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“環境力”の可能性・成長戦略 に向けて “環境力”の可能性・成長戦略 に向けて

20世紀が石油をめぐる「国々の興亡」だったとすれば
21世紀は水をめぐる「国々の興亡」となってくる。

今年の日本の夏はとりわけ猛暑続きで各地で観測史上の新記録をだしている。

又、世界の各地においても異常気象による災害が頻発している。
今年7月のパキスタンの大洪水を国連が「2004年のスマトラ津波、2005年のパキスタン地震、2010年のハイチ地震の3つを合わせたよりひどい被害」と形容しているように、被害者は2000万人、国土の5分の1に及ぶ大被害を出している。
又、ヨーロッパの大洪水やロシアの猛暑、乾燥による森林火災やそれに伴う大気汚染など枚挙に遑が無い。これは正に「地球温暖化による異常気象・猛暑説」が99%正しいと思わざるを得ない。

国連環境計画(UNEP)の研究によると温暖化に影響される「生態系の破壊による世界経済的損失は5兆ドル(420兆円)以上」と試算している。
これまで「ただ同然」と考えられてきた自然の価値を金銭で置き換えることで、開発による生態系の損失や保全・回復にかかるコストを、市場経済に組み込み、事業費用に盛り込むなどの価値の転換が起こって、企業活動や投資の流れに大きな影響を与えることになるであろう。

日本の仮想投入水総輸入量今後同じような問題として、気候変動の最大のリスクの一つである「水」をめぐる国の安全保障の問題が起こってくる。
地球は70%が水でできている。しかし人間が飲める淡水は、そのうちの3%に過ぎない。その三分の二は氷河に閉じ込められている。世界の人々の20%が安全な水を継続的に手に入れることができない状況にある。
世界の水需要を考えるとき「仮想水」(バーチャルウォーター)という捉え方が大切になる。たとえば牛肉なら牛の飲み水や飼料栽培に使う分も含めた水投入量を指す。
牛肉1キロを生産するには20トンの「水」が必要だ。肉を輸入するということは、そんな「水」を輸入することでもある。食料を海外に依存する日本の「水」輸入量は640億トン。中国、インドを含めアジアへのこの「水」の流れは今後もっと太くなるだろう。

「水環境」の保全へと視点は変わっている。

異常気象が今より一層深刻になったとき、将来的に「仮想水」の算出法が整備されれば、「温室効果ガスで日本が他国から排出枠を買うのと同じように、仮想水輸入に多額の資金を支払わなければならない事態も起こりうる。

20世紀が石油をめぐる「国々の興亡」だったとすれば21世紀は水をめぐる「国々の興亡」となってくる。石油は代替えが利くが水はそうはいかない。
日本は渇水、洪水のリスクの高い国である。それだけに水量、水質の一体管理、水利用効率、下水処理水の再利用、生態系の保全など水質源を総合的に活用するシステムを発達させてきた。水の3R 技術という知恵がある。
公害としての「水質汚濁防止」から生態系などを含めた「水環境」の保全へと視点は変わっている。これらの世界に冠たる技術を全世界に発信し地球保全へのリーダーシップをとっていかなければならない義務があると思う。
今、温暖化の影響による異常気象や生態系の損失が、結果的に莫大な経済損失として跳ね返ってくることを避けるために、温室効果ガスの削減を目指した世界的取り組みが行われている。

水環境の保全 温室効果ガスの削減に新たな対策を打たなければ2050年には生態系の破壊による損失額は、世界の国内総生産(GDP)の1~7%に当たると予測している。(温暖化による全ての経済損失がGDP の20%という2006年英国の予測もある。)
そこで、2050年までに温室効果ガス(あるいは二酸化炭素)の排出量をおおよそ半減させようという意見が国際的に主流となっている。
これは人為的排出量が自然吸収量の約2倍になっているという事実を基にしたもので、「大気中の二酸化炭素濃度を550ppmで安定させ全球平均温度の上昇を+2℃以内に抑える」という目標から来ている。550ppm に抑えるコストは世界のGDP の1%といわれている。

二酸化炭素(CO2)に値段が付く時代になってきた。

其の取り組みの一環として、日本においても2050年までに60~80%の削減を長期削減目標としており、低酸素社会に向けてさまざまな方面から取り組んでいる。
環境税、バイオ燃料、自然エネルギーの固定買取制度など色々な削減への方策が練られているが、「排出量取引制度」も其の一方策である。これは、いよいよ二酸化炭素(CO2)に値段が付く時代になってきたということである。

たとえば太陽光や風力などの自然エネルギーによる電気は電気そのものの価値に加え、CO2排出を削減するという「環境価値」をもっているとみなされる。
この価値を電気と切り離し、第三者機関の認証のうえで取引することを可能にしたのが「排出量取引制度」である。
自然エネルギーや森林整備によって減らしたCO2量を排出枠として企業や団体に売却する取り組みを全国の都道府県や政令指定都市の約6割が始めているという。


二酸化炭素に値段が付く時代 東京都がこの4月から始めた「キャップ・アンド・トレード型排出量取引制度」により都内の大規模オフィスや工場約1400事業所に、今後5年間で6~8%削減という二酸化炭素(CO2)の総量規制(キャップ)を課す。自社で削減出来なければ排出枠を買ったり自然エネルギーを使って削減義務を達成しなければならなくなっている。
今後「環境」が市場経済に大きな影響を及ぼすことが推定され、そこにさまざまな環境ビジネスのチャンスも生まれてくることになるものと思う。
今回は環境特集にあたり、環境に対する最新の動きや違う切り口での環境に対する考え方の紹介と、先に述べた東京都の温室効果ガスの総量規制により、都内最大のエネルギー消費事業所である東京大学での温室効果ガス削減に向けてのTSCP 計画について東京大学坂本雄三教授にお話しをうかがい、グローバル企業として今後環境ビジネスをどう捉え、発展、強化していくのかの方針について三菱電機 杉本達彦 様からご執筆いただいた。
また、かつて使用されてきた自然環境の破壊、生態系の破壊の因子となる物質が、今後財務会計上どのような経済リスクとして課せられてくるのか、資産除去債務としての環境債務についての取り扱いの考え方について専門家であるPWC阿部和彦 氏に執筆いただいた。
読者の環境に対する思考の材料としての一助となれば幸いである。


大気中の二酸化炭素濃度の経年変化 世界の気温は上昇している