マドモアゼル・ユリアさんに訊いた「温故“愉”新の着物サステナブル術」
DJ、シンガー、モデル、執筆家……。多彩な顔を持ち、幅広いシーンを個性豊かな着物姿で魅了し続けているマドモアゼル・ユリアさん。日本を拠点に海外でも活躍する〝着物ファッショニスタ〞と、山下PMC 社内屈指の着物愛好家である丸山社長が着物のサステナブルな未来について、互いの想いを通い合わせた。〝お洒落れ女子トーク〞に花を咲かせながらも、話題は着物と建築の関係性から変容する伝統のあり方、各々の使命へと発展していく。
『unsung heroes』vol.27
和洋折衷のハイカラな時代を映した着物と建築
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丸山
着物でDJパフォーマンスをされたり、パリコレのオーディトリアムでも着物を纏まとったり。ユリアさんのスタイリッシュな姿をいつも楽しく拝見しております。着物に惹かれるようになったきっかけを教えてください。
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ユリア
ルーツは、祖母や母にあります。祖母は石川県で美容室を経営し、婚礼の着付けや花嫁さんの髪結いを手がけていました。その薫陶を受けた母は、ファッションのスタイリストを経て現在は着付け講師をしています。幼少期から着物に触れながらも、海外のカルチャーに憧れ、20代の初めは洋服の世界に身を置いていました。
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丸山
ファッション業界で流行を追いかけていたのですね。
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ユリア
個人的には好きなものが変わらなかったので、移り変わりの激しいファッションの世界に、次第に違和感を持つようになりました。それに対して、着物は形も定型で、文様も千年以上前のものが現代まで受け継がれています。海外での活動が増えるに従い、日本を客観的に見つめるように。自国の文化を学びたい気持ちが高まり、20代後半に京都芸術大学に入学して、明治時代の日本文学を学びました。そこから、グッと着物への興味が深まりました。丸山さんが、着物に惹かれた理由は何でしょう。
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丸山
私の母や祖母の時代は、着物が日常。やはり20代の後半に、親戚中の着物簞笥が私の手元に集まった際、大正時代に新聞記者をしていた女傑とも言える祖母の姉の泥大島に釘付けに。今でも新鮮に感じられるほど、その柄行きのモダンさに魅了されました。祖母の姉から祖母へ、そこから母を経て私へ。4代にもわたって受け継がれるなんて、洋服では考えられません。そのときに「着物って面白い!」と感じ、すっかり引き込まれてしまいました。
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ユリア
明治・大正時代の着物はハイカラな柄行きが多いですよね。私も明治文学の流れから、アンティーク着物に心酔。色と色がせめぎ合う独特の配色や、車やバレリーナといった意表を突く西洋のモチーフ使いなど。エネルギッシュな文明開化の息吹が、着物をキャンバスとして、遊び心たっぷりに描かれている表現力に圧倒されました。
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丸山
その時代は、建築業界も同じことが言えます。〝擬洋風"と呼ばれ、見た目は洋館なのに、スケールやディテールに日本の職人ならではの繊細な細工や手技が用いられていました。違和感を持つけれど、それが妙に可愛らしく心惹かれます……。
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ユリア
江戸の人が西洋のいいところを見よう見まねでつくった感があります。頑張ったけど、どこか変という感覚ですよね(笑)。
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丸山
そうです、そうです(笑)。
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ユリア
洋をベースに和の要素を秘めているケースもあれば、その逆もある。時代がドラスティックに変わる文明開化のミックス感は、現代にも通じるものがあると共感を覚えます。
着物は想いを伝えるカンバセーションピース
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丸山
ところで、今日のユリアさんの装いについて、伺えますか。
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ユリア
こちらは、八王子で5代続く江戸小紋の工房で、職人さんと何度も相談しながら誂えた波の小紋です。通常は浴衣に用いられる大胆な柄行きの型紙を、あえて着物に用いて、私らしい一枚に。単衣仕立てのため、裏にも弁柄色を施していただき、江戸の"裏勝り"な美意識を演出しました。着物が波の柄なので、アンティークの帆船の帯留めを合わせています。
今日は、企業の社長様とお会いするので「時代の荒波をくぐり抜けて前へ進む」というメッセージも込めてみました。 -
丸山
それはうれしい! 着物はまさに"カンバセーションピース"ですね。昔の方は、言葉にしなくとも、装いからさりげなく贈られる心を感じ取ったと言いますから、そこには日本人の美学が息づくと同時に、それを読み解く教養も試されたのでしょう。私の業界は建物が完成した際のオープニングセレモニーが一番の華やかな見せ場。そんな時こそ、着物を着て、建物と関係性のある色や文様を纏い、セレブレーションの気持ちを表現します。
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ユリア
その着こなしはパーソナリティそのもの。着物は、帯や帯留め、半衿から簪まで……。コーディネートするアイテムが洋服よりも多層的だからこそ、まるで自分がデザイナーになった気持ちでどんな物語も紡げます。だからファッションが好きな人こそ、絶対に着物にハマると思います。私がまさにそうでした。八掛や羽裏など、見えない部分にまでストーリーを秘めることができるから、着物は奥深くて、楽しい!
