建設市況レポート(25年06月)
お金とモノと人
コメ価格の高騰が世間を騒がせていますが、これも物価上昇を象徴する事象のように思えます。
長らくデフレが続いた我が国で、直近のインフレ率は欧米を上回るほどの上昇を見せています※1。
ところで、建設工事においては「材工」と呼ぶ 材料費と工賃とがない交ぜになった単価設定が特徴です。
今回、試しに「材(材料費)」と「工(工賃)」とを切り分けて見てみます。
建築費指数(=材料費+工賃)と、労務費を含まない主要建設資材価格(=材料費のみ)の指数とを重ね合わせてみました。
2010年を基準とした各指数の推移を鉄骨造、RC造それぞれ図表1、2に示します。
図表1「建設費指数と建設資材価格指数の推移」(鉄骨造・長期)

図表2「建設費指数と建設資材価格指数の推移」(RC造・長期)

上昇率が一際大きくなるのは2021年後半、コロナ禍後半の時期以降となっています。
直近の5年間にフォーカスしたものを図表3、4に示します。
図表3「建設費指数と建設資材価格指数の推移」(鉄骨造・長期)

図表4「建設費指数と建設資材価格指数の推移」(RC造・長期)

これらを見ると、資材価格の上昇に建築費指数が追い付いていないことが見て取れます。
資材価格だけを見れば、直近では落ち着きを見せているようにも見えますが、だからといって建設費が落ち着くという見通しは早計です。
これまでにコラムにも記載してきた下記の建設業界の情勢が、簡単な見通しを許してくれません。
- 長期的な担い手不足(建設市況レポート 24年5月)
- ゼネコン・サブコンの手持ち工事の積み上がり(建設市況レポート 25年5月)
- 労務費の上昇(建設市況レポート 25年3月)
- 大型再開発、大規模なデータセンターや半導体工場等の大型設備投資の継続(建設市況レポート 24年6月)
- インフレの継続
- トランプ関税や軍事衝突に伴う不透明感
逼迫する建設業界の情勢において、心なしか最近は現場でのトラブルを目にすることが増えてきたように思います。
組織で建設工事にあたるとしても、突き詰めればそれは一人一人の判断や技術の積み重ねとなります。
建設費の高騰はなかなか収束しませんが、国交省において労務費の基準が策定されつつある現在、労務費や賃金の適切な支払いを通じて技術者の価値を認めた上で、責任感ある仕事を期待したいものです。
■図表1-4諸条件 (日経NEESより 2010年比、建築費指数2010年=100)
<RC材料>
(1)セメント バラ 東京 普通ポルトランドセメント、バラ積み、特約店卸(週次価格月間終値)
(2)生コンクリート 建築用 210キロ強度 東京、スランプ16~21センチ、工場から1時間前後の現場持ち込み、大口需要家向け(月次価格)
(3)着通合板Ⅱ類 4ミリ 東京、 F☆☆☆☆、問屋卸、 3×6板 (週次価格月間 終値)
<鉄鋼材料>
(1)異形棒鋼16ミリ 東京、 SD295A、問屋仲間、置き場積み込み、大口需要家渡し(日次価格月間終値)
(2)山形鋼6×50ミリ 東京、問屋仲間、置き場積み込み(日次価格月間終値)
(3)H形鋼5.5×8×200×100ミリ 東京、問屋仲間、置き場積み込み(日次価格月間終値)
(4)鉄スクラップ H2 東京、メーカー買値、現金(週次価格月間終値)
※1消費者物価指数(総務省統計局)参照
資材、建築費指数の傾向
鉄鋼系資材では構造用角形鋼管が下降、その他は横ばいです。
RC系資材では、生コンクリート、セメントが急騰しています。
建築費指数はS造が前月から0.8P、RC造が前月から0.7Pそれぞれ上昇しています。
資材、建築費指数の推移(鉄鋼系)
出典:日経NEEDS / 建設物価調査会
建築費指数:2015年比/ それ以外:2011年4月比
推移傾向
上昇
●建築費指数 東京 事務所 S 建築
現状維持
- ●異形棒鋼16ミリ 東京
- ●山形鋼6×50ミリ 東京
- ●H形鋼5.5×8×200×100ミリ 東京
- ●熱延鋼板1.6ミリ 東京
- ●鉄スクラップ H2 東京
資材、建築費指数の推移(RC系)
出典:日経NEEDS / 建設物価調査会
建築費指数:2015年比/ 上記以外:2011年4月比
推移傾向
上昇
●建築費指数 東京 事務所 RC 建築
上昇
- ●セメント バラ 東京
- ●生コンクリート 建築 180キロ強度 東京
現状維持
- ●普通合板Ⅱ類 4ミリ 東京
-
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