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設備更新への目配りが維持費削減のカギ 2

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更新時の落とし穴

建物の運用効率を保つには、設備システムの更新が大きなカギを握る。設備は建物そのものよりも老朽化が早く、最新機器を導入すれば効率を上げることもできるからだ。

ここで大切なのは、計画の初期段階において設備の更新を視野に入れたプランニングを心掛けること。例えばオフィスビルなどで、目先の家賃収入を優先して専有面積を大きく割り当てて、共用部や機械室の面積を抑えすぎてしまうと、設備の改修が発生した際に苦労することになりかねない〔図2〕。

設備更新も考えて

[図2]
設備更新も考えて
メンテナンスを想定せずに目先の利益優先で計画した建物では、後々機械の入れ替えなどがスムーズに進まない。発注者に余計な費用負担をかけることになる

当社が最近関わったプロジェクトで、地下に大型の機械室があるホテルの改修を例に挙げよう。このような施設構成の場合、マシンハッチと呼ぶ大型の開口部や大型エレベーター、外部から大きな荷物を搬出入できるドライエリアなどを設けるのが一般的だ。

だがこのホテルではそうした配慮が欠けていたため、機械を分割して搬入せざるを得なかった。余分な手間がかかり、改修費用を押し上げる結果となった。

建築技術者にとっては、こうした後々にかかるコストを想定したうえで、計画の初期段階で対応策を示すことが重要な責務だ。そうした情報がなければ、発注者は限りある事業資金のなかで、何を優先すべきか判断できない。

維持更新にビジネスチャンス

さらに施設単体に対する考え方を広げ、企業が抱える固定資産全体に対してLCMを提供できれば、発注者の満足度はさらに高まる。

特に最近需要の高まりを感じるのが、建物修繕の中長期計画の提案だ。複数の施設を保有する発注者から、全体を見渡した更新計画の作成を求められることが増えてきた。

計画作成の手順を具体的に紹介しよう。まず発注者が所有する全施設の20 年、30 年にわたる長期的なLCCを算定し、「見える化」する。次に5年程度の短期でみた、精度の高い更新計画を提案する。

発注者の経営層にとって、あらかじめ全体像を知ることは、場当たり的でない対策を取ることに役立つ。さらに短期の更新計画によって、発注者の経営層の任期中に発生する課題も明確に伝えることができる。このロードマップをもとに、実際の工事計画に落とし込んでいく。

設備の更新時に、内装改修を伴う場合を例に取ろう。このときの選択肢はいくつか考えられる。単に原状回復するのではなく、賃料アップにつながる内観デザインにバリューアップを図るといった提案があり得る。こうした全体を見渡した最適解に目を配ることができる建築技術者が、発注者の信頼を得ることができる。

経営に直結する事業不動産

減損会計の導入と併せて、企業経営を評価する指標として一般化してきたのが、「ROA」(Return on Assets、総資産利益率)だ。純利益を保有する資産で割ったもので、この数字が大きいほど、企業の経営が健全であることを示す。

このROAを介することで、発注者の経営層や現場担当者と、我々建築側の技術者の間の共通理解を深められる。事業用の不動産は企業の所有する資産として大きな割合を占めるため、ROAに対する影響力が大きいからだ。企業にとって本業の利益を伸ばすことは大事だが、それにも増して施設の適正化を図ることも、経営の健全化に大きく寄与する。

例えば、建設から一定期間が過ぎた施設について、小規模な改修を繰り返して現状維持するか、バリューアップ改修して賃料の向上を目指すか、取り壊して維持費の負担を減らすか。こういう場合の判断指標としてROAが役立つ〔図3〕。

再投資の判断材料となるROA

[図3] 再投資の判断材料となるROA
施設を改修して収益性を高めるか、解体して新築するかなどの経営判断に必要となる概念だ。それぞれの場合の費用対効果の判断に、建設技術者の知識が必要となる

ROAなどの会計知識は、建設技術者が発注者の経営戦略を深く理解し、経営資源としての施設提案をするための、心強い武器にできるはずだ。そしてそのベースとなるコストの算出には、LCMに通じた技術者の視点が不可欠だ。

POINT

  • 建物にかかる長期的な費用を見通し、発注者の事業計画に沿った提案を心掛ける
  • 建物の一生にかかるコストを算定するには、建築技術者の知識が欠かせない
  • ●構成・本編イラスト:ぽむ企画  ●企画:納見 健悟
  • 本記事は、『日経アーキテクチュア』2014年6月25日号に掲載されました。一部内容を改変し、掲載元の許可を得て、掲載しています。

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