共創(Co-Innovation)を軸にした地域の未来づくりプロジェクトが始まる
[2023山下PMC交流会レポート]
いま、文明に問う。〜Co-Innovation 飛騨から世界へ〜
これからの持続可能な地域の未来をいかに描くべきか? キーワードは「共創」。岐阜県・飛騨市で2026 年に向けて開学準備が進むCo-Innovation University(仮称)のキーパーソン3名が、「共創を軸にした地域の未来づくりプロジェクト」をテーマに語りました。
新しい大学像と地域から未来へつながる共創とは
飛騨から生まれるイノベーションを世界へ
持続可能な未来に向けて、求められる知のイノベーションと産業のイノベーション。それらが生まれる機会をいかにつくり出すか?その先進的な取り組みのひとつが、飛騨のCo-Innovation University(以下CoIU(仮称))構想です。2023年6月1日、山下PMCの交流会にて、そのキーパーソン3名による講演会が開かれました。テーマは「共創を軸にした地域の未来づくりプロジェクト」について。CoIU(仮称)の大学像の創出は、二つのテーマが掛け合わされています。ひとつは、大学が立地するまちの再開発計画を含む「体験価値を共鳴させるまちづくり」。もうひとつは、「樹と水でつくる脱炭素社会」への取り組みです。
2026年4月開学予定のCoIU(仮称)は、既存のどの大学とも違う、新しい大学の形を構想中です。学びの場は飛騨のキャンパスを中心に、全国に15の地域拠点を整備しています。これにより、たとえば1年生は飛騨で理論を学び、2年次以降はテーマに合った拠点で実践的に学び、各地域の課題解決や事業の創出に挑みます。
こうした教育を実践するために大学だけでなく、社会人、産官学による共創環境をつくります。すでにコンソーシアムとリカレントによる新モデルの実装準備が飛騨で始まっています。
本拠地となる飛騨は豊かな森林と、独自の文化を有する地域です。CoIU(仮称)は自然資源と、まちと伝統を活かした新たな産業の創出を目指しています。中でも、「樹と水でつくる脱炭素社会」に向け、森林資源を活かした地産地消のエネルギーづくりは大きな柱になります。大学と地域の共創による、持続可能なエネルギー事業の創出が大きく期待されています。アートによる連携も、CoIU(仮称)の特徴です。2025年に開催される大阪・関西万博を機に、他地域の芸術祭や観光事業との連携が構想されています。
これらの先進的な事業が飛騨のCoIU(仮称)からダイレクトに世界へ発信される可能性も大いにあると考えられます。
3人のキーパーソンが語る“共に創る”ということ
イノベーションを生み出す教育が地域の未来を拓く
三岡 CoIU(仮称)構想のキーパーソンに3名に、「共創」の考え方をお話しいただきます。はじめに、大学構想を立案された井上博成様からお願いいたします。
井上 CoIU(仮称)の理事長候補を務めております井上です。岐阜県高山市の出身ですが、高校生の頃から飛騨になぜ大学がないのか、と。将来、飛騨に大学をつくりたいという思いを持っておりました。
2011年の東日本大震災が、都市部と地方の関係を考えるきっかけになりました。飛騨には森林と水が豊富にあります。地産地消のエネルギーをボトムアップで創り出す必要があると感じるようになったことが、CoIU(仮称)構想の始めです。
大学構想を進めるにあたり、森林を活かした先行事業化に取り組みました。私の大学院の研究テーマがエネルギー事業でしたので、まず小水力電力を事業化し、その収益を大学創設のための基金設立に充てることにしました。
もう一つ、木材を活用した地域商社を立ち上げました。新たな産業構造を創っていく上で、何より教育の場が重要であることを改めて認識し、2019年末に大学計画の委員会を発足しました。
司会 ありがとうございます。続きまして、宮田裕章様と藤本壮介様にお願いします。
宮田 私は今が時代の大きな転換点だと感じています。転換点においてはイノベーションが生まれるかどうかが重要ですが、一番大事なのが教育だと思います。
生成AIが実用化されている今、知識習得の価値そのものが変わってきています。これからの教育には知識習得より、「問いを立てる力」を磨くことが求められます。
たとえば飛騨の林業は、エコシステムそのものからつくり直す必要があると思いますが、そこでテクノロジーを駆使するとどうなるか? ドローンを飛ばして森をモニタリングし、新たな森林資源を発見し、学生が職人といっしょにモノづくりをしたら?
