The Report #15施設のストック活用に向けて
当社では、新築に加え、改修・修繕に関するご相談も多数いただいています。施設の長寿命化時代を迎えた今、既存の施設を活用していくために何が重要なのか?山下PMCのLCC(ライフサイクルコスト)の専門家、環境・運営推進本部 本部長 進藤 光信がお伝えします。
実は工事の3割を占める建築補修
都市部での大規模開発プロジェクトや、政府も後押しする半導体工場やデータセンターの新築プロジェクトなど、建設産業に投資の波が到来しています。注目が集まりやすいのはこれらの新築工事ですが、ストック建築物の増加に伴い、改修(リノベーション)や修繕など、既存ストックを活用する建築補修工事も増えています。
国土交通省「建設工事施工統計調査」によると、建築補修は増加傾向にあり、2022年度は25.3兆円と施工高全体に占める割合は約30%となっています。さらに、建設経済研究所のレポートでは、建築補修の割合が増えていくことが予想されています。
維持修繕工事の推移

出典:国土交通省「建設工事施工統計調査」をもとに作成。
※国土交通省の「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る再発防止策検討・国土交通省所管統計検証タスクフォース」において、本統計の点検・検証が進められてきた。その結果、2020年度分(2019、2020年度)が欠測値補完を実施して公表された。
建築補修の実績と見通し

出典:建設経済研究所「建設経済レポート」「建設投資の見通し」をもとに作成。
※国土交通省「建設工事施工統計調査」の「政府分野投資」は含まず。 ※2022-2023年は見込み、2024-2025年は見通し。 ※2025年までは予測値を採用、2026年以降は当該期間の成長率を採用し試算。
国土交通省の考え方に基づき、用語は以下に定義。
●修繕:建物の建設当初の水準にまで回復させること。
●改修:リノベーションともいう。修繕及び改良(グレードアップ)により、建築物の性能を改善する変更工事のこと。
●建築補修:修繕と改修の総称。
当社にご相談されるお客さまも、昨今の建設費高騰に伴い、施設の解体・新築(建替え)だけではなく、改修や修繕をして継続運用することを選択肢としてあげ、検討されるお客さまが増えてきたように感じています。設計者や施工者などの担い手が確保しづらいという状況もあいまって、改修や修繕に舵を切って、施設を運用し続ける選択をされる流れは今後強まっていくでしょう。
建替え/改修/修繕。判断基準は定量化できるのか?
解体・新築(建替え)、改修、修繕などの選択肢を比較する場合、いわゆるフィージビリティ・スタディを行い、お客さまに判断いただくことがあります。これは、プロジェクトの初期段階で、目標と要望を満たすための課題を可視化し、その実現性や数多くの不確定要素を調査・検討し、施設の今後の方向性を定める材料となります。
具体的には、「適正製造基準(GMP)に合致していない工場をどうしていくか見定めたい」、「顧客ニーズの変化に対応できるようホテルをどうしていくのか見定めたい」など施設の特徴にあわせた事業課題についてさまざまなご相談をいただいています。
一般的に、解体・新築(建替え)、改修、修繕には以下のメリット・デメリットがあります。
解体・新築(建替え)、改修、修繕、メリット・デメリット一覧
それぞれのメリットとデメリットをできるだけ定量的に数値化して、比較することになりますが、その評価指標は多岐に渡ります。
②ランニングコスト(保有費、保全費、修繕更新費、運用費、施設管理費、除却費)
③収益性(賃料、施設使用料、宿泊料、販売料)
④生産性(生産量、生産品目、生産得率)
⑤FCI:Facility Condition Index(残存不具合価格/建物複製価格)
⑥施設機能(市場ニーズとの合致、製造・試験基準との合致)
⑦BCP対策(耐震性、自然災害への対策、サイバー攻撃対策、パンデミック対策)
⑧環境性能(CO2排出量、LCCO2、エネルギー効率)
⑨資産価値
⑩ブランド力(企業の認知度や信頼性)
⑪施設運営への影響(営業制限、使用制限、売り止め)
①②の合算:LCC(ライフサイクルコスト)
できるだけ定量的な数値で示した方が判断しやすくなりますが、プロジェクトの初期段階では定量化が難しい指標も多数あります。収益用途なのか事業用途なのか、または何を重要視されるのかなどで、お客さまの判断は変わりますが、資産価値向上・施設機能向上・施設運営強化につながる最良な判断のアシストが重要です。
判断を難しくしている原因
一方、フィージビリティ・スタディで、改修、修繕などの検討を行う際に、手間取ることがあります。原因はさまざまですが、今回は2例ほどあげてみましょう。
1.これまでの運用でうまくファシリティマネジメントができていない
施設を維持していくためには、日常的な保守、および、数年~数10年単位で発生する修繕・更新を適切に実施していくことが不可欠です。しかし、目先の部分最適解を選択する傾向があり、全体最適が求められる施設運営とは温度差があるケースが見られます。つまり、これまで「ほとんど手を付けていない」状況です。当社で修繕計画を作成すると、直近で膨大な修繕項目や費用が発生し、計画を立てても実効性に乏しいというケースもあります。
2.施設情報が整理されていない
「管理会社や元施工者に任せっきりで、そこが管理している」というのであればまだいい方で、建物情報が一切ないという施設もあります。建物情報とは具体的には、許認可申請書類、図面(竣工図・製作図)、コスト情報、改修履歴、不具合情報、定期報告などの図面や資料となります。これらの情報がないと、一から調査、あるいは、ある前提に基づいた指標となってしまいます。たとえば、建築基準法上の「大規模な修繕」や「大規模の模様替」に該当する場合は、既設建築物の法適合状況について、規定の対象となる建築物の部位ごとに既存不適格や違反のジャッジができないと、どこに手を付けるべきなのか判断が難しく、改修費がぶれてしまう場合もあります。
LCCを最適化する山下PMCのサービス
上記のようなケースでは、お客さまにとっての最良な判断を妨げる要因になってしまいます。日頃より、ファシリティマネジメントによってLCCを最適化し、経営資源の効率化を図ることが重要です。このような状況に陥らないように、当社が取り組んでいるサービスを2つご紹介します。
1.施設のかかりつけ医『Facility Dr.』
施設機能・施設運営面から、資産価値を上げ、施設の不良資産化を防ぐサービス。予防保全の観点から中長期修繕計画を立案し、適正な修繕更新を実施することが、結果的にLCCの低減や将来のリスク回避につながります。運用中の施設を分析し、今後予見される事象(事業戦略とのミスマッチ、施設の物理的・社会的劣化など)に対して、最適な投資計画を立案し、施設の価値を維持向上させる戦略をご提案します。
2.施設情報管理DXサービス『b-platform』
大量の図面や資料を360°写真と紐づけて管理できるクラウド型プラットフォームサービス。建物にまつわる全ての情報が、長期にわたり散逸することなく、360°写真を用いた直感的な操作で収集し、体系的に一元管理することができるなど、情報収集や管理負荷の削減が可能になります。

竣工から20年以上が経過し、ビルの老朽化やオフィスワーカーの行動変容によって、新しい付加価値の提供が求められていたニッセイアロマスクエア。Facility Dr.がストックの価値を活かしながら、改修工事にかかるマネジメントを担当し、2022年、「Aroma Square Lounge」としてリニューアルオープンした。
当社では、施設を単なる物理的生産財として捉えるだけでなく、「企業価値を最大限向上させるための経営資源」として捉え、施設の運用段階でのさまざまな支援を行って参ります。
次回の「The Report」は、山下PMC 鴨下 清がお届けします。
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