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日本のモノづくりの未来

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まちづくりのインフラとしてのEV(電気自動車)

EV(電気自動車)をはじめとするE-Mobilityは、今後の経済発展の有望な事業領域として、既にグローバルに認知されており、世界経済のなかで競争優位な地位に立ち続けるためには取組を加速させる必要があります。日本では、ハイブリッド車との比較など、脱炭素に対する有効性の議論が未だに続いていますが、脱炭素とは別の次元でビジネスの勝敗は決しつつあるようです。これが、5月12日(金)~13日(土)にかけて新宿三角ビル広場で開催されたBicycle E-Mobility EXPOに出展し、多くの関係者の皆さんと日本のモビリティについて議論して得た私の実感です。

 

Bicycle E-Mobility EXPO-1

Bicycle E-Mobility EXPO-1

Bicycle E-Mobility EXPO-2

Bicycle E-Mobility EXPO-2

グローバルな視点で、最もたくさん売れる高額の工業製品は今も昔も自動車です。とっくの昔に国境を超えている自動車のサプライチェーンにおいて、最初はアメリカが、次に日本が主導権を握ることに成功し今日に至りましたが、次の主導権争いはEVをめぐるものになったのだと考えます。
パーソナルな交通・移動手段の形式は、都市の構造を規定します。自動車の普及が日本の街と風景を変えたように、モビリティの主役のEV(電気自動車)への移行がもう一度日本のまちづくりを変えようとしているのです。私たち建設関連分野の人間にとっても、無視できる動きではありません。

日本がモノづくりの国だったころ

「世界の中での日本は、何で稼いでいるでしょうか」
これまで、沢山の建設業界のリーダークラスの方にこの質問してきましたが、ほとんどの方は「貿易」と回答されます。
正解は第一次所得収支です。経常収支の黒字に占める貿易収支と一次所得収支の割合は、2000年頃を境に逆転しているのですが、ほとんどの方の認識が、昭和末から平成初期までに学校で教えられた知識からアップデートしていないとすると大きな問題です。
さらに大きな問題は、それがなぜ起こったのか、そしてこれからの日本は何を目指していくべきか、ということだと思います。

日本の国際収支の変化

日本の国際収支の変化

今年の2月、YS-11以来の国産旅客機として期待を集めたスペースジェット(旧称MRJ)の開発中止が発表されました。2013年の初号機納入予定が、6回の計画遅延を繰り返した末でのできごとです。
私たちは、学校で日本は貿易大国であると教えられると同時に、日本はモノづくりの国であるとも刷り込まれてきました。その確かな根拠と感じられた、自動車、新幹線、電気製品、半導体、造船、建設などの当時の隆盛のうちのいくつかは、海外にお株を奪われ過去のものとなりましたが、イメージだけは強固に残っています。
しかし今日、建設業界でも、日本のモノづくりが揺らいでいることを実感します。この状況をよくよく観察してみると、2つの原因に思い当たります。一つは、これまでの「モノづくり」を支えてきた品質管理やチームビルディングなどのスキルが継承されなくなったこと。そしてもう一つは、DXや法令などの産業環境の変化によってこれまでの方法のコピーが通用しなくなったことです。

技術で勝って、ビジネスで負けた、という言い訳

先に挙げた、現在の日本の稼ぎ頭である第一次所得収支とは、何でしょうか。ざっくりまとめると、海外への投資に対する利子や配当です。そしてその投資の原資はかつて貿易で稼いだお金です。日本のかつての貿易黒字の象徴的商品であった「自動車」の置き換えが進むということはどういうことなのか、私たちは手をこまねいているわけにはいきません。
現在、日本の成長分野として「観光(インバウンド)」や「スポーツ・エンタテーメント」、などが有力視されていますが、規模として日本経済の屋台骨となりうる候補は、やはり二次産業分野でしかありえません。今使っているお金はすべて、かつての貿易大国だったころに「モノづくり」で稼いだお金が原資なのだと言ってもよいでしょう。
しかし、かつての日本は「モノづくり」を武器に世界と渡り合いましたが、これからの日本は何で勝負するのでしょうか
半導体、液晶、スマホ、家電製品と製品づくりではこの数十年、負け続けですが、EV分野では好調なスタートを切ることができました。何と言っても日本では充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」をユーザーサイドから策定したということは画期的でした。後発の欧州のCCS規格が自動車メーカー主導で策定されたこととは対照的です。CHAdeMOで規格ならばV2X(ビークル・ツー・エックス)、自動車とさまざまな装置との間で相互電力融通が可能で、CCSよりも信頼性が高く、カタログスペックだけが高いCCSと比べ、実質性能でも優位です。
しかし、この数年、グローバル市場ではCHAdeMOは苦戦中です。CHAdeMO規格の魅力的な新車がこの数年、開発されてこなかったことが大きな要因の一つなのだそうです。その間に、欧州のメーカーによってCCSは急速に普及しました。「技術で勝って、ビジネスで負けた」、これまでに何回も聞かされてきた言い訳を、今度こそ聞かないで済めばよいのにと思います。

バベルの塔が建たなかったわけ

地は同じ発音、同じ言葉であった。
時に人々は東に移り、シナルの地に平野を得て、そこに住んだ。
彼らは互に言った、「さあ、れんがを造って、よく焼こう」。こうして彼らは石の代りに、れんがを得、しっくいの代りに、アスファルトを得た。
彼らはまた言った、「さあ、町と塔とを建てて、その頂を天に届かせよう。そしてわれわれは名を上げて、全地のおもてに散るのを免れよう」。
時に主は下って、人の子たちの建てる町と塔とを見て、
言われた、「民は一つで、みな同じ言葉である。彼らはすでにこの事をしはじめた。彼らがしようとする事は、もはや何事もとどめ得ないであろう。
さあ、われわれは下って行って、そこで彼らの言葉を乱し、互に言葉が通じないようにしよう」。
こうして主が彼らをそこから全地のおもてに散らされたので、彼らは町を建てるのをやめた。

これは、旧約聖書の創世記第11章の有名なバベルの塔の下りです。

バベルの塔 ブリューゲル画

バベルの塔 ブリューゲル画

目的、人員、材料、時間、技術のすべてが揃っていたのになぜ、バベルの塔を建てることができなかったのか。それはコミュニケーションとそこから生まれる組織が欠けていたためであると、IBMのシステム360を開発したフレデリック・P・ブルックス、Jrは述べています。
私は、現実のコミュニケーションと組織の組成については、旧約聖書とは違って訓練によって習得すべき技能であってスキルであると考えています。それは「マネジメント」とよばれるスキルです。これまで日本では、そのことを明確にしてきませんでした。「やる気のあるヤツは背中を見て盗め」というわけです。私がみるところ、大学でも体系的に研究するところは少なく、講座もほとんど見当たりません。IT業界では、プロジェクト・マネジメントが業務の成果を左右することがいち早く認知されてきましたが、その影響範囲は限定されているようです。
作れば売れる時代ではなくなった今日、多産業が強調して、新しい成長分野でバリューチェーンの主導権を握っていくためには、変化に応じて新しいモノづくりのコミュニケーションや仕組みを生み出す必要があります。次世代の「モノづくり」を実現する新しいコミュニケーションと仕組みづくりに向けて、「マネジメント」も進化させていく必要があると考えています。

 

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