京都悠洛ホテル 二条城別邸Mギャラリー プロフェッショナルたちの視点が重なる時(中編)
「自己不在の風景」
写真:株式会社ナカサアンドパートナーズ 中道淳
目指しているゴールに向かう足取りに
阿吽の呼吸のようなものを感じた
皆さん、自身の担当分野の重要な要素として庭に視線を向けていますね。ランドスケープを担当された藤田さんは、今回のホテルにおける庭の役割をどうお考えですか?
- 藤田
- 「庭屋一如」。これは江戸時代、幕末まで残っていた建築の言葉で、家屋と庭は一体のものという考え方です。襖を開けば庭も室内も同じ空間でした。今、お聞きしたように全員の庭に対する関心がとても高く、京都の歴史的景観のなかに誕生するホテルにおいて、庭のポテンシャルが高いことが、すばらしい空間の完成に大きく貢献したと思います。
苦労された点はありますか?
- 藤田
- 実は最初に「日本の美意識の源をつくってほしい」と言われました。これは大変だと思う一方、大きなやりがいを感じました。建築やインテリア、それらが造形物に付け加えるものではなく、施設全体が無形の価値を表す。その思想の体現が庭に求められているのだと。「山紫水明」とは山の美しさ、川の流れの清らかさを表す言葉です。京都は水の美しさで語られる、その歴史的な文脈を捉えた庭づくりに取り組みました。
庭の水鏡はまさにその象徴ですね。
- 藤田
- 建物北側の庭というあり方があの水鏡を生みました。夏至以外、ほぼ直接陽が差し込むことがなく、常にやわらかな順光が水面に景色を映します。その景色こそ、清らかな水を表現します。
写真:株式会社ナカサアンドパートナーズ 中道淳
実は、藤田さんが加わる前段階では、光井さん、橋本さん、内原さんの三人とも、庭自体を自分が担当したいと言われたそうです。
- 藤田
- え!そうなんですか。
- 光井
- 空間の連続性というコンセプトは、内部空間とのつながりも当然必要です。中庭との連続性はさらに重要。建築のスタディとともに、庭や屋内空間に関してもいくつもアイデアを出しました。橋本さん、藤田さんからのご提案も本質は変わらないものだった。「ああやはり」「これだな」と腑に落ちるものばかり。私たちは、かなり近いものを目指していると感じました。
- 橋本
- それは最初に施主と光井さんの合意形成ができていて、しっかりしたレールが敷かれていたから可能だったのだと思います。それぞれの担当分野で何を表現したらいいのか。自然とみんなの目線が合致してくるのを感じました。
- 内原
- 私は皆さんの後を追いかけながら、施設の完成する最後のタイミングでパッと早着替えをするように照明を仕上げる役割です。そこで後ろ前が違うよ、となったら大変。でも一人ひとりが意志を高くもつと同時に、何か無言の共有みたいなものがあったと感じます。それぞれのアイデアがプラスされていく過程を経て、最後にコンセプトをもう一度認識して引き算が必要になる場面もある。それでもブレない。照明の仕上がりも最初からこうだったよね、という結果が得られました。
- 藤田
- 今日お聞きして、皆さんが庭にとても協力的だった理由が分かりました。このホテルの価値を仕上げるのは、最後は庭だ。そういう自負で取り組みましたが、完成した瞬間、自分がデザインしたという恣意的な思いは消えていました。「自己不在の風景」と出合った印象です。このような経験はそうそう多くないものです。
- 光井
- その感覚は、とても分かります。施設全体がすごく自然なのです。作為的なものを感じさせず、あるべくしてここにある。そう感じさせる。
- 橋本
- 完成したホテルを撮影したカメラマンが、日が暮れ始めると何度も言っていました。「いやあ、こんなにいい感じの暗さは久しぶり。これはいい!」と。
写真:株式会社ナカサアンドパートナーズ 中道淳
プロジェクトに関わったマネジャー
関連する用途
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ホテル
現代のホテルビジネスでは、所有・経営・運営を分離し、それぞれのリスクに応じて利益の分配を行う事業方式が日本においてもスタンダードとなりました。事業主が所有・経営・運営いずれの立場であっても、事業のどのフェーズにおいても、経営的側面と建築的側面の双方から常にリスクとリターンを明確にした、専門的コンサルティングサービスが求められています。また、近年ホテルのグレードは高くなる傾向が強くなっています。一般的にホテルのグレードが高くなるとサービスも質と量ともに増えるため、施設のグレードや複雑さも高くなります。それにより、関わる設計者、施工者、デザイナーやコンサルが増えるだけでなく、事業主側でも求められる対応が高度化しています。
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