SAGAサンライズパーク(中編)
前例のない施設づくりのため全国のスポーツ・エンタメ施設を視察

持続的に収益を上げる施設に。県の大きな決断をサポートさせていただきました
基本計画からどのように具体的な計画に落とし込んでいかれたのですか?
- 東
- 特に重視したのがソフト面でした。単に施設をつくるだけではなく、SAGA2024開催後にどう活用していくのかまで、しっかりと考えておく必要がありました。その点は佐賀県として知見が不足していました。
- 池上
- そこで皆さんと一緒に全国津々浦々のアリーナやプール、周辺の賑わい施設を視察に行きました。
- 東
- 普通はお手本になりそうな施設を視察に行くのだと思いますが、当事業では、そのままマネをすればいいという施設はまだ国内には見当たらなかったので、いろいろ見て回りました。他の職員と手分けして、50か所を超えました。
- 市丸
- アリーナの建物だけでなく、それがどう使われて、どう運営されて収益を出しているのか。各施設からいろいろなアイデアを抽出したかったのです。最寄り駅からアリーナまでの動線、その周辺の街への影響も、重要な調査項目でした。ある施設では、ペデストリアンデッキを往来するたくさんの人を見て、デッキの幅を測ったりもしました。
- 東
- アリーナで試合観戦するだけでなく、試合前に食事をしたり、グッズを買ったり、観戦の帰り道でも、祝勝会をしたり……。公共施設であるからには、そうした街の賑わいや経済の循環づくりが重要な視点になりました。
- 池上
- ここまで収益性に高い意識をもっている自治体は少ないと思います。民間施設と同等それ以上に、しっかり稼げる施設にするという考えが明確でした。
- 市丸
- 確かに、多くの公共施設の運営は守りに入りがちです。山下PMCさんからも提案を受けながら、計画に何か追加したり、変更を加えたりするのは、かなりエネルギーを使いました。
- 東
- 他の自治体の方からは「公共でよくこんな施設をつくりましたね」と言われます。これは褒め言葉だと感じています。公共施設とは思えない振り切り方ができました。たとえば公共施設で体育館をつくる場合は、同時に多くの試合ができるようにメインフロアにコートを3~4面取るような計画がほとんどです。しかし、それでは、せっかくのアリーナの臨場感が半減してしまいます。だからメインコートはセンターコートの1面だけ。ここは絶対に譲れませんでした。
- 市丸
- 山下PMCさんからも助言を頂き、当初6,000人以上としていたアリーナの観客席数を約8,400人に決めました。
- 村田
- SAGA2024開催後の収益性も重視し、一流アーティストを呼べるスーパーアリーナへの転換でした。大きな決断をされたと思います
同時進行の複数の工事で共通課題を整理する仕組み
たくさんの工事関係者が参画する現場のルールづくりはどのように進められましたか?
- 市丸
- 当事業の大きな課題は、工事と他の施設の運営を同時進行させなければならないことでした。総合運動場は日頃から県民や学生の方が利用していますが、その機能は絶対に残さなければなりません。工事に使う場所を狭い範囲に仕切らなければならず、技術的な難度も高くなりました。
- 村田
- 我々も、当初からこの点は大きな課題と受け止めていました。いくつもの工事が集中する中、どう工事を進めていくのか。早めに提案させていただきました。
- 池上
- 今回のように敷地が広く、工事が90パッケージ以上もある事業の場合、工事会社さんも、工事間調整をどこまでやればいいのか、分からなくなることがあります。ここのルールをしっかり作成することが、今回のプロジェクトの大きなテーマになると考えました。
- 東
- 建築工事の関係者と通常のイベント運営の関係者、いわばハードとソフトの関係者間の意思疏通を図る仕組みが大切でした。利用者や近隣住民に事故があってはなりません。工事車両の出入り、施工者の出入り口等、現場の細かいルールづくりに、多くのご提案を頂き本当に助かりました。
- 東
- 建築工事の関係者と通常のイベント運営の関係者、いわばハードとソフトの関係者間の意思疏通を図る仕組みが大切でした。利用者や近隣住民に事故があってはなりません。工事車両の出入り、施工者の出入り口等、現場の細かいルールづくりに、多くのご提案を頂き本当に助かりました。
- 池上
- 以前は、複数の施工者間の調整や相談は、すべて県の担当者に直接入って、対応にかなり苦労されていたと聞いています。クレーム対応を含め、そこはまさにCMの役どころです。ただ、我々も毎日、現場に入れるわけではありません。機動性を維持しながら、現場の情報を一元管理し、課題解決に導きたい。通常の工事では現場所長さんは担当する工区の統括管理を行います。しかしそれでは、複数の工区にまたがる共通の課題が置き去りにされてしまうので、最も工事の規模が大きいアクアとアリーナの施工者から複数の工区間の調整を行う担当者を別途ご任命いただく仕組みをつくりました。それでも、問題は残りました。特に難しかったのは、建築と土木工事の間の調整です。
- 澤田
- 私は主にハード側のマネジメントを担当しましたが、工事におけるこれらの調整も、重要な仕事になりました。たとえば、建築工事の工事車両の出入りが多い日に、ゲートの前で歩道の土木工事をしていたら、周辺道路で渋滞が発生し、近隣の方に迷惑をかけることになりかねません。そうしたところを全体調整役の工事会社さんと事前に打ち合わせ、佐賀県さんとも話し合いながら調整していきました。
仮囲いの中の出来事を外にいる県民に伝える
県民に施設の必要性を理解してもらい、SAGA2024に向けた機運を醸成するためにどう工夫をされたのですか?
