PROJECT 09

石巻市水産物地方卸売市場(後編)

PROJECT 09

アットリスクCM方式で迅速に魚市場を再建

オープンブック方式で透明性を確保しつつ、承認方法も工夫

ピュアCMrがアドバイザーとして入ることで、相談しても決断が早い。発注者もアットリスクCM方式を理解されていたので、鹿島の責任の下、スピーディーに工事を進行できました(岡野)

アットリスクCMrの立場からはどのような課題があり、それにどのように対処されましたか。

岡野:
村田さんが言われたように、今回の契約では工事の請負金額が決まっておらず、実際の工事費が最大補償額を上回れば、その分は当社の責任で負担することになる。そうした条件の中で専門工事会社を選定し、現場を運営していくのは大変なプレッシャーがありました。
工程がシンプルな土木工事と違い、建築工事は、杭工事や、設備工事の電気や空調など、さまざまな専門職の人たちが各工程で複雑に関わってきます。その工程を調整し、総合の図面をつくって現場を運営していかなければなりません。
しかも、工事をオープンブック方式(※)で進めることになっており、専門工事会社の入札・選定や、工事の仮設費、純工事費などを、すべてを事前に発注者に明示し、承認を得る必要があります。しかしそうした膨大な承認を石巻市が下していくには手が足りませんし、時間も要してしまいます。

※オープンブック方式:協力会社である各専門工事会社を入札により選定し、発注者が工事費用を施工者に支払う過程で、施工者が発注者に、協力会社の選定経緯や全てのコストに関する情報を開示し、支払金額が適正であることを明らかにする方式。事業コストの透明性を高める効果がある。


そこでピュアCMrである漁村総研さん、山下PMCさんに相談し、オープンブック方式に関し「仮設と経費に関しては鹿島の責任で発注」「直接工事費に関しては、1000万円を超えるものだけ事前承認を得て発注」というルールを決めました。これは非常に上手くいきました。
工事が始まってからもさまざまなVE提案を行い、最終的に最大補償額以内に納め、コスト目標も達成することができました。実は今回、コスト低減に対しインセンティブフィーを頂けるルールになっていたのですが、事業予算がそもそも100%補助金であり、国民の税金からフィーを頂くわけにはいかないということで辞退しました。

実施設計や施工のマネジメントについてはどうですか?

岡野:
当社がアットリスクCMrの優先権者に決まったのが2013年8月。まずは11月の着工に向け、計画通知を一刻も早く通すことを考えました。計画通知というのは公共工事の用語で、民間の建築設計における確認申請のようなものです。社内の設計部門もチームに入れて、設計事務所の実施設計を支援しました。同年11月末に計画通知が下り、早速、杭工事を着工しようとしたところ、敷地はまだ護岸工事をやっている状態でした。
品川:
2014年に入って私が初めて現地へ行ったときも、まだ建設予定地の地面自体ができていませんでした。私の前職はゼネコンの施工管理担当だったのですが、通常の工程ではまず考えられないような厳しいスケジュールでした。
岡野:
護岸工事の発注者である水産庁や、周辺工事を行っている会社とも調整し、岸壁工事と並行して杭打ち工事に着手させてもらいました。とはいえ、ただでさえ地盤が弱いところに、岸壁の矢板を支持する棒状のタイロッドが2m間隔で伸びていて、その間に長さ75mの杭を打っていかなければならない。敷地の中央には魚市場の仮設テントがあり、その運営に支障をきたしてもいけない。極めて難易度の高い杭工事でした。
新魚市場の建物は、横の長さが876mという細長い建物です。ボーリング調査したのは5カ所で、これでは全体の地盤を把握することはできません。そこで当社のジオ・エクスプローラという、200mの深さまで地盤を迅速に調査できる自走式地盤調査機を使い、軟弱層の分布状況を調査していきました。これにより確信を持って杭工事ができました。

発注者支援を行うピュアCMrが参画した効果について、アットリスクCMrの立場からどう思われましたか。

岡野:
派生してくるさまざまな問題を相談しても、建設プロジェクトのプロだけに決断が早い。「それでいこう」とすぐに決まり、ピュアCMrから発注者である市に説明してもらえる。石巻市も、アットリスクCM方式について理解されており、当社の責任の下で、ある程度主導的に施工マネジメントをやらせてもらえました。この方式でなければ、目標工期に間に合わせることは絶対にできなかったと思います。