晴れの舞台で自分らしさを主張できる最強のカード
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丸山
私の着物人生の中で最も思い出に残っている場面は、2019年5月にベルサイユ宮殿で行われたプリツカー賞の授賞式です。ドレスコードは当然ながらブラックタイ、日本から招待された女性のほとんどは着物でした。海外の来賓の中にも溶け込むように、艶やかな華文の訪問着を誂えたのですが、この時ほど着物が自信を与えてくれると思えた瞬間はありませんでした。
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ユリア
わかります! 私もパリコレの会場など、洋のシーンにこそ、ご招待いただいたブランドのブローチやスカーフを着物のアクセントに加えること楽しんでいます。洋服では海外のモデルさんと勝負をするのは難しいけれど、着物で会場を出ると、ファッションウオッチをしているパパラッチたちからも評判がよくて(笑)。
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丸山
洋服と違って形は同じなのに、着物には単に民族衣装というだけではない表現力がありますね。どんな場面なのか、お会いする方にどんな気持ちを伝えたいか……。そうした細やかな心遣いを装いに込められる着物は、日本人が誇れるものであり、日本文化の真髄なのだと感じます。
伝統を礎に変容し続けるサステナブルな着物像
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丸山
実は今日のワンピースは、母の羽織をリメイクしたものです。
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ユリア
気づきませんでした! とってもモダンな柄行きですね。
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丸山
先ほど話題に上がった祖母の姉の泥大島のように幾世代にもわたり受け継がれる着物は、そもそもがサステナブルです。羽織から誂えたワンピースは、当然シルク100%なので着心地も抜群。加えて、このレインボーカラーのようなデザインがSDGsのシンボルに似ているため、企業の代表としてメッセージ性のある一枚として愛用しています。
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ユリア
確かに、言われてみるとSDGsのマークのようですね(笑)。着物は染め替えたり、別のアイテムに仕立て替えたり、バトンを受け取った世代がそれぞれに工夫を凝らしてお洒落を楽しんできました。時代に合わせて変容してこそ、生きた伝統と言えるのではないでしょうか。私がアンティーク着物の中で好きなジャンルの中に"お散歩着"というものがあり、着古したり飽きてしまった小紋に刺繡や柄を足し算して、お洒落の変化を楽しんだものとして発展してきました。実は、今日の小紋もその"お散歩着"のように、いずれは刺繡を加えて新たな表情で装いたいと、今から楽しみにしています。
着物文化をサステナブルに
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丸山
そんな将来的なことまで見据えて誂えたのですね。この先、未来へと着物を残すために、どんなことが必要だと思いますか?
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ユリア
着物は格好いい! と思ってもらわないことには、何も始まらないと思います。現在、ライフワークの一つとして、若い世代の着物の職人を訪ね映像で発信しているのですが、私のフィルターを通すことで遠かった存在に対して興味を持ってもらうことが自分の役割だと考えています。また、義務的に着物と接するのではなく、自発的に好きになってほしいので、私の着付けの教室では、その方に似合いそうな着物を毎回私がコーディネートしています。着物によって自分が素敵に見える成功体験は大切です。着る人が増えて、着る機会が増えることこそ、着物文化をサステナブルに残すことになると思います。
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丸山
建築コンサルティングという立場からすると、日本の織物を壁紙や家具、アートとして残すことができるのではないかと考えています。コンクリートや鉄の塊である無機質な建物に、日本の織物の工芸的な価値によって命を吹き込むことで、着物の産地を守るお手伝いができれば。さらに、その建物のオープニングに、リンクするような着物で出席できればこれほどの喜びはありません。個人的には、もっと何気ない日常のシーンで着物を着る機会を増やしたいと思っています。
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ユリア
着物はクールで格好いい! と多くの皆さんに感じてほしいです。