コスト増にも対応できる 性能発注への関心高まる
今回は建築の発注方式のトレンドを紹介する。と言われても、人ごとのように感じる方もいるかもしれない。発注方式を決めるのは発注者で、多くの建築技術者は、その決定に関わることがないからだ。
しかし、どんな建築技術者にとっても、発注方式は仕事の進め方に大きく影響するので知っておいて損はない。発注とは、建物の品質と金額、および納期を決定する要。発注者の考え方に直結している。
建築の発注形態は、大きく「設計・施工分離方式」と「設計・施工一括方式」に分けられるのは周知の通りだ。前者は設計事務所の作成した設計図書に従い、建設会社が施工を担当する。設計者が監理を担うことでしっかりと品質をチェックできるが、発注者は設計者と施工者それぞれとやり取りしなければならず、手間がかかる。後者は発注者の調整業務は軽減できるが、金額の根拠が発注者から見えにくいこともある。
発注方式の進化型
そこで登場してきたのが、発注時に性能を明示する「性能発注型の設計・施工一括方式」だ。震災復興需要、東京五輪の決定、建設コストの上昇といった発注者を取り巻く事業環境の変化を背景に、公共・民間共に発注者の関心が高まってきている。その長所は(1)建築技術者からの提案の自由度を残しながら、(2)建設コストや工期を早い段階で確定できる点にある。設計・施工一括方式における1つの手法といえる。
性能発注とは、発注者が要求した品質やコスト、期間で実現できるように、発注条件を整理してから発注をかける方式だ。建物の形状や具体的な機器、材料までは決めずに、建物や設備がどのような能力を発揮すべきかという「性能」から条件を設定する。これによって、コストや工期が計画から大きく外れることを予防する。
[図1]
金額や期間を早めに確定できる
設計・施工分離方式や従来型の設計・施工一括方式に比べると、性能発注型の設計・施工一括方式は、工事に必要な金額や期間の見通しが早く立ち、工期全体も短縮しやすい
従来の発注方式と比較しながら説明しよう〔図1〕。設計・施工分離方式は、設計図書を発注条件とする「仕様発注」と言える。設計事務所が作成した実施設計図と仕様書を基に建設会社に発注をかけるため、発注者にとっては実施設計が終わるまで、建設費や工期の見通しがつきにくいというデメリットがある。
従来型の設計・施工一括方式と性能発注を採用する場合の違いは、建設会社に対する発注条件の精度だ。従来型では、用途や規模、事業費など大まかな与件から段階的に設計の精度を上げていく。一方、性能発注型では建設会社を選定する前の基本計画や基本設計の段階で、コストに大きく関わる与条件や性能を規定しなければならない。
そのためには、技術的な専門知識が必要となる。我々のようなコンサルタントが参画し発注者を支援する場合が多いが、発注能力の高いデベロッパーなどの要望を受けて、設計事務所が性能発注を支援する事例もある。