被災地の経済を立て直すため、できるだけ多くの地元企業に優先的に仕事をしてもらうルールも決めました。地元の会社が地元の重要施設をつくるということで、働く人も意識が違っていたと思います(岡野)

復興を支援するため、専門工事は地元の会社に多く発注するようにも配慮されたとか。

大村:
被災地の経済を立て直し、地元で働く人たちの雇用の場所もつくらないといけないので、地元企業優先というのが石巻市の要望としてありました。そこで、商工会議所と連携して推薦企業の情報を鹿島さんに送ってもらい、できるだけそのリストの中から協力会社を選定してもらう。発注額に対して60%の地元企業を使おうというルールを作りました。
岡野:
当社は石巻市内ですでに長く仕事をさせてもらっていたので、商工会議所ともおつきあいがあり、地元の専門工事会社についても予備知識はありました。地元の会社が地元の重要施設をつくるのだということで、働く人も意識が違ってくると思います。
当社東北支店では、現場所長自らが新規の作業員一人一人に入場者教育を行うのが慣例なのですが、その際、建設業の経験が0カ月と書いてくる人も多かった。聞くと、それまで船に乗っていた、水産加工工場にいた、という。そういう方々にこそ頑張ってもらいたいと思いました。
安全対策の訓示をする際には「震災復興のための工事なので、ここで事故を起こすわけにはいかないのだ」ということを訴えました。工事に携わった労働者は延べ約11.5万人いますが、お陰さまで約92.8万時間の延労働時間を無事故無災害でやり抜きました。宮城県労働局から表彰も頂きました。

今回、公共建築の分野でアットリスクCM方式が初めて採用されたわけですが、この方式の将来的な可能性についてどう思われましたか?

岡野:
一般的には、ゼネコンとCMrは相対する関係になってしまうことが多いのですが、今回はアットリスクCMrという立場を与えてもらい、ともに同じベクトルで、被災者の方々の想いが詰まった素晴らしい石巻魚市場として再生できたと思っています。アットリスクCMrの立場を経験したことで、発注者の立場に立って仕事をする重要性をあらためて認識することができました。
アットリスクCM方式のメリットは、何よりプロジェクトの進行を早められることです。オープンブック方式により、事業の透明性も高められます。規模の大きな公共工事では、竣工後に会計監査が入るため、関係書類をまとめる業務がけっこう大変なのですが、今回はプロジェクトの最中にピュアCMrの監査があったので、事後に新たに書類をつくらなくても済み、これは助かりました。
今後、安定的に運用していくためには、アットリスクCMrの公募に際し、最大補償額が適正に設定されていることが非常に重要だと思います。

大村:
日本初となるCM方式にまさか自分が関わるとは思いませんでした。水産庁にも石巻魚市場で活用した事業方式について問い合わせが多数きているとのことで、詳しく知りたいので説明会を開くよう言われているところです。
日本コンストラクション・マネジメント協会の「CM選奨 最優秀賞」をこの3者のチームで頂きましたし、全日本建設技術協会が主催する全建賞も復興事業特別枠・港湾部門で石巻市が受賞しました。それだけに、広く注目を集める契機になったと思います。認知が広がると共に、公共建築の分野でも今後、アットリスクCM方式の採用が増えていくのではないでしょうか。

ここまでの先進設備が必要か、と言う漁業関係者の方もいましたが、私の想いとしては、将来の魚市場のひな形とされるものをつくりたかった(大村)

竣工してのご感想をお願いします。

大村:
設計が終わった部分から順に工事を始めてもらう「ファストトラック」の手法によって、工期を短縮でき、スケジュール目標を達成することができました。当初の計画ではコンパクトにまとめるつもりだった魚市場ですが、海外への輸出にも対応したものをという水産庁の方針もあり、結果的に施設長876mというギネス級の横に長い建物が完成しました。
ITシステム面でも最高のものを入れており、今、魚のトレーサビリティーの仕組みを入れ込んでいるところです。ここまでのものが必要か、と言う方も漁業関係者の方の中にはいました。けれども私の想いとしては、これからの魚市場のひな形となるものをつくりたかった。お陰さまで20年先を見据えた施設ができ上がりました。
私たちの仕事には、施設の運用支援まで含まれており、現在この市場で働く方の衛生意識の改革にも取り組んでいます。それが実現されたときが、漁村総研の仕事の本当に終わりだと考えています。


