PROJECT 09

石巻市水産物地方卸売市場(中編)

PROJECT 09

アットリスクCM方式で迅速に魚市場を再建

公共建築で初のアットリスクCMのスキームづくり

公共建築でのアットリスクCMは前例がなく、土木で用いられていたケースを参考に、山下PMCのノウハウを入れて建築のスキームに落とし込みました(村田)

魚市場再生事業の基本計画を定めた後、プロジェクトはどのように進んだのでしょうか。

大村:
基本設計に入り、地盤調査を行ったところで難題にぶつかりました。魚市場のあった場所は、旧北上川の河口の埋め立て地で、ボーリング調査すると地下75mまで支持地盤がありませんでした。
以前、市場を建てた際は、別の杭工法を使えましたが、建築基準法の改正で今回は支持層まで杭を打つ必要があり、そうなると予算が足りなくなるという問題に直面しました。事業費の変更には通常半年以上かかりますが、知恵を絞り、なんとか1カ月で増額してもらえました。
ピュアCMrの役割分担としては、われわれ漁村総研が調査や設計監修などを行い、一方で、山下PMCには、全体のスケジュールを組んでもらい、アットリスクCMrの公募に向けて契約方式の仕組みをつくってもらうなど、細部にわたって段取りを整えてもらいました。

村田:
大村さんが山下PMCに相談にみえたのが2013年の2月頃です。話を伺って驚いたのは、地盤の悪さという問題に加え、公共事業では例のない工期のタイトさでした。杭の問題で工程が押していく中、早期復旧のためにはアットリスクCMrの選定時期は後ろにずらせません。
契約の方式にしても、公共の建築工事でアットリスクCMが用いられた前例がないため、UR都市機構が土木工事で用いているアットリスクCMの枠組みを参考にし、われわれの持っているノウハウも入れ込みながら、建築のスキームに落としていきました。

具体的にそのスキームについて教えてください。

村田:
通常の入札では、公募の際に工事費の見積もりを出してもらい、低い額を提示したところに決まりますね。しかし今回のアットリスクCMrの公募では、参加条件として業務規模(工事費の限度額)をこちらで提示し、それ以内に納めるためにどのような技術提案ができるかをプレゼンテーションしてもらうことにしました。
見積額の提示を求めず、工事費がいくらになるか確定しないままパートナーを決める方式であったため、契約後のコスト調整は十分注意して進める必要がありました。契約後、設計を進める中で最大保証額(GMP:Guaranteed Maximum Price)を設定し、最大補償額を上回った分はアットリスクCMrに担ってもらう、というルールでプロジェクトのコスト管理を進めていきました。
大村:
通常のように、実施設計を終えてから予定価格を算出して公募していては間に合わない。そのための措置でした。

品川さんは、主に現地でのコンサルティング業務を担当したのですね。

品川:
2014年1月に担当になって着任し、4月までの3カ月間は、状況を把握することに専念しました。今回、山下PMCはアドバイザー役なので、その立場で何ができるのか、最初は模索の日々でした。
魚市場にはそれぞれに立場の異なる多くの関係者の方がいて、一度決まったことが、進めていく途中で見直しになることもありました。これはコミュニケーションが不足しているからだと思い、集会の場でも発言しづらい雰囲気をまず払拭し、私自身が皆さんの意見を聞いて回り、できることは計画に取り入れていこうという姿勢で臨みました。
岡野:
魚市場と市の主催で買受人組合などの人々が集まって月1回、水産復興会議を開いていたのですが、自分たちの使う施設なので、さまざまな意見が出る。ときには意見がぶつかることもあり、そこをまとめていかないといけなかったのです。
品川:
岡野さんに現場を一緒に巡ってもらって、ある時期から漁業関係者の方々と信頼関係もでき、それからはスムーズに回るようになりました。
  • 荷捌き場は約30mスパンの無柱空間だ。
    荷捌き場は約30mスパンの無柱空間だ。
  • 沖合・近海小型底引き船の魚介類を扱う西棟。毎朝、鮮魚が取引される。
    沖合・近海小型底引き船の魚介類を扱う西棟。毎朝、鮮魚が取引される。
  • 荷捌き場は入場時のID認証により管理され、手洗い・長靴洗浄を徹底する計画となっている。また各所に配置された映像カメラの記録等によってトレーサビリティーも確保した。
    荷捌き場は入場時のID認証により管理され、手洗い・長靴洗浄を徹底する計画となっている。
    また各所に配置された映像カメラの記録等によってトレーサビリティーも確保した。
  • 2階の見学者通路から1階の荷捌き場を見る。新施設では見学者を積極的に受け入れる方針だ。
    2階の見学者通路から1階の荷捌き場を見る。新施設では見学者を積極的に受け入れる方針だ。

<施設使用者の声>
市場が早く完成し、まちの自立も早まった

石巻魚市場株式会社 代表取締役社長 須能邦雄氏

石巻は古くから漁港のまちでした。市場とまちは一体なので、市場の復興はすなわちまちの復興です。東日本大震災の津波で市場が全壊してから、1日でも早く競りを再開したい思いでいっぱいでした。「皆を一番勇気づけるのは、魚を見せることだ」とわかっていましたから――。

しかし、被災した数多くのインフラ復旧に追われる市の担当者は、なかなか市場まで手が回らなかったのです。民間のノウハウを生かすCMの仕組みが導入されたおかげで、世界最大級の規模を誇る新施設が、計画から3年間で竣工しました。市場が早く完成したことで、それだけまちの自立が早まったと言えます。

日本の水産業は、将来的には海外市場への展開が不可欠です。そのためには、HACCP認証を取得することが大前提。今回の新施設はHACCPにも対応できる設備を備えているので、これから関係者とともに新しい衛生管理のルールをつくり上げ、認証取得を目指していくつもりです。

このように立派な施設ができたことは、消費者や次世代を担う若い人たちへのイメージアップにも貢献します。新施設には見学者通路も設けてもらいました。きちんと衛生管理をした施設で、素早く処理した安全安心な水産物を送り出しているということをぜひ多くの人に見てもらいたい。子どもたちには水産業に親しみをもってほしいし、若者が「こんなにきれいな施設なら働きたい」と思ってくれたら嬉しいですね。

素晴らしい施設として復活したこの魚市場を拠点として、石巻の水産業の復興に尽力していくつもりです。(談)

石巻市水産物地方卸売市場