また、土地・倉庫を物流会社に買い取ってもらったことで、オフバランス化にも成功しています。

経営的視点からCREの今を評価し、未来を創造せよ

これは製造業の事例ですが、他の業種でも同じようなことが言えます。保有しているCREを過去のものとして捉えるのではなく、経営戦略実現のためのツールとして全社横断的に捉えることで、今まで考えつかなかった 解決策が見えてくることがあります。そのために必要な力は何か? 我々は、CREと経営をつなぐためには、3つの力が必要になると考えています[図2]。

[図2] CREと経営をつなげる3つの力

[図2] CREと経営をつなげる3つの力

1. CREの「今」を評価・分析する力

「彼を知り己を知らば百戦危うからず」この言葉は、孫子の兵法からの引用ですが、正に「己を知る」ことがCREと経営をつなげるための第1歩となります。経営的視点でCREの今を評価・分析し、いつでも使える情報元として、日々マネジメントしていく力が必要になります。これには、LCMプラットフォームの構築が有効です[図3]。

2. CREの「未来」を創造する力

CREの未来を創造するためには「彼を知る」ことが重要になってきます。ここで言う「彼」は経営戦略を意味します。重要なポイントは、今のCREからではなく、経営戦略から未来を創造するという視点です。もちろん、今があってこその未来ですが、新たな価値を創造するためには、一度今を忘れ、経営戦略からゼロベースで未来を創造しようとするアプローチが必要になります。
これには、利害関係者が意見を出し合うためのプラットフォームとして、PMO機能の導入が有効です[図4]。

[図3] CREの今を評価・分析するためのプラットフォーム

[図3] CREの今を評価・分析するためのプラットフォーム

※1 LCM:Life Cycle Management
※2 KPI:Key Performance Indicator

CREの今を評価・分析するためには、ICTを活用したLCMプラットフォームの構築が有効で ある。財務・運営・技術など、視点の違いからくるさまざまな情報要求にタイムリーに応える ためには、自社分析から独自のKPI 設定を行い、日々の情報マネジメントプロセスを定義す ることが重要。CREの今を自社に合った形で見える化しておくことで、機動力のあるCRE戦 略が策定可能となる。

↓いつでも使える情報元

→いつでも使える情報元

[図4] CREの未来を創造するためのプラットフォーム

[図4] CREの未来を創造するためのプラットフォーム

※1 PMO:Project Management Office

経営戦略からCREの未来を創造していくためには、プロジェクト化される前段階において、利害関係者がアイディアを出し合える環境を構築することが有効である。利害関係を有しないPMOが会議体をファシリテートし、黒子役となってフレームワーク・視覚化・分析などを支援することで、頭の中に眠っている多様なアイディアを引き出しながら合意形成を促していくことが可能になる。

3.「 今」を「未来」につなげる力

CREの「今」と「未来」をつなげるためには、経営的視点でプロジェクト要件を定義し、成功へと導く力が必要になります。これには、プロジェクトメンバーの力を引き出しながら発注者主導のプロジェクト運営を推進していく仕組みづくりが必要不可欠です。

今を知り、未来を創造し、今と未来をつなげる。一見当たり前のように見えるこの一連のプロセスを経営的視点でマネジメントしていくこと。これがCREと経営をつなぐために最も重要になってくるのです。