- 池上
- 工事期間が長く、いつ、どんな施設ができるかが伝わりにくい事業です。そこでいくつかご提案をしました。一つは「現場新聞」の発行です。職人さんをはじめ現場で働く人たちに登場していただき、仮囲いの中で行われていることを伝えるために、大きなパネルをつくり、貼り出しました。また仮囲いの壁に、山下PMCが事務局を担う「108 ART PROJECT」の取り組みを活用し、アートを展示しました。我々も、こうした県民へのアプローチは初めての体験でした。
- 東
- ありがたいことに、5年半にもわたる整備期間中、近隣の方からの苦情はほとんどありませんでした。安全確保に万全を期した結果だと思いますが、仮囲いの中で何をしているのか、伝えられたことも功を奏したと思います。また、県内でもこれだけ大規模な事業はめったにありませんから、建設業の魅力を佐賀の将来を担う子どもたちに伝えたいと思い、親子向けの工事現場見学会を実施しました。工事会社や山下PMCさんにもご協力いただき、重機を操作したり、完成したSAGAサンライズパークのイメージをVRで仮想体験していただいたりしました。
- 村田
- 普通は、現場で何が行われているのか、県民には分からないまま工事が終わりますが、佐賀県は完成した後や、県民の皆さんのことを大切に考えていらっしゃったという印象があります。
試合やコンサートのある日もない日も多くの人が行き交うペデストリアンデッキ。
若手人気アーティスト愛☆まどんなによって仮囲いに描かれたスポーツをする少女の表情。殺風景だった工事現場に彩りが生まれ、足を止める県民も増えた。
プロジェクトに関わったマネジャー
関連する用途
-
スポーツ・エンターテイメント
これからの街が、より良い街であり続けるためには、市民に選ばれる魅力が必要不可欠です。今、その有力な魅力となりうるものにスポーツやエンターテインメントがあります。にぎわいのある街となるための在り方とは?スタジアム、アリーナの事業収益が成立するための工夫とは?日本の未来を力強くドライブする、しかし誰も答えを創れていないソリューションが、強く求められています。
-
公共
2014年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が改正され、公共工事においても多様な発注方式の採用が認められたことで、DB(デザインビルド・設計施工一括発注)方式、ECI(施工者が早期に関与)方式などが普及しつつあります。一方で、自治体の技術職員が減少する中で、2020年9月には「地方公共団体におけるピュア型CM方式ガイドライン」が発行され、複雑化・高度化する事業をCM活用により着実に推進する手法が広がりをみせています。また、多くの自治体では高度成長期に建設された施設の老朽化が進み、PRE戦略や公共施設マネジメントの立案・実施も課題となっています。
関連するプロジェクトストーリー
-
Story46
SAGAサンライズパーク
街の賑わい、経済の循環を生み出す 佐賀の新しいランドマークが誕生
-
Story43
JAPAN BASE
ラグビー日本代表の基地を社会変革のモデル基地に育てる
-
Story41
「ES CON FIELD HOKKAIDO」(北海道ボールパークFビレッジ)
“世界がまだ見ぬボールパーク”を実現したチーム
-
Story33
横浜スタジアム 新ランドマークへ、再生
横浜に新たな“にぎわい・価値”を 新ランドマークへ、再生
-
Story28
JFA夢フィールド 選手育成・代表強化・指導者養成・普及、日本のサッカーを育て、魅力を発信する拠点
選手育成・代表強化・指導者養成・普及、日本のサッカーを育て、魅力を発信する拠点