週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

経営課題を解決するファシリティ・
CRE戦略マガジン

石巻魚市場 須能邦雄社長に訊く「被災地復興に新しい魚市場をどう活かすか」

石巻魚市場須能社長に訊く「被災地復興に新しい魚市場をどう活かすか」

東日本大震災の津波による全壊から4年後、新たに完成した石巻市水産物地方卸売市場。新施設は、国際的な食品衛生管理方式「HACCP(ハサップ)」に対応する高度衛生管理型の魚市場です。この施設を石巻の復興にどう役立てていくのか、石巻魚市場の須能邦雄社長に訊きました。

安心・安全で、開かれた魚市場へ

新施設はHACCP(ハサップ)にも対応する施設ですね。

日本はすでに人口減少時代に入り、国内マーケットは縮小傾向にあります。しかし、外国では魚食や和食が健康に良いとブームになっている。これからは、海外市場を視野に入れた輸出戦略を立てていかなければなりません。

そのためには、HACCP認証を取得することが大前提です。じつは、私は20年も前からすでにこうした考えを持っており、HACCPに対応した施設建設を構想していました。

今回、図らずも震災復興事業の一貫としてHACCP対応の施設が実現しました。後は運用面で、関係者とともに新しい衛生管理のルールをつくり上げ、認証取得を目指します。ただし、いきなり厳しいルールを適用したのではうまくいかないでしょう。皆がついて来られるペースで少しずつ衛生管理を底上げし、最終的にHACCP認証という目標に到達すればいいと考えています。


魚市場は石巻市の所有ですが、使用者の立場から新施設に何を求めましたか。

真っ先にお願いしたのは、建物と駐車場をペデストリアンデッキでつなぐことです。というのは、旧施設の時代に、間の道路で2回の交通事故があったからです。新しく市場をつくるときには、とにかく第一に、市場に来る人たちが道路を渡らずにすむようにしたいという強い思いがありました。

ペデストリアンデッキ(画面左奥)と「空中水族館」。ペデストリアンデッキ(画面左奥)と「空中水族館」。

2つめは、管理棟の壁に大きなクジラの絵が描いてあるでしょう? あれです。私はこのまち全体を「空中水族館」にしたいと思っていたのです。市場やそれぞれの水産加工場にいろいろな種類の魚の絵を描いて、訪れた人たちに見て歩いてもらう。そうすれば、「水産のまち」をアピールできるし、子どもたちも喜ぶだろうと。金華山への渡し口である鮎川町が近代捕鯨の発祥地であることにちなんで、魚市場には15mのミンククジラを描いてもらいました。


今回、魚市場が生まれ変わって素晴らしい施設になり、これまで「汚い、キツい、臭い」の3Kと呼ばれた水産業のイメージが、「きれい、カッコいい、臭くない」に変わった。これなら、若い人たちもここで働きたいと思ってくれるでしょう。

そして3つめの要望が、見学者通路を設けてほしいということ。国内外の観光客に開かれた魚市場にしたいと考えたからです。

2階には見学者通路が設けられた。2階には見学者通路が設けられた。

新施設をイメージ向上と子どもたちへの食育の拠点に

石巻の魚の「ブランド化」にも注力されていますね。

震災前から、石巻魚市場に水揚げされ、独自の基準を満たしたサバを「金華さば」などとして、「金華ブランド」を打ち出してきました。「金華」は英語で言えば「ゴールデンフラワー」、漢字も左右対称で字面がいい。今では東京の築地市場では、1.5kg級の「金華さば」がおよそ2万円で取り引きされています。テレビで紹介されたおかげもあり、ブランドが全国的に知られるようになってきました。

接岸するサバ漁船。接岸するサバ漁船。

幸か不幸か、津波のせいで宮城県や石巻市の名称も有名になったので、最近ではギンザケを「宮城金華ぎん」、カツオを「石巻港金華かつお」という具合に、ブランド名に加えています。

新施設に見学者通路を設けてもらったのも、ブランドイメージを上げるのが狙いです。きちんと衛生管理をした施設で、素早く処理した安全安心な水産物を送り出しているということをぜひ多くの人に見てもらいたい。

生で食べる魚を生のまま売るのが日本の文化ですから、魚の扱いはもともと世界一衛生的なのです。新しくきれいで設備の整った施設ができたことで、外国の人たちにもひと目でそれが理解してもらえるようになったと思います。

水産業の将来のために、新施設をどう活用していきますか。

これから、次世代を担う若い人たちに向けた啓蒙活動に力を入れていきます。新施設に見学者通路を設けたのは、そのためでもある。見学に来てもらって、子どもたちに魚を触らせたり、海水でつくった氷を食べさせたりして、とにかく水産業に親しみをもってほしいと思っています。

石巻市のほうで、魚市場の隣に水産振興総合センターをつくってくれました。そこには調理室もあります。今の子は「魚離れ」と言われるけれども、獲れたての新鮮でおいしい魚を食べれば、変わってくれるかもしれません。調理実習で使う魚は、私たちが提供します。

素晴らしい施設として復活したこの魚市場を拠点として、石巻の水産業の復興に尽力していくつもりです。

聞き手・文:三上美絵
写真:新良太

須能邦雄
Kunio Sunou

1943年茨城県生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)を経て、大洋漁業(現・マルハニチロホールディングス)で母船式北洋サケマス漁業の船団長やシアトルとサハリンの駐在を経験。2001年から石巻魚市場株式会社代表取締役社長。