PROJECT 03

医療法人社団恵生会 
上白根病院(後編)

プロジェクト座談〈後編〉

BCPを強化し、地域のニーズに応える病院に

[2011年10月~2014年5月]

性能発注方式は、柔軟にプロジェクトを進める鍵

性能発注方式だから、詳細は後からでも大丈夫です。(渋谷)

建設会社の決定後、プロジェクトはどう進んでいったのでしょうか。

冨田:
時間をかけて考えたのは、既存棟と新築棟のどこにどんな機能を置くのかということですね。特に悩んでいたのは、人間ドックなどの各種検査を行う「けんしんセンター」の配置です。力を入れて計画を進めてきた予防医療の中心的役割を担う部門なので、しっかり検討しました。増築棟ではなく既存棟に設置すれば増築棟に外来をゆったりと取れるのではないか……などと建設会社にお付き合いいただきながら、じっくり決めていきました。
丸山:
結果として地域の高齢者のニーズに対応できる病院を、というコンセプトを受け止めた、明るく気持ちのよい施設になりました。例えば化学療法室のような患者さんに強い負荷がかかる治療を行うスペースを気持ちのよい、明るい環境とされるなど、患者さんに目を向けた計画になっているのではないでしょうか。また医療従事者がストレスなく動けるバック動線、患者さんが安全に移動できる動線、救急患者の受け入れ動線といった、医療施設としての必要条件も十分確保できていると思います。資金面や時間的制約がある中で関係者一同が貪欲にゴールを目指してがんばってきたことが結実し、私どももよいお手伝いができたのではないかと思っております。

本プロジェクトはゼネコンへの性能発注による設計・施工一括方式で進められましたが、どのようなメリットを感じましたか。

冨田:
発注の段階では決まっていないことが多かったので、最初に設計を詰めすぎず、後から変更をかけやすい性能発注方式という方法はありがたく感じました。元々設計・施工者が決まった後からも、現場からの要望が新たに出てくるはずなので、柔軟に変更ができないのは困ると考えていました。だから渋谷さんには何度も「これから変更をしても大丈夫なんですよね」と確認をしました。
渋谷:
性能発注方式ですから詳細は後からでも大丈夫ですよ、と説明しました。
冨田:
おかげで建設会社にはとても柔軟に対応いただくことができました。工事がある程度進んだ段階で、2階外来待合室の天井が低いのではないかと感じ、思い切って建設会社に相談をしたところ、前向きに変更案を考えてくださって、折り上げ天井という解決策をいただきました。またスタッフステーションの天井も上げていただきました。低い天井のままでは禍根を残してしまったかもしれません(笑)。きっと現場からも不満の声が出て、そのたびに「あの時言っておけば……」と後悔したはずです。やはり、気持ちよく働いてもらいたいですから。
丸山:
性能発注方式なら要求性能と工事費、工事期間などクリティカルな部分だけを早い段階で確定して、細部は後から詰めていけますので、フレキシビリティがあるんです。

外来の待合室。円形の折り上げ天井は、工事段階で追加した。
外来の待合室。円形の折り上げ天井は、工事段階で追加した。

診察室入口。フレキシブルな使い方ができるよう、科や医師の名をマグネットで張り替えられるようにしている。診察室入口。フレキシブルな使い方ができるよう、科や医師の名をマグネットで張り替えられるようにしている。

レールを引いていただいた上で選択をしていっただけです。(冨田)

関係者との合意形成の上で、工夫された点や難しかった点はおありでしょうか。

開放的で明るいスタッフステーション。使いやすいと好評だという。
開放的で明るいスタッフステーション。使いやすいと好評だという。

渋谷:
通常の医療施設などでは会議体には施設担当者のみが参加し、理事長や院長といった意思決定権者には会議の議題を上申し、決定を仰ぐというプロセスを取られます。しかしここでは最終意思決定権者のお2人が定例会議に参加してくださったので、意思疎通がしやすく、ありがたく感じました。
丸山:
すべての意思決定がスピーディーであったわけではなく、そうある必要もありません。こだわる部分には時間をかけていただいていいんです。ただ我々にとってありがたかったのは、決められることをすぐに決めていただくと同時に、何を決めるのに時間がかかるのかをその場で明確に回答いただいたことなんですね。そうしていただくとこちらも、「いつまでにご決断いただければ、工程は遅れません」と期日をお伝えできますので、進めやすいのです。
冨田:
現場の意見を聞くべき部分については確認の時間を取って、慎重に決定していました。でも我々は、あくまでレールを引いていただいた上での選択をしていっただけでなのです。必要なタイミングで、必要な決定事項を少しずつ、ひとつひとつ説明とアドバイスをいただきながら出していただいたので、無理なく決めていけました。

施設のローリング計画を重視。解体、増築、減築といった段階的なプロセスの中で、利用者への影響を最小限にした。


渋谷:
病院を運営しながらの工事だったので、機能や設備、病室の一時移動といった施設のローリング計画は、本プロジェクト成功のためには避けては通れないプロセスだったと思います。利用者への影響を最小化すべく、施工者を含めて設計段階から精緻に検討しました。スムーズに進めるためにはオペレーションの状況を確認しながら進めることが大事だったのですが、情報が理事長、副理事長からそれぞれの担当部門にきちんと伝わっていることが感じられたので、我々としてはとても安心でした。
丸山:
運営をしながら改修のみならず減築もしたんですよね。既存の建物にカッターを入れるわけですから、どうしても振動や音が建物に伝わってしまいます。オペや生理機能検査への影響がかなり心配だったのですが、看護部長にも定例会議に出席いただいていたこともあり、オペのスケジュールを教えていただいたり、施工スケジュールに合わせて重篤患者を他の病棟に移動していただくなど、ご配慮いただいたので、やり切れました。
冨田:
現場の意見を聞くように気をつけてはいたのですが、スタッフにとっては新しい病棟ができることはうれしいことですから、協力しようという雰囲気もありましたね。関係者全員が当事者として、がんばってくれた結果なのではないかと思います。おかげで致命的な病院機能の麻痺はありませんでしたね。ベッドは一時期最大15床減りましたが、それも5ヶ月程度の期間で済みました。
丸山:
建設会社も病院への影響を小さくしよう、患者さんの安全を絶対に阻害しないようにしようという気概を持って対応してくれました。

聞き手:平塚 桂、納見健悟