建築をもう一度「格好いい職業」にするために
2024年6月、新・担い手3法(品確法と建設業法・入契法の一体的改正)が成立した。昨年度開催された「国土交通省中央建設審議会・社会資本整備審議会基本問題小委員会」に、委員の一人としてこの改正案議論に参加した私としても国会通過は感慨深い。
当基本問題小委員会の中間とりまとめは大きく3本の柱で構成されていた。
①請負契約の透明化による適切なリスク分担
②適切な労務費等の確保と行き渡りの担保
③魅力ある就労環境を実現する働き方改革と生産性向上
これら課題解決のゴールは「持続可能な建設業」である。
総務省労働力調査によれば、建設業就業者数は1997年の685万人をピークとして減少が続いており、2023年はピーク時比70.5%の483万人。そのうち、建設技能労働者(建設工事の直接的な作業を行う、技能を有する労働者)はピーク時(464万人)比66.2%の307万人まで減少している。さらに、技能労働者の34%が55歳以上(65歳以上が13%)で、対して29歳以下はおよそ10%という超高齢化産業だ。
若い入職者の確保・育成はもう待ったなしであることに疑いはない。
昨年度の基本問題小委員会でも、その点の議論に多くの時間が費やされた。3Kと呼ばれて久しい職場環境をいかに良くするのか。工業高校や高専の教員に「どうすれば入職してもらえるのか」とヒアリングも行った。基本賃金の改善、社会保険加入、週休2日、技能向上と賃金の連動など、この文字だけ見れば前時代的な感覚を持たれるかもしれないが、これが日本の建設業の現実だ。これらを解決していかなければ、日本の建設業が「持続不可能」になることは火を見るよりも明らかであり、 絶対に成し遂げなければならない。
しかしながら、私はこの議論の最中から妙な違和感を覚え始めた。皆「マイナスをゼロにする」議論にばかり必死になっている。マイナスをゼロではなくプラスにする、もしくは今プラスのものを更に大きくする議論は一切なされない。
建築は、多くの人が「これは俺が、私が造った(創った)」と家族や友人たちに誇れる職業だ。大きなものになれば数千人以上の「俺の、私の」であり、この仕事に一度でも携わった者は皆、建物が完成したときの達成感や喜びを知っている。建築は楽しくて、やりがいがあり、大きな社会貢献ができる格好いい仕事なのだという魅力はどこに消えてしまったのだろう。
「担い手がいない」という理由で現場はどんどん工業化され、誰でもできる工法や材料が重宝される。そもそも、建築はすべてが一品生産であるものなのに、簡略化と画一化を図ることばかりに夢中になって、結果として造り手の技能のみならずプライドまでも削いでいってしまったのではないか? それが負のスパイラルになってはいないだろうか?
プレカットを使わず、手刻みにこだわる大工のもとに多くの若者が集っていると聞いた。
建築という職をもう一度格好いいものにするためには、マイナスをゼロにするだけでなく、合理性という言葉から少し距離を置き「自分だからこそできる」というプライドを持てるようにすることこそ、たとえ時間がかかっても必要なのかもしれないと唸った。
出典:山下PMC 広報誌『unsung heroes』vol.32/summer 2024