プロジェクト座談〈前編〉

BCPを強化し、地域のニーズに応える病院に

[2009年~2011年6月]

震災後、現実的になった免震構造という選択肢

近隣の大学病院とサービスで差別化を図り、
地域の急性期医療を担う一般病院として
求められる役割を果たしていこうと
計画を進めました。(冨田)

本日は上白根病院の増・改修プロジェクトにおいて中心的な役割を果たされたお2人に、山下PMCの担当者とともにプロジェクトを振り返っていただきます。まずは上白根病院の増・改修をなされた背景や経緯を教えてください。

冨田:
築30年近く経って医療の状況も変わり、既存の病院では現代のニーズに合わない部分が多くなって来ました。建設当時は広いと言われていた6人部屋の病室も、ベッドに挟まれた中央の病床に車椅子が入らないといった問題が顕在化し、2009年頃に前理事長から建て替えの話が挙がってきました。ちょうどその頃、敷地が市街化調整区域から市街化区域に変更され、高層の建物が建てられるようになったことも計画を後押ししました。しかし計画半ばで前理事長が病に倒れ、私どもが引き継ぎました。


大矢:
元々は救急医療を重視していました。ICUレベルのリカバリールームを設置して、やけどの治療といった本格的な救急対応ができる体制を整えてきました。しかし近年は、高齢者の受け入れという新たな役割が強まりつつありました。前理事長は社会から高齢者の行き場がなくなりつつあることを憂い、特別養護老人ホームを設立するなど、積極的に福祉関係の取り組みも進めていました。この横浜市旭区は高齢化が早く進んだ地域で需要もあったため、大学病院が対応し切れない高齢の感染症患者などを受け入れているうちに、入院患者に高齢者の割合がかなり増えてきました。そこで今回の増築及び改修では病室の居住性を高めるなど、現在求められている機能を満足させる建物にしようと考えました。
冨田:
本院が立地する横浜市の西部医療圏というのは病床過剰地域で、病床を増やすことはできません。そこで近隣の大学病院ができないサービスの提供で差別化を図り、地域の急性期医療を担う一般病院として求められる役割を果たしていこうと計画を進めていきました。

計画を見直すには、
プロの手を借りないと難しいと感じました。(大矢)

その施設整備にあたり、コンストラクション・マネジメント(CM)という役割が必要だと感じたのは、なぜでしょうか。

冨田:
前理事長が進めていた頃は、増築棟を耐震構造で建てる計画でした。しかし私どもが引き継いだ後に東日本大震災が起きて、新築の建物をつくるならば免震構造にすべきではないかと考え始めました。
大矢:
前理事長には、この病院に災害拠点病院のような役割を持たせたいという強い想いがありました。災害時に医療を継続するのはもちろん、被災した地域の方々に炊き出しなどもできればという構想を持っていました。
冨田:
耐震構造というのは、たとえ建物が被害を受けても人命だけは損なわないという考え方でできています。しかし病院の場合は建物や設備がダメージを受けると医療機能が果たせません。それにたとえ中にいる人間が無事でも、建物が全壊となる可能性もあるというのは、経営面でのリスクになります。
大矢:
前理事長から引き継いだ時点での私どもは、建物のことはほぼ素人。畑違いのことはよくわかりません。また前理事長も経験豊富とはいえいろいろと失敗してきたことも知っていたので、計画を大きく見直すにはプロの手を借りないと難しいと感じました。

CMというお仕事のことは、どのようにお知りになられたのでしょうか。

冨田:
人づてにCMという仕組みがあると教えてもらいました。それが一体どんなものなのか、インターネットで国交省の指針などを調べていくうちに山下PMCのウェブサイトにたどり着き、問い合わせフォーム経由で連絡をしました。
大矢:
病院や製薬会社の施設など、しっかりした実績をお持ちで、これならば信頼できるだろうと感じました。
冨田:
すぐに社長の川原さんと丸山さんがこちらに見えて、ご説明をいただきました。
大矢:
そのときCMをしていただくにはそれなりの費用が必要だとわかりましたが、丸山さんから「それだけの価値がある」と言っていただき、信頼したのです。
丸山:
全然記憶にありません……そんな恐ろしいことを言ってしまったんですね(笑)
冨田:
当時は増築棟を免震構造か、当初計画通りの耐震構造でいくか悩んでいました。そこで丸山さんに「なぜ免震にしないのですか」と言われ、頭から離れなくなりました。
丸山:
それはよく覚えています。建物の耐震性能について、重要度係数を消防署や特に重要な庁舎などに適用する1.5という係数で考えているとお聞きし、「そこまでするなら、なぜ免震にしないのですか」とポロッと言ってしまいました。東日本大震災の後で、ほとんどの病院のプロジェクトで免震構造以外の選択肢を聞かなくなっていた頃でしたし、構造形式は規模ではなくどういったサービスを提供したいかで優先して決めた方がよいはずです。でもその一言が大きく舵を切るきっかけを与えていたとは、驚きました。
冨田:
免震構造は、もっと大規模で高層の建物に合うものだと思っていました。でも実は低層の建物にこそ相性がよいとご説明いただいて、それならばと採用を決めました。

新築棟(右)と改修された既存棟がシームレスに連続する上白根病院。
新築棟(右)と改修された既存棟がシームレスに連続する上白根病院。

吹き抜けのある新築棟。2階からエントランスホールを見下ろす。吹き抜けのある新築棟。2階からエントランスホールを見下ろす。