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コクヨWORKSIGHT山下正太郎編集長に訊く「日本人のオフィスと働き方はどう変わった?」

コクヨWORKSIGHT山下正太郎編集長に訊く「日本人のオフィスと働き方はどう変わった?」

コクヨは1969年の新社屋完成をきっかけに、日本で初めて「ライブオフィス」の取り組みを開始した。ライブオフィスとは、最新のオフィス空間で社員の働き方がどう変わるか、自社を題材に一般の方にも体験してもらおうというもの。以来、コクヨはオフィスと働き方の研究に厚い蓄積を有している。同社の研究セクションであるWORKSIGHT LAB.の主任研究員・山下正太郎氏に、昨今のオフィス事情を聞いてみた。

バブル経済とバブル崩壊がオフィスの進化を加速化した

昭和のころのオフィスはすごく地味だった印象があります。グレーのスチールデスクが象徴的でした。

グレーのスチールデスクは戦後、進駐軍が日本に持ち込んだものと言われています。向かい合ったグレーのデスクが並び、その窓際に課長や部長の席が置かれ、ひとつの島を構成する。その島がいくつも並んで“○○部”が構成される。オフィスのレイアウトはそのまま組織図でした。そんなレイアウトであれば、課員から上がってきた書類に上司はハンコを押しやすい、課員を管理しやすい、と考えたのだと思います。その構造は戦後になってもしばらくは変わりませんでした。

しかし、最近はだいぶ様変わりしました。コクヨさんもフリーアドレスのオフィススタイルを採用されていらっしゃいます。

フリーアドレスのコクヨのオフィスで執務する山下氏。フリーアドレスのコクヨのオフィスで執務する山下氏。

「今日は集中して書類を仕上げたいな」と思えば、四方が囲まれたブースにこもる。周りのスタッフと近況を共有したいなと思えば、カフェ的な空間を選んで仕事をする、というような使い分けをしています。フリーアドレスは個々の社員が自主性をもって課題解決できる仕組みだと思います。

もうひとつは、外部のスタッフやお客様などとのコミュニケーションのスペースが大きくなってきたことも最近の傾向です。ウチの会社でも、セキュリティの観点からスペースは区切られていますが、アライアンスを組んでいる会社の人が当たり前のように社内で仕事しています。

歴史的にはいつごろが転換点だったのでしょうか?

1980年代後半に、当時の通商産業省が「ニューオフィス運動」というものを提唱しました。30年ほど前、バブルのころに重なります。

当時は「経済のソフト化・サービス化」が言われるようになり、社会のニーズを的確に汲み取るべく、オフィスの知的生産活動を高めていく必要があると。OA化という流れや内需拡大という当時の国家的な目標にも合致していたことから、オフィスを変えていこうという機運が盛り上がります。

スチール家具の色は明るいアイボリー系に変化し、インテリア意識が高まります。社員食堂などもこのころキレイにリニューアルされました。コクヨが、いま私が所属する研究所(オフィス研究所・当時)を設立して、オフィスとオフィスでの働き方を研究するようになったのもちょうどこの時期です。

その後のバブル崩壊が次の転換点になりました。省コストや効率性、機能性などが求められる一方で、オフィスを重要な経営資源としてもっと見直さなければいけないと考えられるようになっていった。PCのネットワーク化やモバイルワークの出現がそれを加速化します。働き方の見直しが、大胆に行われるようになりました。

課題を発見し、課題を解決する場としてのオフィス

どう見直されたのですか。

かつては、オフィスに出社することで仕事は成立していましたが、オフィスという場所に依存しなくても仕事ができることが、だんだんはっきりしてきました。

つまらない会議に出ながら頭の中ではボーっと週末の休みのことを考えるのと、自宅で風呂に入りながら明日のプレゼンについて思いめぐらせている時間とではどちらが仕事の時間なのか、わかりませんよね。仕事はワーカーの意識に依存するということが、バブル崩壊以降、オフィスのあり方が問い直される中で明らかにされたというわけです。


でも従来の事務作業や打合せの時間は相変わらず残ります。

インターネット上で不特定多数の人材に対して業務内容と報酬を提示し、仕事を発注する「クラウドソーシング」の会社がすでに日本でも伸張しています。いまの時代、事務的な仕事ならアウトソーシング先を見つけることは容易です。

さらに、たとえばイーライリリーという医薬品メーカーが立ち上げたInnoCentiveというクラウドソーシング事業があります。これは各種の研究開発テーマを世界中の科学者や技術者にクラウドソーシングできる仲介サービス業です。こうなると、世界のどこかで答えが見つけ出せそうな仕事なら、何も自社でやらなくてもいいということになります。外部のリソースを上手く使うことで、時間とコストを圧縮できるのです。

では、オフィスの役目は縮小されるということですか。

スペースという意味では、一人当りのオフィス面積が小さくなっているのは間違いありません。時代の趨勢として、個人は仕事と生活の両立を求めて自由度が高いライフスタイルを望む傾向にあり、オフィスはそのなかで個人のための場所というより、チームのための場所になっています。

そこでは、オフィスをチームにとっていかに生産的な場所にするか、パートナー企業やユーザーとの関係づくりにどのように寄与するかが課題になります。オフィスのもっとも重要な役割は、課題解決を行い、課題そのものを見つけ出すことといえます。

昭和の時代のチームとはだいぶ異なるチームですね。

かつては、上から下りてきた課題を下の者が受けて計画的に仕事を進めていた。そこではプロセスが重視されました。

ところが現在は、現場の状況がどんどん変化する中で、臨機応変に対応していくことが求められます。現場に権限を与えてスピードよくオペレーションしなければならない。ハンコを押すだけの上司では務まらず、自分の目に見える範囲でしかマネジメントできないのではダメで、上司にはより積極的に部下に働きかける姿勢が求められます。

もちろん部下の方でも、これはちょっとまずいなという状況があれば、自分の判断で上司に相談にいくという行動が重要になります。個々が自由に働くようになればなるほど、個々のコミュニケーションのスキルが求められてくるというわけです。

聞き手・文:陣内一徳
写真:山崎智世

次回、「コクヨWORKSIGHT編集長に訊く『ここまで来た!海外オフィス最新事情』」では、海外の先端事例を通じて日本のオフィスの未来について考えていきます。

山下正太郎
Yamashita Shotaro

コクヨ入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンセプトワークやチェンジマネジメントなどのコンサルティング業務に従事し、コンサルティングを手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞」を受賞している。2011年にグローバル企業の働き方とオフィス環境をテーマとした『WORKSIGHT』を創刊する一方で、未来の働き方と学び方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.」を立ち上げ、研究という観点からもワークプレイスのあり方を模索している。2016年よりロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA:英国王立芸術学院) ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザインにて客員研究員を兼任している。