  • 運営開始後、新たな施設での競りは活気にあふれている
    運営開始後、新たな施設での競りは活気にあふれている。

左から山下ピー・エム・コンサルタンツの品川哲也、鹿島建設の岡野春彦、漁港漁場漁村総合研究所の大村浩之、山下ピー・エム・コンサルタンツの村田達志(敬称略)

取材・文:三上美絵 写真:新良太 編集:たかぎみ江 (2016年6月30日取材)

プロジェクト概要

東日本大震災の津波によって壊滅した石巻市水産物地方卸売市場を復興させるとともに、将来的な輸出戦略に対応する高度衛生管理を導入した新たな施設を建設するプロジェクト。被災地の行政が諸事に忙殺されていたことから、事業のマネジメントに民間の力を活用できるCM方式の導入を図った。

事業スキームの最大の特徴は、基本計画業務、基本設計業務、監督支援業務を手がける「ピュアCMr」と、実施設計および施工の一体的なマネジメントを担当する「アットリスクCMr」という立場の異なる2者のCMrが参画する体制を構築した点だ。これこそが、プロジェクトの抱える三つの難易度の高い課題を克服することができたカギとなった。

課題の一つは、震災復興事業という性質上、可能な限り迅速な復旧が求められたことだ。漁村総研と山下PMCのチームからなるピュアCMrはこれに対応するべく、「設計・施工一括型のアットリスクCM方式」の提案とスキーム構築を行った。

アットリスクCM方式を導入したのは、実施設計や各種調査、施工を一括してアットリスクCMrに委託することでプロジェクトをスムーズに進め、かつ発注者業務の省力化を図るのがねらいだ。

ピュアCMrである漁村総研と山下PMCは、承認が必要なフェーズをパッケージ化し、手続きを簡略化するスキームを構築。アットリスクCMrに選定された鹿島建設は、実施設計と施工を一体的にマネジメントした。こうした取り組み体制によって最終的に、従来方式では到底実現できない短工期での施設完成を実現することができた。

一方、施設規模の大きさと技術的難易度の高さも大きな課題だった。施設長約876mに及ぶ建物は魚市場として世界最大規模。建設地は地盤が悪く、支持地盤まで約75mもの長さの鋼管杭を打設する必要があった。しかも、基礎の施工は、旧施設の杭や岸壁にあるタイロッドに配慮して行わなければならない。

こうした難工事にあたり合理的な設計ができたのも、アットリスクCM方式によって施工者が実施設計段階から参画し、施工性や経済性に配慮した計画が可能になったからだ。

プロジェクトの三つ目の課題は、「国際的な市場の実現」だ。国際水産都市・石巻を目指す市の想いを実現するべく、高度衛生管理に対応した市場を整備することが大きな目標であった。市場運営の知見や設計経験を持つ漁村総研と山下PMCがピュアCMrとして基本計画と基本設計を行い、実施設計から竣工までのアドバイザーとして関与することで、その実現に向けた運営への第一歩を確実に踏み出すことができた。

事業主 石巻市
建物用途 卸売市場
ピュアCM業務期間 2012年9月~2015年9月
ピュアCMr 漁港漁場漁村総合研究所、山下PMC
アットリスクCM業務期間 2013年8月~2016年2月
アットリスクCMr 鹿島建設
所在地 宮城県石巻市
延床面積 約50,500m2
規模/構造 地上4階/S造
基本計画者・基本設計者・監督支援者 漁港漁場漁村総合研究所、山下PMC
実施設計者・工事施工者 鹿島建設

山下PMC担当者

村田達志、品川哲也、加々井千裕、佐々木周子、駒崎勝則、諏訪寛、関根雄二郎、高橋純信、藤沢啓一、菅原修

石巻市水産物地方卸売市場