そうした樹と森に着目したビジネスを創りながら、未来を一緒に考えていきたい。学びの拠点を全国各地に15拠点置いているのもそのためです。今日お集まりいただいている皆さんと、地域を越えてつながりながら、未来を創っていきたいと考えています。
藤本 新しい大学像の創出というテーマで飛騨のメインキャンパスを設計するにあたり、宮田さんとも話し合って「図書館」をなくしました。今の時代、情報は図書館に行って得るものではない。いろいろな人とコミュニケーションを図ったり、活動に参加したりする中で得ていくものです。つまりキャンパス全体が図書館であり、共創の場であると。そんな大学を考えて設計しています。
一方、飛騨古川駅東開発プロジェクトには、いくつものプログラム=機能が共存しています。遊び場、商業テナント、温浴施設、宿泊施設、サテライトキャンパスもあります。大学にはないプロジェクトが、ここにはある。いろいろな活動が複合的に存在することで、共創しやすい環境が生まれるのではないかと期待しています。
持続可能な建築とアートとCoIU(仮称)の役割
共創の理念を同じくする人たちとつながっていくく
三岡 次に、地域の未来を考える上でCoIU(仮称)の存在が各地でどのような役割を担っていくのでしょうか。
藤本 私たち建設・建築業は、おそらく産業の中で一番CO2を排出しているでしょう。といって、建築物をなくすわけにもいきませんよね。そこで、世界から注目されているのが木造建築です。
日本の伝統建築はできたら終わり、ではありません。修理のことも、解体後の資材のことも考えて設計されています。こうした発想こそ、これから必要なデザインです。CoIU(仮称)構想で取り上げられている森林資源の活用は、それにも大いに寄与するものと思います。
宮田 アートと建築の面からお話ししますと、そろそろ、未来を創る力としてのアートが重要になってくるのかなと思います。
今年のヴェネチア・ビエンナーレでは、アーキテクチャーの定義が進化していました。物理的なものに限られず、例えば人と時間や歴史、コミュニティ、環境、地球といったことに注目し、世界を繋ぐアプローチであるという捉え方をしています。
CoIU(仮称)は「問いを立てる」力を磨き、それを実践していく大学です。「問いを立てる」という意味では、新しいエネルギーをもつアートが、いろいろなものとつながりながら地域の未来を創っていく役割があると考えています。
三岡 また、エネルギーと地域、エネルギーとアートという点では、今後どのような持続可能な関係性が生まれるとお考えでしょうか。
井上 私は木質バイオマスと小水力発電に取り組んできましたが、特に小水力には地域との関係性が大事だと実感しています。地域の方々と一緒にエネルギーのつくり方を、孫の代まで使えるように考えていくことが重要だと思います。
また、宮田さんは共創のレイヤーではエネルギーとアートは離れたところに配置されているが、実は、脱炭素と水力とアートは相性がいいのではないかと指摘されて。
離れていたものに新しいシナジーが生まれ、未来につながっていくような視点が、この大学が意図する共創学のテーマになるかなと思います。
藤本 水力発電ができる所は、だいたい風光明媚ですよね。地域でエネルギーをつくりながら、一方で観光の目的地になるランドスケープを共存させることもできる。 それも地域の豊かさと未来につながっていくのではないでしょうか。
宮田 私たちは飛騨を軸にしたさまざまなプロジェクトを考えていますが、それが飛騨を越えて多拠点に関わりながら、新しいコミュニティやプロジェクトを創っていきたいなと考えています。
三岡 山下PMCもチームの一員として貢献していきたいと願っております。本日はありがとうございました。